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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

136. その糸を切ったのは side クリスフォード

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 遅くなってすみません。。
 落ち着いたので、また投稿開始します。

 毎日はちょっと無理かもですが、ゆるいペースで完結まで更新していきたいと思います。

 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼





 
 ルカディオを睨みつけていると、集団の中にいたセナがこちらに気づき、胡散臭い笑顔で手を振ってきた。

 そのせいで彼らの視線がこちらに向けられる。


 (あのバカ……本当にタチが悪いな。いろいろ察してるクセに、わざと空気読まないところがムカつく)


「……クリス」

「わかってる。挨拶して早々に話を切り上げるよ」


 第二王子の手前、無視するわけにもいかない。
 仕方なく父にともなって礼を取る。



「エイダンか。それと──息子のクリスフォードだな」

「お元気そうで何よりです。第二王子殿下」

「オルディアン伯爵家が長男、クリスフォードです」

「お前とは同級生だが、こうして言葉を交わすのは初めてだな。優秀な魔法士候補だと聞いている。その力を是非国に役立ててくれ」

「はい。そうなれるよう精進します」


 言葉とは裏腹に、クリスフォードに対する声音は冷たさを帯びていた。

第二王子──オスカー・フォン・バレンシア。

公爵令嬢のエリアナと婚約しているにも関わらず、偽聖女に懸想して周りに迷惑をかけている張本人。

 そしてその元凶が第二王子の腕にぶら下がり、怯えた目でこちらを見るあざとさに舌打ちしたくなる。

 恐らく、偽聖女を詰った時のことを第二王子に話してあるのだろう。自分に都合良く、被害者ぶって話している姿が目に浮かぶ。


 (この王子、王太子と顔そっくりだけど、中身はポンコツだな。こんなあからさまな女の媚に引っかかるとか、王族のくせにチョロすぎだろ)


「エイダン、知っていると思うが聖女候補のリリティアだ。いずれ治癒魔法の訓練の時に世話になると思う。その時はよろしく頼む」

「……ええ。うちの部下たちは優秀な治癒魔法士ばかりですから、力になれると思いますよ」

「よろしくお願いします! エイダン様!」

「……はい」


 やはりどこまでいっても非常識な女だ。

 父親世代の伯爵家当主に対して、許可なく名前を呼んだことに流石の王子たちも顔色を悪くした。

 第二王子がリリティアに注意すると、お得意の涙目で王子に謝り、腕に縋りついた。

 またくだらない茶番を見せられたことにウンザリしながらルカディオを見ると、父がいて気まずいのか視線を一切合わせようとしない。

 ヴィオラに対する態度や舞踏会用のドレスを贈らなかった件で、多少は後ろめたい気持ちがあるようだ。

 そして愛しの偽聖女が第二王子といちゃついているというのに、本人は気もそぞろでそれどころではないらしい。


 夏季休暇に入る前から、ヴィオラからの接触が絶たれたことはルカディオも気づいているだろう。最近は目が合うことすらなかったはずだ。

 そして今日のヴィオラのドレスは、ルカディオとの決別の意味を込めたデザインになっている。


 (気づいたからお前は今、焦ってるんだよな?)



 だが今更だ。
 すべてが今更。

 自分は二人の仲を取り持つ気は一切ない。
 ヴィオラを傷つけたことも、許すつもりはない。


 明日からヴィオラはきっと、婚約者に愛されない女として、女性たちに嘲笑されるだろう。

 社交界では、男に瑕疵があろうが結局女性が悪く見られる。全ては男を惹きつけられない女が悪いと。

 どちらに非があるかなど女たちには関係ない。人の不幸は蜜の味──ただそれだけのことだ。

 水面下では誰もが他人の足を引っ張ってやろうと手薬煉てぐすねを引いている。


 だからこそ過去のイザベラも、クリスフォードに毒を盛ってまで良妻賢母の自分を作り上げた。

 社交界とはそういう恐ろしいところだ。

 
 公式にリリティアが国王の庇護にあると発表された今、世話役のルカディオが婚約者の務めを放棄して彼女に侍っても、誰も文句は言わないだろう。


 そして直に、外堀は埋まっていく──


 (良かったな、ルカディオ。お前の望み通り、もうすぐヴィオラから解放されるぞ)

 あんなに盲目的に愛されているのに、自分が受けた傷だけを見て、ヴィオラから目を逸らし続けた男を見て虚しくなる。

 所詮、この男の愛はその程度だったのだ。





「クリス見てたぞ。お前モテまくりだな。明日から釣書が殺到するんじゃないか?」

 セナがまたもや空気を読まずに声をかけてくる。

「……はぁ。セナってホント余計なことしか言わないな」

「お前もホント失礼な奴だな」

「え? クリスフォード様って婚約者いないんですか!?」


 先程第二王子に注意されたばかりなのに、舌の根も乾かぬうちに許可もなく名前呼びされる。

 この女は馬鹿なんだろうか?

 全く悪びれてないところを見ると、マナーを守る気すらないのかもしれない。

 女の表情に満ち溢れている根拠のない自信は、一体どこから湧いているのだろう。呆れを通り越してもはや気持ち悪いとさえ思う。


「婚約者はいませんけど、それが何か?」


 ニッコリ笑顔で答えると、リリティアは頬を染めた。その反応に寒気がする。


「い、いえ。ヴィオラ様には婚約者がいるのに、クリスフォード様にいないのが不思議に思ったのでつい……だってとても綺麗な容姿をしてますし」

「我が伯爵家は、父が珍しく恋愛結婚を推奨してるんですよ。と言われているので、いずれ僕の恋人が婚約者になりますね」


 わざと絡めた単語に、視界の端に映るルカディオの体がピクリと反応する。そしてリリティアも訝しげに眉を寄せた。


「え……? 政略結婚は求めてない……?」

「ええ。それが当主の方針なので。ね、父上」

「ああ。我が家は政略の必要はない。クリスフォードもヴィオラも、真に想い合える相手と添い遂げて欲しいと思っている」


 父の言葉に、ルカディオは顔を蒼白にした。


「必要ない……なら、それなら、ルカ様の──」

「リリティア、他家の事情に口を挟むのはよくないよ」

 リリティアの言葉を第二王子が遮る。

「あ……ごめんなさい。オスカー様」


 そしてまた、茶番が繰り返される。

 この女の全ての行動がクリスフォードとエイダンの勘に触った。こんな女にヴィオラが傷つけられるなど、許せるはずがない。


「我々のことはお気になさらず。では失礼します」

「ああ、二人とも引き留めて悪かったな」


 青褪めたままのルカディオには目もくれず、クリスフォードたちはその場を離れた。

 これでルカディオは、こちらの意図を完全に理解しただろう。



 ヴィオラが決意した今、もう後戻りはできない。



 二人を繋いだ糸を切ったのは──



 (お前だよ、ルカディオ)











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