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第四章 〜乙女ゲーム開始直前 / 盲目〜
60. フォルスター侯爵家
しおりを挟む「ヴィオラちゃんいらっしゃい。久しぶりね」
「お久しぶりです。セレシア様」
目の前には未だに少女のように可愛い女性がいて、ヴィオラを歓迎してお茶会の席へ案内してくれる。
(美魔女だわ・・・っ。すごく可愛い人。学園に通ってると言われても違和感ないくらい若く見える。とても10歳の子持ちに見えない・・・)
「母上!ヴィオラのエスコート役は俺ですよ。横取りしないで下さいっ」
「あらあら。ごめんなさいね。本当にルカはヴィオラちゃんが大好きなのねぇ」
母親に対してまで独占欲を剥き出しにするルカディオにヴィオラは恥ずかしくなって顔から火が出そうになる。
「まあまあ!赤くなっちゃって本当に可愛らしいわね。妖精みたい」
ふふふっと笑いながらルカディオの母、セレシアはヴィオラの頭を優しく撫でた。
(いえ、貴女の方が年齢不詳の妖精みたいなんですけど・・・)
今日ヴィオラはルカの家であるフォルスター侯爵家のお茶会に呼ばれて遊びにきている。
お茶会といってもヴィオラとルカディオ、ルカディオの母親であるセレシア様の3人だけ。
実はノアが陰ながら監視&護衛をしているがヴィオラは全く気づいていない。
「あ。チョコチップクッキー・・・懐かしい」
テーブルにセッティングされたティーセットやお茶菓子の中に、思い出のクッキーを見つけてヴィオラは思わず顔が綻んだ。
「あら、ヴィオラちゃんもチョコチップクッキー好きなの?ルカも大好きでね。これだけは私が良く作ってあげてるのよ」
「ルカに初めて会った時に、誕生日プレゼントでこのクッキーをいただいたんです。とっても美味しくて暖かい気持ちになりました」
「まあルカったら。プレゼントならお花とかお人形とかもっと気の利いたものあげなくちゃ。おやつのクッキーあげてどうするの」
「その時はクッキーしか持ってなかったんだよ。ヴィオラはすっげえ喜んでたんだからいーじゃねえか」
「ルカ・・・言葉使い」
「あ、すみません。母上・・・」
微笑ましい雰囲気から一転、急に低い声でルカに注意するセレシア様は厳しい眼差しで息子をひと睨みした後、ヴィオラに視線を移してにっこりと笑った。
(わあ、美人が怒るとすごい迫力・・・っ、今一瞬空気が凍りついたわ)
「ごめんなさいね、まだマナーがなってなくて。女の子は嫌よね、こんな野蛮な話し方する男なんて。騎士団の中で稽古してるからもう口が悪くて矯正するの大変なのよ~」
「い、いえ。あの・・・、私はルカなら、どんなルカでも大好きなので、あの、大丈夫です」
「ヴィオ!」
真っ赤になりながらセレシアに自分の気持ちを話すと、それに感激したルカディオに横から急に抱きしめられ、ヴィオラはまた更に顔が茹で上がってしまった。
「あらあら。ラブラブで羨ましい限りだわ。これで次代のフォルスター家も安泰ね。そう思わない?アメリ」
「そうですね、奥様」
側に控えていた侍女が手慣れた手つきで暖かい紅茶を入れ直す。
一見、女主人と侍女が子供達を微笑ましそうに眺めているように見えるが、侍女の目が笑っていない事にこの場の誰も気づいていない。
不穏な種は、
確実に芽吹こうとしていた。
************
「あっという間に夕方だな」
「うん。お茶会とっても楽しかったよ。セレシア様とも沢山お話できて嬉しかった」
いつもの2人の逢瀬の場所である邸の裏手の片隅で、2人は両手を握り合って向かい合う。
ヴィオラが笑顔でルカディオにお礼を言うと、ルカディオは堪らなくなって華奢な体を抱きしめた。
また2人は、離れ離れになってしまう。
昨日、ヴィオラとクリスフォードはエイダンから準備ができ次第また領地に戻るように言われたのだ。
これからイザベラを断罪する準備に入る為、邸が安全とはいえなくなる。
敵も王都にいるせいで、いつこの邸が奇襲にあうかわからない事から、全てに決着がつくまでノア達と共に領地に帰る事を命令されたのだ。
また領地に行く事だけをルカディオに伝えた所、今日のお茶会に誘われたのだ。クリスフォードも今回は気を効かせたのか追いかけてはこなかった。
ルカディオを巻き込むわけにはいかないので、また兄の療養の為だと言ってある。心苦しいけど、本当の事は言えない。
「早く結婚したい。そしたらヴィオとずっと一緒にいられるのに」
「あと8年の我慢だね」
「長い!待てない!」
「ふふっ。・・・私も早くルカのお嫁さんになりたいよ。───離れるのは寂しい・・・っ」
抱きしめられて、切なくて、
目尻に涙が滲んでしまう。
せっかくやっと隣国から戻ったのに、
またすぐにルカディオと離れなくてはならない。
子供なのがもどかしい。
自分の意志で居場所を決められたらいいのに。
そしたらずっと、目の前の彼から離れないのに。
「ヴィオ・・・泣くな」
ルカディオが優しく涙を拭ってくれる。
「ルカ・・・大好きだよ」
「俺も」
夕暮れのオレンジ色に染まる裏庭で、小さな恋人達の影が重なった。
「・・・・・・・・・ほんとマセガキ」
2人から少し離れた木陰から、ノアは独りゴチる。
「それにしても、すごい殺気だな」
2人がいる場所よりもっと先の、奥まった所にある離れの建物。その2階の窓から強い殺気を感じる。
この離れた距離でも殺気を感じられるのは影としての訓練の賜物だ。
「あれはヴィオラに向けられたものか?例のイザベラとかいう義母かもな。エイダン様はあんな強烈な殺気を放つ女に執着されてんのか。こわっ」
あれは子供に向けていいものではない。
とても禍々しいものだった。
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