私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

文字の大きさ
上 下
151 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

145. どうして彼が side リリティア

しおりを挟む

リリティアは母子家庭に生まれ、母は自身が八歳の時に過労で亡くなった。その後、身寄りのないリリティアは北部の孤児院に引き取られた。

そして、併設された教会の聖堂で女神像を見た時に、前世の記憶を思い出した。

この世界が課金するほど嵌まっていた乙女ゲームの世界であり、自分がその主役のヒロイン──リリティアであること。


それに気づいた時、リリティアは笑いが止まらなかった。

今までずっと違和感があった。愛すべき母に愛着が持てず、貧乏な暮らしに馴染めなかったのはこれが原因だったのだ。

前世では割と広めのマンションに住み、両親がいて、衣食住に困ることなどなかった。友達や恋人に囲まれ、それなりに楽しい学生生活を送っていたと思う。

死因は思い出せないが、不幸ではなかったはず。


きっと無意識下でその記憶があったから今世の生活に馴染めなかったのだろう。

リリティアとしての生に希望を見出せず絶望していたが、大好きな乙女ゲームのヒロインだなんて、記憶を取り戻した今ではご褒美でしかない。

この世にリリティアとして転生させてくれた神に心から感謝した。


それからリリティアは、ゲーム通りヒロインとして過ごした。孤児でも腐らず、いつも笑顔で下の子供たちの面倒を見る心優しきヒロイン。それがリリティアだ。

内心は面倒くさくて仕方なかったが、これから迎えるイケメンたちとの恋愛フラグのためだと思えば、どうということはない。


乙女ゲーム『君に捧ぐ愛奏曲~精霊の愛し子~』の攻略対象者は全部で五人。

優秀な兄に長年コンプレックスを抱いている第二王子。

束縛してくるメンヘラ婚約者に疲弊している騎士団長子息。

切れ者と尊敬される宰相に、能力を認めてもらえないジレンマを抱える宰相子息。

魔法の才に恵まれて挫折を知らず、共感力に欠けるために人が離れていく孤独な魔法士団長子息。

母親が自分を捨てて男と逃げたことでトラウマを抱え、自己肯定感の低い大司教子息。


ヒロインであるリリティアは、彼らが負った心の傷を癒やして愛を育み、精霊の愛し子として邪神を封じる。

その後に愛する人と結婚して幸せになる恋愛ファンタジーゲームだ。神絵師によるスチルと修行システムというRPG要素が加わったことで、女子に爆発的な人気が出てコミカライズまでされていた。


リリティアの一番の推しは騎士団長子息のルカディオだ。その次に好きだったのは魔法士団長子息のセナ。

二人とも強くて、男らしくて逞しい体格をしていた。そしてリリティアを深く愛し、命をかけて守ってくれるのだ。

第二王子のオスカーやナイジェル、テレンスの三人は男らしいというよりは綺麗な男性で、ツンデレ、ヤンデレ、純粋キャラの枠に当てはまる。


メインヒーローは第二王子だが、リリティアはルカディオとセナの方が好きだったので、二人のルートを課金して何度もプレイした。

ルカディオとは子供の時に一度だけ会うことができる。その出会いが浄化魔法の目覚めに繋がり、リリティアは聖女に認定されるのだ。

その来る日に備えて精霊と契約を交わしたいのだが、毎日のように孤児院の裏手にある低山に出かけているのに、精霊らしき者に一度も出会えなかった。

ゲーム通りにリリティアとして過ごしているのに、一体どうなっているのか。精霊と契約できなければ魔力が低いままだし、浄化魔法を授かれない。


焦りが募り、湧き起こる苛立ちを抑えながら子供たちの世話をした。そしてなんの動きもないまま、とうとう初のイベントが始まってしまった。

初めて見る少年のルカディオはとても可愛くて、かっこよくて、実物を見て感激してしまった。


ルカが欲しい──そう思うのに時間は掛からなかった。

精霊と契約をしていないせいでイベント内容が少し変わり、ルカディオが魔力不足で倒れたりなどのハプニングはあったが、ちゃんとゲーム通り二人の出会いイベントをこなし、文通での繋がりを持つことが出来た。

あとは学園入学まで、病んだヴィオラ婚約者に苦しめられるルカディオをひたすら慰めるだけ。


そしてゲーム通り男爵家に引き取られ、待ちに待った学園の入学式を迎えた。

ルカディオとも再会を果たし、ゲームのスチル通りにかっこいい男の人に成長していた彼を見て、リリティアは胸が高鳴った。


セナや、第二王子たちとも無事に出会いのイベントをこなし、攻略対象と交流を図る。

驚いたのは、ゲームではそんなに好きなキャラではなかった第二王子たちが、実物はすごい素敵で皆捨てがたくなってしまったこと。


ルカディオかセナルートに進もうと思っていたが、全員がイケメンで目移りしてしまい、それなら逆ハールートを狙おうと決めた。

あのゲームは全員のスチルを全回収した上で、ノーマルエンドのイベントをこなし、高額の課金アイテムを使うことで逆ハーエンドのルートが解放される。


前世で大金注ぎ込んで逆ハーエンドを迎えたリリティアには、それに至るまでの手順が頭の中に既にあった。

ほくそ笑みながら彼らとの交流を深めていくと、ゲームのシナリオとの齟齬に気づく。


まず、ルカディオが騎士団長の子息ではなくなっていた。

今の騎士団長はレイガルドという人物で、ルカディオの後見人をしているという。

そして、時折り難癖をつけてくる悪役令嬢エリアナの取り巻きの中に、ヴィオラの姿がない。


ルカディオに聞けば、なんと魔法士科にいると言われた。
魔力無しのヴィオラがどうして魔法士科に——?


そしてセナ曰く、オルディアンの双子兄妹は美人で優秀だと噂の的になっているという。


(双子兄妹……?)



おかしい。

そんなはずはない。



焦燥感に駆られ、セナにお願いして魔法士科の校舎に連れて行ってもらった。


そこで見たのは、確かに麗しい双子の兄妹。



どうして──

なぜ──




こんなことあってはいけない。



どうしてクリスフォードが生きているのか。


彼は幼少期に病で死ぬはずだったのに──









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。 「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」 彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。 (なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語) そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。 (……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの) 悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?

処理中です...