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第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
84. 意識② side ノア
しおりを挟む「じゃああっちの苗木達にも魔法かけますね!」
「あ、ヴィオラ!走ると危な───」
「キャア!」
ノアの静止は間に合わず、ヴィオラは地面に張り巡らされた根に躓いて盛大に転び、枯れ葉の中に顔から突っ込んでしまった。
「ヴィオラ!!」
ノアが慌てて駆けつけ、ヴィオラを抱き起こす。膝の上に横抱きにし、枯れ葉塗れになってしまった髪の毛とワンピースから、ノアが一枚一枚、葉を取り除いていく。
「大丈夫か?痛い所はないか?」
「だっ、大丈夫です!!すみませ───いたっ!!」
ノアの膝の上に乗せられた動揺で立ちあがろうとしたヴィオラは足首に激痛を感じ、再びノアの膝の上に戻った。
「足首を捻ったんだな。すまない。俺は護衛なのにこんなケガをさせてしまった」
シュン・・・と俯いたノアに、ヴィオラは勢いよく首を横に振ってノアに責はないと訴える。
「違います!ノア様は悪くありません!私が魔法が成功して浮かれてしまって、足元見ずに走り出したせいです。自業自得なんですから気に病まないで下さい」
「あ・・・ああ。わかった・・・」
「・・・はっ!すみません!殿下に軽々しく触れてしまって・・・、あの・・・下ろしてもらえますか?」
ヴィオラはノアの両肩を持って至近距離で熱弁していた事に気づき、慌てて身を離すがノアが腰に回した手を離さなかった為に離れられなかった。
そして自分が今、ノアの膝の上に座っている事実に改めて気づいたようで、瞬時に顔を赤く染めた後、今度はあわあわしなから顔から血の気が引いていく。
(また不敬だなんだと余計な事を考えているな?)
ノアは間近でそれを見てヴィオラの思考と距離を取られた事に気づき、また胸の中がモヤついた。
そしてそのままヴィオラを横抱きにして立ち上がる。
「キャア!!ノア様っ、何を・・・!?」
「ヴィオラが捻挫してしまったから残りの苗木はまた後日だ。自分に治癒魔法はかけられないだろう?早く邸に戻ってクリスに治癒魔法をかけてもらおう。だから俺がこのまま抱っこして帰るよ」
スタスタと歩きながら涼しい顔をしてノアが歩を進める。
「抱っこって・・・そんな・・・皇弟殿下にそんな事を・・・!」
「ヴィオラ、俺は今殿下じゃない。君の護衛だよ。身分がバレるわけにいかないんだから、ただの護衛ノアとして接するように」
「は・・・はい。すみません、ノア様」
「ん。良い子だ。ついでに片手に重心かかっちゃうから、俺の首に両手回してくれると歩きやすいんだけど」
ヴィオラは恥ずかしさのあまり背筋を伸ばしてなるべく顔が近づかないように距離を取ろうとしていたが、それだと片手がキツイのだ。
ノアの申し出に少し悩んだヴィオラは意を決したのか、顔を真っ赤にしながら恐る恐るノアの首に手を回した。
「よし、じゃあ早く帰ろうか」
間近で笑いかけるとヴィオラは眩しそうに目を細めて「目が潰れる」と呟いた。
そして、視線をどこに置いたらよいのかわからないようでキョロキョロと目を泳がせてたいた。
そしていくら捻挫して歩けないとはいえ、婚約者以外の異性に抱き上げられている事に少しばかり居心地が悪いのだろう。困惑している様子も見受けられる。
ノアはそんなヴィオラに気づきつつも、顔を真っ赤にして羞恥に耐えているヴィオラを素直に可愛いと思った。
この日ノアは、初めてヴィオラを年下の子供ではなく異性として認識したのだが、育った環境のせいで色恋に疎いノアはその事に気づいていない。
胸に込み上げる熱い何かに違和感を覚えたが、本人にそれが何の予兆なのかわかるわけもなく、ヴィオラを邸へと運んでいった。
「・・・・・・・・・」
途中、ノアは強い視線を向けられている事に気づく。
(敵か・・・、それともイザベラか・・・?)
頭の中であり得そうな人物を思い浮かべ、視線を感じる方向を見やると、気配が消えた。
(転移魔法か・・・?)
「ノア様?やっぱり重いですよね?」
「いや、大丈夫。ほら、もう邸に着くよ」
あの強い視線は誰なのか。
この日、またヴィオラとノアの運命が動いた。
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