私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

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第三章 〜魔力覚醒 / 陰謀〜

35. 話を聞かない男

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初めての長旅は、想像を絶する辛さだった。


前世と今世合わせても馬車での長時間移動は経験がなかったことに加え、この世界の道路は普通に野道だったりあぜ道だったりする。

整備されている街道でも何か加工してるわけではなく、草や石を取り除いだだけの土がむき出しになった地面なのだ。

つまり道路が平ではないので馬車揺れが酷い。
結果ヴィオラは終始乗り物酔いに苦しめられた。


クリスフォードも最近体力がついてきたとはいえ、馬車移動での疲れから途中で発熱したりなど宿で休む回数が増えたので、結局帝都のシルヴェストルに到着するのに予定よりも5日も過ぎてしまった。



現在は帝都内にある貴族用の宿で部屋を取り、皆それぞれ休息を取っている。


「2人とも、大丈夫か・・・」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


エイダンが心配そうに声をかけるが返事はない。

約2週間の馬車移動で旅慣れしていない双子はグッタリしていた。


「治癒魔法をかけてやりたいのは山々だが、魔力回路のないお前達には逆効果だ。楽にしてやれずすまない」

「いえ、酔い止めと解熱剤の薬をいただいたので大丈夫です。よく効きましたし」


(馬車のイスが固くてお尻が筋肉痛みたいに痛むけど・・・)



領地に帰ったら馬車を改造して商品化しようと固く心に誓った。絶対売れる。


「僕は乗り物酔いとかはなかったですけど、とりあえず疲れました・・・」


クリスフォードは宿の一人用ソファに深く腰掛け、背もたれに寄りかかり瞳を閉じている。


「今日はとにかく休め。皇帝陛下への謁見はまた調整し直すことになったからしばらくはこの宿で待機する」


「「 わかりました 」」



(今はとにかく、ベッドで横になりたい・・・)



そう思いヴィオラがベッドに腰を下ろした時、部屋の外からドタドタと複数の足音と、『先触れを出してもらわないと困りますっ』という侍従の慌てた声が聞こえた。


何ごと?と首を傾げた時、この部屋の扉が勢いよく開いて一人の美丈夫が入ってきた。



「やあやあやあ!エイダン!久しぶりだね!到着予定日よりだいぶオーバーしてるから待ちくたびれて謁見より先に来ちゃった♪」


「レオンハルト・・・無断で部屋に入るな」

「ああ、陛下にはこっちの用事を先に済ませるって連絡してあるから問題ないよ」

「人の話を聞け・・・相変わらずだなお前は」

「だって謁見終わるまで待ってらんないよ。退屈だし」

「一人か?魔法士団団長が護衛もつけずにフラフラ他国の人間に会いにくるな」

「いらないよ護衛なんて。俺より強い魔法士はこの国にはいない。あ、エイダンは俺より強いか」


カラカラと軽快に笑っているこの美丈夫は、どうやら例の魔法士団団長らしい。


レオンハルトは大柄で筋肉質な体躯をしており、魔法士というよりは騎士と言われた方がしっくりくるような外見をしていた。

バレンシア王国ではあまり見ない白銀の綺麗な長髪を後ろで一つに結び、褐色の肌と琥珀色の瞳が甘さと男らしさを演出していた。中性的な美貌の持ち主のエイダンとは外見も中身も対称的なタイプの人物である。


無言で父達を観察していると、レオンハルトがふと双子に視線をやり、こちらを指さして突然叫んだ。


「うそっ、エイダンのミニチュアが2人いる!!わはははっ」


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」



出会って数分だが旅の疲れもあり、2人はこの男のテンションについていけない。むしろ更に疲労が増した気がする。

貴族であるなら本来は魔法士団団長という主要人物に挨拶をしなければならないのだが、生憎体が疲労でダルくて手足を動かすのが無理そうだった。


「レオンハルト、子供たちは初めての長距離移動で疲れている。悪いが明日にしてくれないか?」

「・・・・・・・・・・・・」


レオンハルトは双子を見据えたまま返事をしない。顎に手を当てて何やら考え込んでいるようだった。


「おい、聞いてるのかレオンハルト」


エイダンが再びレオンハルトに声をかけた時、彼が「鑑定」と唱えるとレオンハルトの琥珀色の瞳に小さな魔法陣が出現し、その目で双子をじっと観察しだした。


ヴィオラの目が見開く。今、前世のゲームや小説などで散々目にした「鑑定」魔法を目の当たりにしている。


背中に衝撃が走った。

(か、か・・・鑑定!!そうだ!鑑定魔法だ!何で私前世の記憶があるのにそんな便利な魔法忘れてたの!)


この人ならクリスフォードの病の原因がわかるかもしれない。

恐らく今、それを見ているのだろう。


そう思い、ヴィオラはレオンハルトの動向に注視する。クリスフォードも彼の光る琥珀色の瞳に驚いているようだった。

時間にして数十秒。ようやく瞳に浮かんでいた小さな魔法陣が消え、彼は深く息を吐いた。


そして、双子を指差し、エイダンに告げる。





「エイダン、この子達呪いの術がかかってる」

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