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第三章 〜魔力覚醒 / 陰謀〜

47. 契約

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とても綺麗な世界に立っていた。


雲一つない透き通った蒼い空。 

青々と茂る豊かな緑。
色とりどりの野花達。


透明度の高い小川に太陽の光が反射して、
キラキラと煌めいている。


そして、空に、緑に、透き通った水の上を楽しげに飛び回る精霊達。


とても幻想的で美しい景色に、ヴィオラは感嘆のため息を零す。


「ヴィオ・・・」


ふいに自分を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、そこにはクリスフォードが立っていた。


「お兄様」

「これは夢かな?それとも僕達、死んだのかな?」

「わからない。でも・・・ここはとても綺麗で、穏やかで、ついそれでもいいかなって思ってしまいそう」

「・・・そうだね」

「──でも私はルカの所に帰りたいから、やっぱり死にたくないな」

「・・・・・・・・・うん」

「それに、前世の知識を駆使して領民の人達の役に立つ夢も叶えてないし」

「そうだね」




「なるほど。そういうことか」

「「・・・・・・!?」」


突然かけられた自分達ではない声に驚いて肩をびくつかせてしまう。

声の主に視線を向けると、眉目秀麗な神々しいオーラを放った2人が立っていた。



「我は光の精霊ディーン」

「我は闇の精霊クロヴィス」



「「・・・・・・精霊?」」


どこからどうみても人間にしか見えないが、下級精霊やグラディスを思えば人型の精霊がいてもおかしくないかもしれない。

彼らは人ではないのだから。



光の精霊ディーンが、ヴィオラの額に手をかざす。


「そうか。あの者に入るはずだった魂を、神はお前に宿したのだな。だから子供達に好かれているのか」

「え・・・と、何のことです・・・?」

「お前と違う、もう1人のお前の話だ」

「・・・・・・!?」


ミオの事を知っているの?

状況が掴めなくて不安になるヴィオラの手を、クリスフォードが優しく包み込んだ。


「大丈夫。僕がいるよ。それにこの人達からは敵意を感じないし」


クリスフォードに言われ、改めて目の前の2人を見上げると、とても穏やかな表情で私達を見ていた。

そして彼らの周りを下級精霊達が嬉しそうに飛び交っている。



「お前達2人には、これから試練が待ち受けているだろう。本来ならお前達は別の人生を歩むはずだったが、運命は変わった」

ディーンに続いて闇の精霊クロヴィスも、クリスフォードの額に手をかざす。


「神は干渉できない。その代わりに我らがお前達に加護を授けよう。お前達が生きていく力を」



彼らが何を言っているのか全く分からなかったけど、不思議と受け入れている自分達がいた。

何故か絶対的な安心感を彼らから感じる。

それは下級精霊達が感じているものと同じことなのだろうか。


「「我らと契約をするか?」」





その問いに私達は─────。









***************





ふっと、意識が浮上する。


カーテンから漏れる日の光が、
まだ早朝なのだと知らせた。


「ここは・・・・・・?」


思考を巡らせて、状況を思い出す。


そうだ。私達は呪いの解呪をして、そしたら体が凄く熱くなって、何かが体中を這いずり回って、痛くて痛くて、


───きっと気を失ったのだ。


視界の隅に黒いものを捉えたので視線を向ける。


「・・・・・・・・・お父様・・・?」


そこにはベッド脇の椅子に座り、腕を組んだままコクリコクリと頭を揺らして居眠りをしている父の姿があった。


父の後ろ奥のベッドには自分と同じようにクリスフォードが眠っていた。


「お兄様も無事だったのね」


安堵の声を漏らすとその声にエイダンが目を覚ました。


「ヴィオラ・・・っ」


心配そうに声をかける父に慣れなさ過ぎて、どこに視線を置いたら良いのかわからない。


「体でどこか痛いところはないか?お前達は魔力暴走を起こしかけて気を失った。光と闇の精霊が突然現れて、お前達を助けてくれたんだ」


(光と闇の精霊・・・・・・)


恐らくさっき出会った彼らの事だろう。



「────私達と、契約をしました」

「・・・・・・そうか」

「私達が生きる為に必要な力らしいです」

「・・・・・・そうか」



父が、悲しそうに眉をしかめた。

何故、そんな顔をするのか?


「────この国で、お前達の憂いを取り去り、これからは普通の貴族として、穏やかな暮らしをさせてやりたかったんだがな・・・」


そう呟いて、自嘲した笑みを浮かべる。




「本当に俺は無力だな・・・。償う事すらできない」


「・・・・・・?」


最後の言葉が小さ過ぎて聞こえなかった。


だが何となく聞き返さない方が良い気がして、ヴィオラはそのまま瞳を閉じる。



彼らが言っていた、

これから身に起こる試練に思いを馳せながら。
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