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第二章 〜点と線 / 隠された力〜

32. 再会

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目の前に、ずっと恋しかった大好きな人がいる。


「ヴィオ!」


領地から2日かけて王都のタウンハウスに着き、馬車を降りた所でヴィオラは名前を呼ばれた。

声の方に振り向くと、記憶の彼より更に頭一つ分成長した凛々しい婚約者の姿があった。

どうやら伯爵家の玄関前で父と一緒に待っていてくれたらしい。


「ルカ!!」



あまりの嬉しさに、淑女のマナーも何もかも忘れてヴィオラはルカディオの胸に飛び込んだ。ルカディオはそれをギュッと抱きとめ、少し涙ぐみながらヴィオラの頭に頬を寄せる。


「会いたかった。ヴィオっ」

「わ、私、も・・・っ、ふ、うえぇぇんっ・・・っ」


ヴィオラは胸がいっぱいで、涙が溢れてそれ以上言葉が出てこなかった。胸の中を占めるのはルカディオの事がとにかく好きで、大好きで、もう片時も離れたくないという気持ちだけ。

ルカディオの胸に顔を埋めていると、突然首の後ろを掴まれて引き剥がされ、クリスフォードに後ろから抱きしめられた。


「ちょっと、いきなりウチのヴィオに何してくれてんのこの痴漢。相変わらず頭より先に体が動く脳筋バカだね」

「何だよ邪魔すんな!俺は痴漢じゃなくて婚約者だ!ヴィオを返せ!」

「返すって何。ヴィオは元々僕のヴィオだよ。返して欲しいのはこっちなんだけど?」

「お前相変わらずシスコン拗らせてんな!2年半ぶりなんだぞ!お前散々一緒にいたんだろ!?俺にも触らせろ!」

「断る。ヴィオが減る。穢れる」

「穢れるって何だ!俺はヴィオの婚約者だぞ!」

「ふふっ」

「っ!」


懐かしいこの掛け合いに、思わず笑みが溢れる。やっぱりルカは明るくて眩しい。心なしかクリスフォードも楽しそうで、ヴィオラは嬉しくて小さく笑い声を上げる。



「ヴィオ・・・可愛い」


ヴィオラの無邪気な笑顔に頬を染めてルカディオは再びヴィオラを抱きしめようとしたが、伸ばしたその手をクリスフォードがペシッと叩いた。


「おい!」

「ふんっ」

「ふふふふっ」



(ああ、やっぱりルカと一緒にいるのは幸せだな)


再会の喜びに、3人の周りに流れる空気が楽しげに揺れる。子供らしい笑い声が、伯爵家に響いた。








少し後方から、大人2人が子供達を見守っている。


「エイダン、お前完全にスルーされたな」

「・・・・・・ああ」

「お嬢様のあんな笑顔と、クリスフォード様の楽しげな声、久々に聞いたな」

「・・・・・・そうか。・・・・・・・・・・・・俺は初めて見た」

「だろうな。それは自業自得だ」

「・・・・・・そうだな」

「・・・・・・お前は、お前が出来る事をやるしかないさ」

「・・・・・・ああ」





3人の笑顔が眩しくて、目を細める。

それは、───自分からはとても遠い光。



自分の手が届くことは、──ない。






これからは綱渡りだ。

いつ転落するかわからない。
正直、自分もどうなるかわからない。


それくらい、厳しい道だ。


いつ足を掬われて死んでもおかしくない。





それでも、自分のやり方で、

2人を守るしかない───。





************




「奥様、ご子息達が領地から帰られたようです」

「・・・・・・そう」




離れの一室。

窓際のロッキングチェアに座り読書をしていたイザベラの手がとまり、窓の外を眺める。本邸の裏側にあるこの離れからは、彼らの様子を見る事はできない。


エイダンから、後継者教育と花嫁修行を兼ねて隣国の医療支援の旅に子供達を連れて行くと伝えられた。

彼の様子から、まだあの件がバレたようではなさそうだが、ヴィオラへの虐待の件を咎められ、接触禁止を言い渡された。


不安が募る。



彼等と連絡が取れない。


父にはもう見限られてしまった。
助けてもらえそうにない。



どうしたらいいのか。





(どうすれば私は、貴方を手に入れられるの───)




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