私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

文字の大きさ
上 下
141 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

135. 焦がれる視線 side クリスフォード

しおりを挟む

更新遅れてすみません(汗)
ちょっと来週いっぱいまで更新ペース下がるかもです。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




ダンスを終えたヴィオラたちが、こちらに戻ってくる。


王太子スマイルを顔に貼り付け、優雅にヴィオラをエスコートする男に苛立ちを覚えた。

偽聖女がやらかしてくれたおかげで、貴族たちの関心がそちらに移り、ようやく不躾な視線から逃れられた。
 
やっと訪れた束の間の平穏だったというのに、それをこの男がぶち壊してくれたのだ。


ノアから、恐らく祖父のようにオルディアン伯爵家を囲い込もうと企む貴族たちへの牽制だと教えられたが、それでも他にやりようがあっただろうと苛立ってしまう。

正直、政治に関するごちゃごちゃしたやり取りは、自分たちとは関係ないところでやってほしいというのが本音だ。

クリスフォードとヴィオラの役目は、女神から神聖魔法を習得し、邪神を封じる。ただそれだけ。

その立場だって自分たちが望んだことじゃない。

なんの抵抗もできない胎児の時に、女神に押し付けられた役目だ。誰かに渡せるものなら、今すぐにでも譲りたい。


ただヴィオラと平穏に暮らしたいだけなのに、誰もが邪魔をする。




「どうしてくれるんですか。王太子殿下」

「そんな怒らないでくれ、エイダン。これが一番合理的で効果があると思った上での行動だよ」

「ですが、別の要らぬ敵を増やしたんですが?」


きっとノアが言っていたことは当たっているのだろう。政治的には王太子の取った行動は戦略として間違ってはいないのかもしれない。

だが、そんなことにヴィオラを使うなと憤る気持ちが沸々と湧いてくる。



王太子には今、婚約者がいない。
二十五歳で独身の王太子も珍しいだろう。

以前は他国の王女と縁談話があったそうだが、何かしらの事情で白紙に戻ったらしい。

そのせいで国内の令嬢たちが王太子妃の座を狙って熾烈な争いを繰り広げているという。

今日の舞踏会も偽聖女のお披露目とは別に、王太子の婚約者選定も含まれていると聞いた。

そんな目をぎらつかせた女共の前で、王太子自らダンスに誘い、笑顔でダンスをしたらどうなるか想像できないはずがない。


女の嫉妬ほどタチが悪いものはないと、クリスフォードは継母のイザベラを見てきて嫌というほど理解している。それは父であるエイダンも同じだろう。

王太子だってそれがわからないはずはない。
それなのに、ヴィオラを巻き込んだ。


つまりは、敵対派閥と妃の座を狙う女共を天秤にかけて、女たちを大した問題ではないと軽く見たということだ。

王家への危険性が少ないから──


(余計なことを……っ、ヴィオラを目の敵にする女共が増えるじゃないか! ただでさえ偽聖女やエリアナたちが鬱陶しいっていうのに……っ)


王家にとってはリスクを最小限に抑えたつもりなのだろうが、ヴィオラが矢面に立たされる結果に腸が煮えくり返りそうだ。

思わず王太子に対して悪態をつきそうになった時、ノアに肩をポンと叩かれて止められる。

見上げると無表情のノアが立っていた。
そしてその纏う空気に寒気がする。


「大丈夫。うるさそうな害虫は大体把握したから、まとめて。ですよね? 王太子殿下?」

「あ……ああ」

「そうだ、後日また話し合いの時間を取れると嬉しいです。ぜひその合理的見解とやらをお聞かせ願いたい」

「…………」



(うわぁ……ノア、ブチ切れてるじゃん)


その空気を王太子も悟ったようで、ノアを見て目を見張り、顔色を悪くした。自分の行動が悪手だったと気づいたようだ。

クリスフォードとヴィオラを庇護すると言っておきながら、王太子は無自覚にヴィオラを政治の駒として使った。

だからクリスフォードたちは怒りを感じた。
味方に背中から刺された気分だ。


「ノ、ノア? わ、私なら大丈夫よ。ちゃんと殿下の目的は理解出来ているから。一臣下として、私にできることを精一杯やるわ」


異様な空気に焦ったのか、ヴィオラが王太子を庇う発言をする。だがそれは火に油を注ぐ結果となり、ノアの怒気がますます強くなった。


「なに言ってるんだ。ヴィオラはもう十分頑張ってる。これ以上頑張らなくていいよ。」


ヴィオラに笑顔を向けているが、王太子に向ける圧が半端ない。今ここにいるのは従者ノア・バシュレではなく、皇弟ノア・オーガスタだ。王太子はノアの逆鱗に触れた。

ヴィオラがノアの大事な存在だということに、王太子は気づくのが遅かったのだ。

もっと早くに気づいていたら、きっとダンスになど誘わなかっただろう。そこは運が悪かったとしか言いようがない。


(王家の調査不足だよね……。でもまあ、ノアに密偵送ってもすぐバレそうだし、それこそ信頼関係が揺らぐか)


クリスフォードは苦笑いしながら、王太子に助け舟を出す。


「王太子殿下」

「な、なんだ?」

「陛下たちへの挨拶は終わりましたので、キリがいいところで帰ってもいいでしょうか?」


閉会前に帰るのは失礼かもしれないが、これだけ注目を浴びてしまえば長居するのは得策ではない。


「ああ、構わないよ」

「ありがとうございます」

「では私はこれで失礼する」



そそくさと観衆の中に消える王太子の背中を見つめながら、小声でポツリと呟く。


「ノア、怖いよ」

「悪い。頭に血が上った。ちょっとアイツを買い被ってたようだな」

「ノア様……、勘弁して下さい。私に結界張らせないでくださいよ。防御系苦手なんですから。バレたらどうしよう」

「大丈夫。完璧な魔法陣だ」

「疲れた……もう帰ろう」

「え、お父様? 本当に挨拶回りしなくていいんですか?」

「必要ない」

「ダメに決まってるでしょ。領地のロイドから大口顧客の貴族たちに挨拶してこいって言われてるの忘れたの? 一応僕も次期当主だから顔合わせもしなきゃでしょう。ほら、さっさと終わらせてさっさと帰るよ」

「や、やめろクリス、押すなっ」

「ノア、ヴィオラのことよろしく」

「了解」


ヘタレな父親を引っ張って、顧客を探す。

すると待ち構えていたかのように令嬢や夫人たちに囲まれて時間を取られる。なんとか交わして辺りを見回すと、視界にルカディオの姿を捉えた。

その横顔と、見つめる視線の先にいる人物を見て、怒りが込み上げる。


(なんだよ……その顔は。今更ふざけるなよ)


すぐ側に愛しのリリティアがいるにも関わらず、ルカディオが熱い視線を送っているのは、その女ではない。



迷子のような不安そうな顔で、

焦がれるような瞳で、


じっと、ヴィオラを見つめていた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。 「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」 彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。 (なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語) そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。 (……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの) 悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...