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第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
65. 砂の城
しおりを挟む「すまない。まだダミアン殿からは何も言われていないが、その可能性があるという事だけは伝えておく。俺達が無実である事はジルの魔道具で証明する事は出来るが、犯罪者と縁戚である事実は変わらない。このままイザベラの件を永遠に世間に伏せれば今と変わらない関係を続けられるかもしれないが、それを名門フォルスター侯爵家がどう受け止めるかによるな」
「・・・・・・」
いくら本人達が想い合っていても、結婚は家と家を結ぶ契約。
片方の家に瑕疵があれば当然婚家にも迷惑がかかる。その視点から見ればオルディアン家の現状は最悪だといっていいだろう。
義母は魔力の偽証と禁忌の呪いに手を出した反逆者であり、その実家のマッケンリー公爵もきな臭い。更に領地の精製工場では秘密裏に猛毒のペレジウムが製造されているのだ。
連座で一族処刑でもおかしくない。
ルカディオは何も知らないのだ。
彼が全てを知ったらヴィオラを疎ましく思ってしまうのだろうか?
今まで何故婚約関係にひびが入る可能性に気づかなかったのだろう。
義母を失脚させるという事はこういうことだったのに。
「・・・いや、イヤです。婚約解消なんかしたくない」
震える声で父に懇願する。
「私達は何も悪くないじゃないですか。悪い事何もしてないのに、ただでさえ今、離れ離れになっているのを我慢しているのに、さらに婚約解消だなんてあんまりです・・・っ」
悔しくて涙があふれる。
大人の事情に巻き込まれても子供だから対抗する力を持っていない。結局は大人の言う事を聞くしかないのだ。ルカディオの父親が婚約解消すると言えば、それが通る。
貴族の結婚というのは、そういうものなのだ。
「ダミアン殿には婚約の継続を希望する旨は伝えてある。オルディアン家の現状がどうであれ、俺達は無実で、ヴィオラが高魔力保持者だということはあちらにとっても利になる。あとはそれを踏まえて彼が当主としてどう判断するかだ。それ以上は俺には何も言えない。力が及ばなくてすまない」
「いえ・・・、ありがとうございます」
ヴィオラが高魔力保持者だった場合、ルカディオとの子供も高魔力保持者の可能性が高い。
高位貴族にとって魔力量はその家の繁栄に大きく作用する。ヴィオラに出来る事はその未来の可能性に縋って祈る事だけだった。
そしてヴィオラ達は早々に王都を発った。
表向き、病弱のクリスフォードの療養として。
邸を出る際に、やはりルカディオが見送りに来てくれた。
今回は最初からエイダンが近くで見張っていたので適切な距離を強いられての別れの挨拶となったが、馬車に乗り込む際、ヴィオラの方が我慢できずにルカディオに口付けをした。
「・・・!? ヴィオ・・・っ」
真っ赤に顔を染めたルカディオが驚いた顔でヴィオラを見つめる。
もしかしたらこれが最後かもしれないと思うと、ヴィオラは居ても立ってもいられない気持ちになった。
婚約解消したくない。
ずっとそばにいたい。
「手紙、いっぱい書くね。だから私の事忘れないでね」
「忘れるわけないだろ…っ。俺も手紙書くよ」
「うん。・・・うん!」
「大好きだよ、ヴィオ」
「私も。大好き」
最後にルカディオからまた口付けをされたが、父は止めなかった。
これが最後の触れ合いになる可能性があるから、大目にみてくれたのだろうか。
(ルカ・・・、やだよ。ずっと一緒にいたいよ)
揺れる馬車の上で、不安で涙が止まらないヴィオラの頭を、ノアが優しく撫でた。
明日義母が逮捕されることで、オルディアン伯爵家は危機に陥るだろう。どれだけ敵がいるのかわからない。
義母の事が片付けば今度はペレジウムの件が待っているのだ。
オルディアン伯爵家の関係者の中から、これから一体どれほどの逮捕者が出るのか、考えただけで眩暈がしそうだ。
その情報が騎士団長のダミアンに届かないはずがない。
全てを知られた時、ヴィオラがルカディオの婚約者でいられる自信はどこにもなかった。
そして、その不安が的中するかのように、
この時から5年、
ヴィオラはルカディオに会う事ができなかった。
15歳になるまで一度も、
───手紙さえも届かなかった。
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