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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
135. 焦がれる視線 side クリスフォード
しおりを挟む更新遅れてすみません(汗)
ちょっと来週いっぱいまで更新ペース下がるかもです。
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ダンスを終えたヴィオラたちが、こちらに戻ってくる。
王太子スマイルを顔に貼り付け、優雅にヴィオラをエスコートする男に苛立ちを覚えた。
偽聖女がやらかしてくれたおかげで、貴族たちの関心がそちらに移り、ようやく不躾な視線から逃れられた。
やっと訪れた束の間の平穏だったというのに、それをこの男がぶち壊してくれたのだ。
ノアから、恐らく祖父のようにオルディアン伯爵家を囲い込もうと企む貴族たちへの牽制だと教えられたが、それでも他にやりようがあっただろうと苛立ってしまう。
正直、政治に関するごちゃごちゃしたやり取りは、自分たちとは関係ないところでやってほしいというのが本音だ。
クリスフォードとヴィオラの役目は、女神から神聖魔法を習得し、邪神を封じる。ただそれだけ。
その立場だって自分たちが望んだことじゃない。
なんの抵抗もできない胎児の時に、女神に押し付けられた役目だ。誰かに渡せるものなら、今すぐにでも譲りたい。
ただヴィオラと平穏に暮らしたいだけなのに、誰もが邪魔をする。
「どうしてくれるんですか。王太子殿下」
「そんな怒らないでくれ、エイダン。これが一番合理的で効果があると思った上での行動だよ」
「ですが、別の要らぬ敵を増やしたんですが?」
きっとノアが言っていたことは当たっているのだろう。政治的には王太子の取った行動は戦略として間違ってはいないのかもしれない。
だが、そんなことにヴィオラを使うなと憤る気持ちが沸々と湧いてくる。
王太子には今、婚約者がいない。
二十五歳で独身の王太子も珍しいだろう。
以前は他国の王女と縁談話があったそうだが、何かしらの事情で白紙に戻ったらしい。
そのせいで国内の令嬢たちが王太子妃の座を狙って熾烈な争いを繰り広げているという。
今日の舞踏会も偽聖女のお披露目とは別に、王太子の婚約者選定も含まれていると聞いた。
そんな目をぎらつかせた女共の前で、王太子自らダンスに誘い、笑顔でダンスをしたらどうなるか想像できないはずがない。
女の嫉妬ほどタチが悪いものはないと、クリスフォードは継母のイザベラを見てきて嫌というほど理解している。それは父であるエイダンも同じだろう。
王太子だってそれがわからないはずはない。
それなのに、ヴィオラを巻き込んだ。
つまりは、敵対派閥と妃の座を狙う女共を天秤にかけて、女たちを大した問題ではないと軽く見たということだ。
王家への危険性が少ないから──
(余計なことを……っ、ヴィオラを目の敵にする女共が増えるじゃないか! ただでさえ偽聖女やエリアナたちが鬱陶しいっていうのに……っ)
王家にとってはリスクを最小限に抑えたつもりなのだろうが、ヴィオラが矢面に立たされる結果に腸が煮えくり返りそうだ。
思わず王太子に対して悪態をつきそうになった時、ノアに肩をポンと叩かれて止められる。
見上げると無表情のノアが立っていた。
そしてその纏う空気に寒気がする。
「大丈夫。うるさそうな害虫は大体把握したから、まとめて駆除すればいいんだよ。ですよね? 王太子殿下?」
「あ……ああ」
「そうだ、後日また話し合いの時間を取れると嬉しいです。ぜひその合理的見解とやらをお聞かせ願いたい」
「…………」
(うわぁ……ノア、ブチ切れてるじゃん)
その空気を王太子も悟ったようで、ノアを見て目を見張り、顔色を悪くした。自分の行動が悪手だったと気づいたようだ。
クリスフォードとヴィオラを庇護すると言っておきながら、王太子は無自覚にヴィオラを政治の駒として使った。
だからクリスフォードたちは怒りを感じた。
味方に背中から刺された気分だ。
「ノ、ノア? わ、私なら大丈夫よ。ちゃんと殿下の目的は理解出来ているから。一臣下として、私にできることを精一杯やるわ」
異様な空気に焦ったのか、ヴィオラが王太子を庇う発言をする。だがそれは火に油を注ぐ結果となり、ノアの怒気がますます強くなった。
「なに言ってるんだ。ヴィオラはもう十分頑張ってる。これ以上頑張らなくていいよ。」
ヴィオラに笑顔を向けているが、王太子に向ける圧が半端ない。今ここにいるのは従者ノア・バシュレではなく、皇弟ノア・オーガスタだ。王太子はノアの逆鱗に触れた。
ヴィオラがノアの大事な存在だということに、王太子は気づくのが遅かったのだ。
もっと早くに気づいていたら、きっとダンスになど誘わなかっただろう。そこは運が悪かったとしか言いようがない。
(王家の調査不足だよね……。でもまあ、ノアに密偵送ってもすぐバレそうだし、それこそ信頼関係が揺らぐか)
クリスフォードは苦笑いしながら、王太子に助け舟を出す。
「王太子殿下」
「な、なんだ?」
「陛下たちへの挨拶は終わりましたので、キリがいいところで帰ってもいいでしょうか?」
閉会前に帰るのは失礼かもしれないが、これだけ注目を浴びてしまえば長居するのは得策ではない。
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます」
「では私はこれで失礼する」
そそくさと観衆の中に消える王太子の背中を見つめながら、小声でポツリと呟く。
「ノア、怖いよ」
「悪い。頭に血が上った。ちょっとアイツを買い被ってたようだな」
「ノア様……、勘弁して下さい。私に結界張らせないでくださいよ。防御系苦手なんですから。バレたらどうしよう」
「大丈夫。完璧な魔法陣だ」
「疲れた……もう帰ろう」
「え、お父様? 本当に挨拶回りしなくていいんですか?」
「必要ない」
「ダメに決まってるでしょ。領地のロイドから大口顧客の貴族たちに挨拶してこいって言われてるの忘れたの? 一応僕も次期当主だから顔合わせもしなきゃでしょう。ほら、さっさと終わらせてさっさと帰るよ」
「や、やめろクリス、押すなっ」
「ノア、ヴィオラのことよろしく」
「了解」
ヘタレな父親を引っ張って、顧客を探す。
すると待ち構えていたかのように令嬢や夫人たちに囲まれて時間を取られる。なんとか交わして辺りを見回すと、視界にルカディオの姿を捉えた。
その横顔と、見つめる視線の先にいる人物を見て、怒りが込み上げる。
(なんだよ……その顔は。今更ふざけるなよ)
すぐ側に愛しのリリティアがいるにも関わらず、ルカディオが熱い視線を送っているのは、その女ではない。
迷子のような不安そうな顔で、
焦がれるような瞳で、
じっと、ヴィオラを見つめていた。
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