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第二章 〜点と線 / 隠された力〜
17. 涙
しおりを挟む4人で話し合ったあの日から、一ヵ月後に父と会う事が決まった。
先触れを出してきたので、その間母がクリスフォードとヴィオラに手を出す事はなかった。父に虐待を知られたくないのが丸わかりだ。
(ロイドが全部報告しちゃってるけどね)
おかげで怪我をしたり体調を崩すことも無く穏やかな日々を過ごすことが出来た。
逆にそれで、クリスフォードに毒を盛っていたという疑惑がますます深まる事となった。
そして母はいつになくソワソワしており、父の訪れを意識しているのが明白で、侍女に命じて外見を磨き上げるのに忙しそうだった。
それはまるで好きな人を待つ恋する乙女のようで、普通なら微笑ましいのだろうがヴィオラはゾッとしてしまう。
目つきがまるで獲物を狙う女郎蜘蛛のように見えた。
クリスフォードにそう呟いたら「激しく同意」と気持ち悪がっていた。毛嫌いが過ぎる。
そしてヴィオラの手元には今、ルカディオからの手紙があった。
思わず顔が綻ぶ。母親の前でこんな顔は晒せないのでもちろん夜にこっそり読んでいる。
最近は騎士団の練習に参加させてもらっているようで、順調に騎士への道を歩んでいるようだ。
『会いたい。好きだ』の文字に胸が締め付けられ、涙が溢れそうになる。
(私も会いたいよルカ・・・大好き)
愛しい人からの手紙を抱きしめ、瞳を閉じる。ルカの明るい笑顔が瞼の奥に見えた。
一日も早く親からの呪縛から逃れたい。
自分の意思で外に出たい。
そしたら迷わず、1番にルカに会いに行くのに。
「今日はルカの夢が見れますように」
今はまだ、夢でしか会えない──。
*****
「いよいよお父様が帰ってくるの来週だね。こんなに早く会えるなんて思わなかった。お兄様、なんて手紙出したの?」
深夜に再びクリスフォードの部屋を訪れ、今後の対応について小声で話し合う。
「うーん。最初は今までの恨み辛みを時系列に記して送りつけてやろうかと思ってたんだけど、すごい枚数になりそうだったから面倒になってやめたんだ。だからシンプルに、僕達に魔力がある可能性あり。早く何とかしないと王家にバレて一族皆死ぬかもよ?って2行にまとめて送った。」
「それ、手紙じゃなくて脅迫状・・・・・・」
「大丈夫。手紙はケンウッドに届けてもらったから上手くフォローしてくれるはずだよ。大体それくらい強く出ないとあの人は王宮から出てこないよ。いい加減当主の仕事してもらわないと、僕の成人待たずに潰す事を本気で考えなくちゃいけないし」
「お兄様、本当にお父様のこと嫌いよね・・・」
「うん。大嫌い」
ものすごくいい笑顔で答えるクリスフォードを見て、「これ生理的に無理な粋に入ったな・・・」とヴィオラは少しばかり父を憐れんだ。
「お父様は力になってくれるかな」
「ならざる得ないでしょ。僕の体調不良が魔力酔いによるものなら、魔力制御を一切習ってない僕らはいずれ魔力暴走を起こす可能性がある。そうなったら隠した所でどのみち世間にバレるんだから、父上は動かざる得ない。だから焦ってこっち来るんでしょ」
なるほど。と納得しながらこの間から気になっていた事をクリスフォードに尋ねる。
「もし私にも魔力があるなら、何で私には何の症状もないんだろう?お兄様みたいに発作も起こした事ないわ」
「そうなんだよね。ヴィオラは平気なんだもんね。まあ、それも含めて調べてもらおう。それに、判定で魔力がある事が証明されれば、僕の病弱はヴィオラのせいではないって母上に事実を突き付けることができるよ」
「っ!」
(そうだ。私はずっと母に、お腹にいた時に兄から健康な体を奪って生まれてきた疫病神だと言われて育ってきた)
クリスフォードもそれを知っていて、時には言い返してくれたり、自分も一緒に傷ついたりして、クリスフォードにとっても母の罵りは心に深く傷を残した。
「僕は、母上を絶対許さないよ。どんな手を使ってでも破滅させる。ヴィオを傷つけ続けた分だけ、きっちり返してやるから」
「お兄様。私は大丈夫だから、危ないことしないで」
「わかってるよ」
目を細めて優しい微笑みで頭を撫でてくれるクリスフォードが危うく見えて、思わず兄の服の裾を掴んだ。
どんなに優秀だと言われようが、当主然としていようが、ヴィオラ達はまだ10歳の子供で、大人の庇護のもとで守られるべき存在なのだ。
親代わりのように振る舞う兄の優しさに、ヴィオラの胸が苦しくなる。クリスフォードは一体誰に甘えればいいのか。頼むから1人で何でも背負わないで欲しいと思う。
「お兄様も、私も、まだ子供なのよ。急いで大人になろうとしないで。私の事も頼って。私もお兄様を守るわ」
クリスフォードは真剣なヴィオラの言葉に、キョトンとした顔で数秒固まった後、またフワリと柔らかい笑みを浮かべる。
「またヴィオラが大人みたいに見える」
「前世のおかげでお兄様より精神年齢上だって言ったでしょ」
「そっか。それは頼もしいね」
2人でふふっと笑い合って、それぞれ眠りについた。
そして、久しぶりの父親との面会の日。
「そんな・・・、嘘だろ・・・・・・っ」
ヴィオラ達の顔を見て驚愕の声を溢したあと、
父は突然泣き出した。
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