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第二章 〜点と線 / 隠された力〜
21. 運命の女 sideエイダン
しおりを挟む魔力が高ければ高い程──愛が重い。
狂愛と言ってもいいかもしれない。
高魔力保持者は高位貴族に多いが、その中でもトップクラスの高魔力保持者は王族や公爵家に多い。
実はオルディアン伯爵家も、中位貴族でありながらトップクラスの高魔力保持者を有する家だった。
建国以来の歴史を持つ由緒なるオルディアン家は初代の治癒魔法士が起こした家で、元々は医療知識はなかった。
代替りをするうちに血が薄まり、魔力が低い者も生まれ始めた事から、存続の為に魔法に頼りきりにならぬよう医療研究を続け、魔法士と医師という2足のわらじを履いて栄えてきた。
医学や研究にのめり込みやすい家系ゆえ、社交を嫌い、過去に何度も陞爵の話が出たがその度に拒否し、中位の場所を保っていた。だから今まで政争に巻き込まれることはなかったのだ。
だがエイダンが最年少で王族の専属侍医に抜擢された事でマッケンリー公爵に目をつけられた。
公爵家から2つ格下の伯爵家に婚約の申込みがあったのだ。しかも、公爵家の正統な血筋である長女が婿を取るのではなく、伯爵家に嫁ぐというのだ。これは異例の事だった。
公爵家からの申し出はもはや格下の貴族には拒否権はなく、この時ばかりは先代達が陞爵を蹴り続けた事を恨んだ。
エイダンは一族のみでしか見られない珍しいアメジストの瞳と流麗な黒髪を持ち、髪質は若干ウェーブがかっている。
少し目にかかる長さの前髪と、中性的な美貌が相まって壮絶な色気を演出しており、また体つきは身長が高く、線が細いながらも筋肉はしっかりついた体躯をしているので、人前に出れば男女問わず見惚れてしまうような外見をしていた。
それゆえに男女見境なく言い寄られる事が多いので社交嫌いが加速し、王族主催の夜会以外では姿を見られないほどに王宮の医務室兼、研究室に引きこもっていた。
エイダンは恋愛も結婚も興味がなかった。
キツイ香水に中身のない会話、欲に塗れた熱を瞳に宿し、いくら追い払っても纏わりついてくる無能な女共はむしろ嫌いだった。
そんな自分に舞い込んできた公爵令嬢との婚約話。
きっと地位を笠に着た傲慢で我儘な令嬢なのだろうと想像し、絶望した。その時だけは公爵家の申し出を断る権力が欲しいと強く思った。
だが、実物はその想像を軽く飛び越えた。
──嫌々向かった顔合わせで目の前に現れたのは、傲慢な公爵令嬢ではなく、可憐な妖精姫だった。
最初に見た時の衝撃は今でも忘れない。
腰まで伸びたプラチナブロンドの柔らかそうな髪に、ペリドットのような澄んだグリーンの宝石眼を持った妖精から、エイダンは目を離せなかった。
マリーベルは母方の土属性の魔力を継いでいるらしく、植物を育てるのが好きなのだと教えてくれた。実際に伯爵家の庭園の土にマリーベルが成長促進の魔法をかけた所、育ちかけだった植物達が一斉に見事な花々を咲かせた。
花々が咲く瞬間の、その幻想的で美しい光景に感嘆のため息を溢すと、
「エイダン様を喜ばせたくて、練習しました」
と、照れたようにはにかんだその姿が、本当に花の妖精のようで、
女嫌いのエイダンが、
その一瞬で恋に落ちたのだ。
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