43 / 228
第三章 〜魔力覚醒 / 陰謀〜
39. 闇の精霊
しおりを挟む「魔法士団団長、やはり強烈なキャラでしたね。あの空気の読めなさ、あの人こそレアキャラだと思うんですけど」
昼食の場でケンウッドに昨夜レオンハルトに会った時の事を話すと、どうやらレオンハルトが押しかけてきた時点でいつでも護衛に入れるようにどこかで話を聞いていたらしい。
ケンウッド自身もやはり現実味のない話で混乱しているようだった。
気持ちはわかる。当事者のヴィオラ達でさえ現実味がないのだから。
ただ、呪いをかけた人物について話すと「やるとしたらあの女しかいないでしょう」とあっさり肯定していた。
それくらい傍目から見てもイザベラのエイダンへの執着は出会った当初から異常だったらしい。
「で、魔力判定はいつやる事になったんです?」
「それはまだわからない。それについては何も言ってなかったしな。とりあえずレオンハルトが闇属性の魔法士を連れて来るまで待つしかない」
「闇属性の魔法士ですか・・・」
「・・・・お前も気になっているか」
「まあ・・・、当時いくら調べても洗脳の類の魔法残滓は見つからなかったですし、違うとは思いますけど。でもこの国はバレンシアより魔法技術が進んでいるみたいなんで疑う気持ちは捨てきれないですね」
父達の話についていけず質問しようとしたその時、また部屋の外がドタドタと音を立てて騒がしくなった。
『困ります!主を呼んで来ますのであちらでお待ちくださいっ』と誰かを引き留めている侍従の声が聞こえてくるが、『心配ご無用だ!』とその人物が叫んだ途端、自分達の部屋の扉が勢いよく開いた。
「やあやあやあ!待たせたなエイダン!双子達!」
やはり声の主はレオンハルトで、その後ろには昨日は見なかった黒髪黒目の美青年が呆れたような顔で立っていた。
「団長・・・いくらレアキャラの研究対象が見つかったからって、他国の来賓に無礼が過ぎるのでは・・・」
「気にするな!俺とエイダンは親友だからな!」
「おい、いつ俺とお前が親友になった。そして昨日も言ったが勝手に人の部屋に入るな」
「文通する程の親密な仲じゃん」
「気色悪いこと言うな!」
相変わらずのテンションで一気に部屋が賑やかになる。
しかしヴィオラ達もケンウッドもやはりこのテンションについていけず疲労感を感じたその時──、
強い視線を感じてその方向に目を向けると黒髪黒目の美青年がこちらじっと凝視していた。
そしてレオンハルト同様にその瞳をキラキラと光らせ、
「本当に団長の言っていた通りだ!小さな精霊が沢山いる!しかも僕と同じ闇属性の人初めて見たよ」
「そうだろう!珍しいだろう!研究魂に火がつくよな」
「ええ!団長がレアキャラ見つけた!っていい年してはしゃいでるの見た時は『何この残念な大人』って若干引きましたけど、確かにこれはレアですね」
「ほう・・・お前あの時そう思ってたのか」
「あ、あの・・・、2人とも近いです。ちょっと離れてもらえますか」
クリスフォードはヴィオラを庇うように背に隠し、興奮している2人の前に手をかざして距離を取る。
昨夜レオンハルトに死の宣告を受けたようなものなのに、何故この人達は陽気でいられるのか理解に苦しむ。
他人事だと思って楽しまれているのだろうか。
「ああ、精霊がちょっと不機嫌になってる。ごめんごめん、不躾だったね。離れるよ」
「どうだジル、解呪出来そうか?」
「いや状態異常ならともかく、呪いを解くのは本来無理ですからね。でもここまで綻びがあるなら何とか出来そうな気もしますけど、どうかな~。とりあえず精霊がこれだけ寄り添ってるなら、彼らに方法聞くのが1番手っ取り早いんじゃないんですか?」
「ああ、なるほど。その手があったか」
「人智を超える事柄は人智を超えた存在に聞くのが1番です」
勝手に話を進めていく2人にエイダンが待ったをかける。
「おいお前達、さっきから何を言っているんだ。わかるように説明してくれ」
「ああ、ごめんごめん。双子の呪い解くにはどうしたら良いか精霊に聞けばいいって話してたんだよ。」
「精霊?お前達は精霊と会話ができるのか?」
「いや、この子達の精霊と話すのは無理。話せるのは自分と契約してる精霊だけ」
「???」
混乱するエイダンに対してレオンハルトは「百聞は一見にしかず。ジル、呼べるか?」と闇属性の魔法士に問いかけた。
「了解。グラディス、いるか?」
ジルが誰かの名を呟くと、彼の影が揺れ出し、その中から艶やかな毛並みの体長1.5メートル程の黒豹が現れた。
レオンハルトとジル以外の人間は皆驚き、ケンウッドが双子の前に出て戦闘の構えを取る。
「違う違う。こいつは魔物じゃなくて闇の中級精霊でグラディスっていう名だ。ジルの相棒だよ」
「精霊?それは普通人には見えないんじゃないのか?何で契約者じゃない俺達にも見えるんだ?」
エイダンが信じ難い光景に目を見開きながらレオンハルトに説明を求める。
「精霊の中でも中級以上の精霊は可視化の力を持つから人に姿を見せる事ができるらしい。まあ、それなりに力を持つ精霊はほとんど精霊界にいるから滅多にお目にかかれないらしいけどな」
「貴重だから思う存分拝んどけ」と親指を立ててグッドポーズを取り、白い歯を見せて笑うレオンハルトに、やはり周りは疲労感を見せた。
「団長、相変わらず空気読めてないみたいですよ」
大人達が取り留めのない話をしている最中、クリスフォードは闇の精霊に釘付けになった。
とても綺麗で、何故だか懐かしい。そんな既視感を覚えた。精霊が纏う空気が心地良いと思った。
グラディスはそんなクリスフォードに近づき、その腕に頭を擦り付けて親愛の情を見せる。
その仕草にクリスフォードが頭を撫でて返すと、突然周りに沢山の小さな光が見えた。
186
お気に入りに追加
7,379
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~
参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。
二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。
アイシアはじっとランダル様を見つめる。
「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」
「何だ?」
「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」
「は?」
「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」
婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。
傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。
「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」
初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。
(あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?)
★小説家になろう様にも投稿しました★
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木あかり
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる