私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

125. ブラックリスト③ side ノア

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通常、夜会のエスコート役は親族か婚約者が務めることになっている。だがこの先、ルカディオにヴィオラのエスコートをさせるつもりはない。

それはノアだけでなく、クリスフォードやエイダンも同じ見解だった。


「当然でしょ。ヴィオが精神的に落ち着いたら婚約解消する予定だから、アイツがヴィオをエスコートする日なんか一生こないよ。現にフォルスター 侯爵家からドレスも届いてないし、エスコートに関する手紙すらないしね」


婚約者にドレスを贈るのも付き合いのうちだ。

あの男だって嫡男なのだから、いくら両親が身近にいないとはいえ、それなりの教育を受けているはず。

それにも関わらずヴィオラを無視しているということは、あの男の意思なのだろう。ヴィオラを傷つけるためにやっているのだ。


ヴィオラはルカディオを避けるようになってから一切あの男の話をしないが、表面上は穏やかに見えても内心は傷ついているはず。


「なんでこんなことになってしまったんだろうな……」


エイダンが複雑そうに顔を歪めて呟いた。

彼はこれまでルカディオのサポートをしていた一人でもある。だからこそ、この結果が残念で仕方ないのだろう。

普通の貴族なら、道連れになるのを恐れて失脚した侯爵家とは縁を切る。大多数の貴族はその道を選ぶはずだ。

だがエイダンは婚約を継続して子供のルカディオを裏から支えていた。それも全てはヴィオラのためだったに違いない。

一途に想い続ける娘の恋を、父親として応援してやりたかったのだろう。だがその親心が今、無駄に終わろうとしている。


「今のアイツの頭の中は偽聖女のことでいっぱいだから、気にしても仕方ないんじゃない? アイツのヴィオへの想いは結局その程度だったってことだよ。むしろ結婚前に知れて良かったよ」

「──ダミアン殿はショックを受けるだろうな」

「まだエイダン殿の研究所にいるのか?」

「ええ。ようやく禁断症状から脱してカウンセリングとリハビリに励んでいますよ。ただ、何かしらの後遺症は残るでしょうね。脳にどれだけのダメージを受けたかはリハビリの成果を見ないとわかりません」

「そうか……」


魔草の薬物中毒に陥っていたルカディオの父──ダミアンは秘密裏にエイダンの研究所で治療を行っていた。

ダミアンの血液は魔草の薬物治療の研究材料として帝国にいるジルにも送られ、両国で魔草の解明に力を注いでいる。


幻覚草や魅了効果のある新種薬物の成分鑑定ができれば、理論上では解毒薬を作ることができる。

だがこれらは邪神教によって作られた薬物のため、神力が付与されている可能性が高く、どこまで解明できるかは未知数だ。


「ダミアン殿とルカディオの身に起きたことは同情する余地はあるが、それとヴィオラのことは別問題だ。彼らの問題にヴィオラが犠牲になることはない。だから俺も婚約解消には賛成だよ」

「ええ。私もそのつもりです。ヴィオラが望めばすぐに手続きをします」


(あとはヴィオラの気持ち次第だな──)




侍従に入れてももらったお茶を飲んで一息ついていると、扉を叩く音が聞こえ、聞き慣れた声の主の入室を許可する。


「どうした、マルク」

「王太子殿下のお使いですよ。今度の舞踏会の出席者リストが出来たとのことで──レイモンド・マッケンリーが出席するらしいです」 

「……公爵が。そういえば、最近外遊から戻ったと聞きました」


エイダンが眉間に皺を寄せて低く唸る。


「ついにお祖父様のお出ましですか。僕とヴィオラは一度も会ったことないんですけど、どういう人なんですか?」

「──愛人と子を作り、お前たちの母であるマリーベルを冷遇していた男だ。権力欲が強くて自分以外の人間は駒としか思っていないだろう」

「つまり、クソじじいってことで正解?」

「正解だ」

「ブラックリストの要注意人物が勢揃いだな」

「あ、ノア様。そのブラックリストにもう一人追加したほうが良いかと」

「誰だ?」

「デンゼル・フォン・バレンシア」


その名を聞いてエイダンとノアは目を見張る。


「王弟だな。なんで要注意人物なんだ?」


彼はバレンシアの王弟であり、魔法省の大臣でもある。

ノアは面識はないが、皇帝と団長のレオンハルトとは付き合いがあるはずだ。彼らの話では穏やかな性格で話術に長け、大臣としても魔法士としても優秀だと聞いていた。


「王太子殿下が注意しろと──マッケンリー公爵と繋がりがあるそうです」

「!?」


デンゼルとマッケンリー公爵の名を聞き、エイダンが思い出したように呟く。


「……そういえば昔、王弟殿下が第二王子だった頃にイザベラとの婚約話が持ち上がっていました。結局白紙に戻ったらしいですが……」

「父上に惚れてその縁談を蹴ったんでしょ。あの人、父上に狂ってたからね」

「マッケンリー公爵とはその時からの付き合いか──」



そして、アイザックの危惧する考えに辿り着く。

以前、光と闇の精霊たちと邪神の目的について話した時に、恐らく邪神復活のために戦争を起こすことが目的だと言っていた。

そのために邪神教とマッケンリー公爵が手を組んでいると──


先程まではマッケンリー公爵が戦争による軍事政策で金儲けを狙っているか、クーデターを企んでいるのだろうと踏んでいたが、アイザックはデンゼルこそが黒幕だと思っているということか──?



「──王位簒奪か」


「あくまで可能性の話で、王太子殿下の勘が働いたとのことです」


マルクの話に考えこんでいると、エイダンが重そうに口を開いた。


「──ありえるかもしれません」

「なぜだ?」

「実は……他言無用でお願いしたいのですが、今、王太后殿下が床に伏しています」

「国王の実母……だったよな?」

「はい。王弟殿下の母君は側妃様で、彼女は殿下が幼い時に病で亡くなったとされています」

「……ということは、それは表向きな理由で、事実は違うということか?」




「──ええ。実際は…………おそらく毒殺です」







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