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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
145. どうして彼が side リリティア
しおりを挟むリリティアは母子家庭に生まれ、母は自身が八歳の時に過労で亡くなった。その後、身寄りのないリリティアは北部の孤児院に引き取られた。
そして、併設された教会の聖堂で女神像を見た時に、前世の記憶を思い出した。
この世界が課金するほど嵌まっていた乙女ゲームの世界であり、自分がその主役のヒロイン──リリティアであること。
それに気づいた時、リリティアは笑いが止まらなかった。
今までずっと違和感があった。愛すべき母に愛着が持てず、貧乏な暮らしに馴染めなかったのはこれが原因だったのだ。
前世では割と広めのマンションに住み、両親がいて、衣食住に困ることなどなかった。友達や恋人に囲まれ、それなりに楽しい学生生活を送っていたと思う。
死因は思い出せないが、不幸ではなかったはず。
きっと無意識下でその記憶があったから今世の生活に馴染めなかったのだろう。
リリティアとしての生に希望を見出せず絶望していたが、大好きな乙女ゲームのヒロインだなんて、記憶を取り戻した今ではご褒美でしかない。
この世にリリティアとして転生させてくれた神に心から感謝した。
それからリリティアは、ゲーム通りヒロインとして過ごした。孤児でも腐らず、いつも笑顔で下の子供たちの面倒を見る心優しきヒロイン。それがリリティアだ。
内心は面倒くさくて仕方なかったが、これから迎えるイケメンたちとの恋愛フラグのためだと思えば、どうということはない。
乙女ゲーム『君に捧ぐ愛奏曲~精霊の愛し子~』の攻略対象者は全部で五人。
優秀な兄に長年コンプレックスを抱いている第二王子。
束縛してくるメンヘラ婚約者に疲弊している騎士団長子息。
切れ者と尊敬される宰相に、能力を認めてもらえないジレンマを抱える宰相子息。
魔法の才に恵まれて挫折を知らず、共感力に欠けるために人が離れていく孤独な魔法士団長子息。
母親が自分を捨てて男と逃げたことでトラウマを抱え、自己肯定感の低い大司教子息。
ヒロインであるリリティアは、彼らが負った心の傷を癒やして愛を育み、精霊の愛し子として邪神を封じる。
その後に愛する人と結婚して幸せになる恋愛ファンタジーゲームだ。神絵師によるスチルと修行システムというRPG要素が加わったことで、女子に爆発的な人気が出てコミカライズまでされていた。
リリティアの一番の推しは騎士団長子息のルカディオだ。その次に好きだったのは魔法士団長子息のセナ。
二人とも強くて、男らしくて逞しい体格をしていた。そしてリリティアを深く愛し、命をかけて守ってくれるのだ。
第二王子のオスカーやナイジェル、テレンスの三人は男らしいというよりは綺麗な男性で、ツンデレ、ヤンデレ、純粋キャラの枠に当てはまる。
メインヒーローは第二王子だが、リリティアはルカディオとセナの方が好きだったので、二人のルートを課金して何度もプレイした。
ルカディオとは子供の時に一度だけ会うことができる。その出会いが浄化魔法の目覚めに繋がり、リリティアは聖女に認定されるのだ。
その来る日に備えて精霊と契約を交わしたいのだが、毎日のように孤児院の裏手にある低山に出かけているのに、精霊らしき者に一度も出会えなかった。
ゲーム通りにリリティアとして過ごしているのに、一体どうなっているのか。精霊と契約できなければ魔力が低いままだし、浄化魔法を授かれない。
焦りが募り、湧き起こる苛立ちを抑えながら子供たちの世話をした。そしてなんの動きもないまま、とうとう初のイベントが始まってしまった。
初めて見る少年のルカディオはとても可愛くて、かっこよくて、実物を見て感激してしまった。
ルカが欲しい──そう思うのに時間は掛からなかった。
精霊と契約をしていないせいでイベント内容が少し変わり、ルカディオが魔力不足で倒れたりなどのハプニングはあったが、ちゃんとゲーム通り二人の出会いイベントをこなし、文通での繋がりを持つことが出来た。
あとは学園入学まで、病んだヴィオラに苦しめられるルカディオをひたすら慰めるだけ。
そしてゲーム通り男爵家に引き取られ、待ちに待った学園の入学式を迎えた。
ルカディオとも再会を果たし、ゲームのスチル通りにかっこいい男の人に成長していた彼を見て、リリティアは胸が高鳴った。
セナや、第二王子たちとも無事に出会いのイベントをこなし、攻略対象と交流を図る。
驚いたのは、ゲームではそんなに好きなキャラではなかった第二王子たちが、実物はすごい素敵で皆捨てがたくなってしまったこと。
ルカディオかセナルートに進もうと思っていたが、全員がイケメンで目移りしてしまい、それなら逆ハールートを狙おうと決めた。
あのゲームは全員のスチルを全回収した上で、ノーマルエンドのイベントをこなし、高額の課金アイテムを使うことで逆ハーエンドのルートが解放される。
前世で大金注ぎ込んで逆ハーエンドを迎えたリリティアには、それに至るまでの手順が頭の中に既にあった。
ほくそ笑みながら彼らとの交流を深めていくと、ゲームのシナリオとの齟齬に気づく。
まず、ルカディオが騎士団長の子息ではなくなっていた。
今の騎士団長はレイガルドという人物で、ルカディオの後見人をしているという。
そして、時折り難癖をつけてくる悪役令嬢エリアナの取り巻きの中に、ヴィオラの姿がない。
ルカディオに聞けば、なんと魔法士科にいると言われた。
魔力無しのヴィオラがどうして魔法士科に——?
そしてセナ曰く、オルディアンの双子兄妹は美人で優秀だと噂の的になっているという。
(双子兄妹……?)
おかしい。
そんなはずはない。
焦燥感に駆られ、セナにお願いして魔法士科の校舎に連れて行ってもらった。
そこで見たのは、確かに麗しい双子の兄妹。
どうして──
なぜ──
こんなことあってはいけない。
どうしてクリスフォードが生きているのか。
彼は幼少期に病で死ぬはずだったのに──
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