私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

154. 男たちの談話② side アイザック

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登場人物紹介にマルクさんのイラスト追加しました。
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「しかも王宮と同じセキュリティなら余裕で忍び込めるとか……国防に自信がなくなるよ。実際二人は易々と王太子の執務室に忍び込んでるしな」

「そこはまあ……経験の差だな。それだけバレンシア王国が平和だったってことだ」

「いいことのはずなんだが、なんか複雑だな」


(つくづく国力の差を痛感する……絶対にグレンハーベルを敵に回すことはできない)


「こちらは悪用する気はない。あくまで黒幕の調査だ。心配なら皇帝を通して契約書を交わそう」

「そうしていただけると有難い」

「マルク、すぐに手配してくれ」

「御意」


窓際に立ち、マルクが魔力を練ると手のひらから魔鳥が現れ、空高く飛んで行った。


「魔塔ではどんな研究をしているんだ?」

「魔道具の開発だよ。この国にある魔道具のほとんどは、魔法士団の管理の元に販売されている。叔父は魔道具オタクと言ってもいいほどの魔道具好きでね。外遊するたびに他国の魔道具を輸入したり、研究材料にして自国用に開発したりしているんだ」

「彼は我が国にもよく来ていましたからね。団長とジルとも研究の話で盛り上がってましたし」

「自国の魔法技術の向上に熱心な男だとは思っていたが、背景を知ると一気に胡散臭くなってきたな」

「うちに来た時に邪神教と繋がったのかもしれませんね」

「神具というものが実在するなら、叔父が飛びつきそうな案件だな」


「魔草の密輸にも関わってるんじゃないか?公爵一人で国内全ての検問所を手中に収められるとは思えない。だが王族からの命令なら、邪神教の信者だろうが密売人だろうが、命令一つで要人として簡単に通せるだろ」

「確かに……それなら色々と辻褄が合うな」


すべて仮定でしかないが、マッケンリー公爵の犯罪の足取りがここまでつかめないとなれば、やはり裏で叔父が手を回しているのではという疑念が消えない。

「検問所の役人が買収されているか、王弟の配下のものが混じっているのか調べる必要があるな。アイザックの方で王弟に知られずに調べることは可能か?」

ノアの問いにアイザックは眉間にしわを寄せる。

「正直難しいといったところだな。俺の部下は優秀だが、叔父の配下の者も互角と言えるほど優秀な者が多い。王太后と叔父の因縁を詳しく調べるのも相当手がかかったしな」

(叔父の抱える影は魔法士上がりの連中で、代々国王と王太子に仕えている影とは毛色が違う)


「叔父がどんな魔道具を所有しているかわからないし、バレる可能性は五分五分といったところか」

「ちょっとリスキーですね。魔塔よりそっちの方がバレたくないなぁ。密入国者がわかれば密輸捜査がだいぶ捗りますからね」


三人で良案に頭を悩ませていると、ノアが閃いたように声を出した。


「そういえば、そろそろジルがこっちにまた来るって言ってたよな」

「あ、そういえばそうですね。なるほど、ジルに入国がてらやってもらいますか」

「ジル殿に? いや……でもそれは……」


「魔道具ならアイツに任せておけば間違いない。なんとかしてくれんだろ。よし、そっちはジルに丸投げだ」

「そうですね」

「…………」


アイザックは知らぬ間に大役を任されたジルを哀れんだ。






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グレンハーベル帝国。



「へぶしっっ」

魔法士団長の執務室に、ジルのくしゃみが響き渡る。


「なんだジル、風邪か? ケッ、軟弱な奴め。このへなちょこ童貞野郎が」

「誰が童貞だ。くしゃみ一つで上司のハラスメントが酷い。僕に当たらないでくれます?」

「だって俺もバレンシア行きたい! ノアの初恋模様を観察してニマニマしたい! マルクとお前ばっかりズルい!」

「ニマニマするためじゃなくて仕事で行くんですけど?」


四十歳の駄々っ子に残念なものを見る眼差しを送りながら、ジルはむず痒くなった背中をかく。


「でも何だろうな。なんか嫌な予感がする。団長と副団長に無茶振りされる前触れのような気がしてならない」

「よし!こうなったらザックに団長代理をお願いして俺も行こうっと。準備準備~♪」

「ちょっと!サラッと辞令用の魔法契約書出さないで下さいよ!ザックが心労で禿げるからやめてあげて!」

「ジル。部下を育てるのも上司の仕事なんだよ」

「いやキリッとした顔してても、やってることパワハラだから。大体、団長が国を出るなんて陛下が許すはずないでしょ! バレたらそれこそ陛下代理の命令出されて陛下が副団長のところ行きますよ」

「ぐぬぬっ、ジェフリーならやりかねないな……」


それでも隣国に行きたいと駄々を捏ね続ける団長をなだめていると、突然廊下が騒がしくなった。

そして忙しなくドアを叩かれる。入室の許可をすると、青褪めた顔の部下が入ってきた。


「団長! 第一魔法士隊のザック様が戻りました!」

「……何があった」

「商人に扮して魔草取引の商談に潜入したところ、敵に正体がバレて戦闘になり、重度の火傷を負いました……」

「なんだと!?」



急いで医務室に向かうと、顔から腰にかけて右半身が赤く爛れているザックと、同じく上半身が焼け爛れたアルベルトの姿があった。

他にも痛みに喘ぎ苦しんでいる者たちがいて、慌ただしく治癒魔法士たちが治療をしている。


「ザック! 聞こえるか!? しっかりしろ!」

「団……長……」

「誰にやられた。邪神教の奴らがいたのか?」

「……べ……ラ」

「ベラ?」


「イザ……ベラに……やられ、ました」

「イザベラ!?」




数年前にバレンシア王国から消えたイザベラが、グレンハーベル帝国に潜伏し、帝国魔法士団の隊員を攻撃した。


その知らせはすぐに、ノアたちの元へと送られた。






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ザック→裏皇家ナンバー3。ノアの部下。

アルベルト→エイダンの元義弟で、現在は帝国商人。


詳しくは登場人物紹介でどうぞ。

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