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第二章 〜点と線 / 隠された力〜
16. 一連托生
しおりを挟む「もし僕に魔力があるなら、この体調不良は魔力酔いによる可能性が高いって事なのかな?実際魔力酔いってどんな症状なの?ずっと魔力無しって言われてたからその辺の知識は浅いんだよね。ロイドわかる?」
「いえ、私は子爵家の出なので生活魔法くらいしか使えず、詳しい話は聞いたことないです」
「高魔力保持者の扱いについては属性により家によって独自の習わしがあると聞いた事があります。魔力が高いほど暴走した時の被害が大きいため、高魔力保持者に関しては安定するまで高位貴族と国とで二重に管理する必要があると。ただ、魔力酔いや魔力暴走の対処法については私も聞いた事がありません」
ロイドに続いてケンウッドも詳しい事情はわからないようだった。
(病院みたいに検査できる精密機器があればなぁ)
それさえあれば、病なのか魔力酔いによるものなのか判別できるのに。と、つい無いものねだりしそうになってしまう。こればかりはミオの知識でも作り方は分からない。
「とりあえず、この場合1番手っ取り早いのは僕とヴィオラが魔力判定を受けることなんだけど」
クリスフォードの意見を聞いてロイドとケンウッドがギョッとしたように慌てて反対する。
「ダメです!再判定をする事自体が教会にケンカ売ってますし、仮に判定してもらえたとしても魔力が判明した時点で偽証罪が成立して捕えられてしまいます!」
「突然魔力に目覚めた事にするのは?それに平民の人とかも僕らと同じくらいの年で魔力が発覚して国に保護されるケースもたまにあるんでしょ?」
「いやそれは無理があるかと・・・。魔力は遺伝による生まれつきのものなので赤子の時点でわかります。平民は魔力を持たない人がほとんどなので、元々赤子の時の魔力判定の義務はありません。だから後々に魔力が発覚しても偽証の罪には問われない。ですが貴族は違います。多分ですが奥様は当時の司祭を買収して偽りの判定結果を捏造した可能性が高いです。その証拠を見つけない限り一族連帯で罰せられる事は免れません。それに、どんなに隠しても優秀な諜報部隊ならオルディアン家が再判定した事を明らかにするなど朝飯前ですよ。高位貴族の家は影を有してる所が多いのでどこで揚げ足取られるかわかりません」
「それ!その母上が魔力判定を偽証したっていうのも意味がわからないんだよね。何の為に?だって当時、そのせいで僕らが不貞の子と疑われて母上は追い詰められたんでしょ?偽証して母上に何のメリットがあるの?」
「それは───」
ケンウッドが言葉に詰まる。
そこはヴィオラも不思議に思っていた。父も母も高魔力保持者だ。魔力が遺伝により継承していくものならヴィオラ達も魔力持ちという事になる。
それを魔力無しと偽証した母親の行動の意味。父を執着するほど愛しているのに、何故不貞を疑われるような罪をわざわざ犯す必要がある?一体何がしたいのか全くわからない。
ロイドを見ると彼もこの件について話し出す様子はない。
「ふーん。つまり聞くなら父上に聞けってこと?」
「申し訳ありません。私共から話していい内容ではないと思いますので」
「わかった。それは後回しでいいや。どうせロクな理由じゃないだろうからね。とりあえず僕の体の状態をどうやって調べるかだ。バレットを捕まえて自白させるか、どうにかして魔力判定を受け直すか。この2択だね」
「───やっぱりお父様に頼むしかないと思う」
「ヴィオ!?」
「お兄様、聞いて。ケンウッドの話が本当なら、オルディアン家にも水属性の高魔力保持者の扱いについて、代々伝わる皆伝のようなものがあるはず。医者一族であるなら尚更医療に特化した門外不出の水魔法とかあるんじゃないかな。それにお父様は高魔力保持者でしょう?それなら魔力酔いや魔力暴走の症状や対処法について詳しいんじゃない?」
「・・・・・・・・・」
「お兄様」
「いきなりヴィオが賢くなってて驚いてる」
(失礼な!!)
「私も、旦那様にお話するべきだと思います」
「何ケンウッド、舌の根も乾かぬうちに父上に寝返るつもり?」
「違います!今までは伯爵家に仕えてましたが、個人に忠誠を誓ったのはクリスフォード様が初めてですよ。私は一度誓った忠誠を違えることはしません。ただこの問題は当初予定していたものより規模が大きくなっていて、伯爵家の内情だけに止まらず、王家も巻き込む事態に成りかねません。何としても奥様の独断での犯行であると裏付けを取るためにも、使える者は何でも使うべきかと思います」
ぶふっ、クックック。
ケンウッドのあられもない言い分にクリスフォードはふきだす。
「いいねケンウッド。現当主を駒扱いするなんて。よし、僕もその案に乗った。さあ、どんな方法で父上を脅そうか」
ロイドは楽しそうに企んでいるクリスフォードを眺めながら「いいのかこれで・・・次期当主がまだ子供なのに・・・こんなに真っ黒でいいのか」とブツブツ言いながら眉間を手で押さえている。
「お兄様、ケンウッド。そろそろカルテを元の場所に戻した方がよくない?」
お母様達はまだ帰らないだろうけど、邸には母付きの使用人が何人かいる。彼女達に怪しまれたらすぐにお母様の耳に入ってしまうだろう。
「そうですね。もうすぐ彼女達が掃除する時間になってしまうので私が戻してきます」
そう言って、ケンウッドが全くの無音で天井裏へと消えていった。
「忍者!?」
「??・・・忍者って何?」
クリスフォードが不思議そうに首を傾げる。
驚きで思わず前世ワードを出してしまったヴィオラは慌てたが、クリスフォードの興味深々な瞳に抗えず、更に失態を重ねてしまう。
「あー、ええと、忍者は前世の日本の言葉で、今でいう影と同じかな。大昔に偉い人に仕えてた諜報と暗殺のプロ集団がいたの。訓練された身体能力の高い人達が真っ黒な装束を着て音も立てず闇夜に紛れて行動するの」
「何それ。カッコいいね!ケンウッドも黒服着れば忍者とやらになれるんじゃないかな。強いし」
「案外似合うかも!」
ケンウッドの身軽さに驚いてヴィオラは忘れていた。
後ろにまだロイドがいたことを。
「あの・・・前世とはなんのことでしょう?」
ロイドの質問にハッとして振り向く。
(そうだ!まだロイドがいたのに思い切り前世の話しちゃったよ!)
がっくりと肩を落とすヴィオラの肩に手を乗せて、クリスフォードが慰めてくる。
「ごめんね、ヴィオ。余計な事聞いちゃって。でもその後はヴィオのせいだよ?まあロイドには、僕達の表に立ってもらうためにも話した方がいいと思うんだ」
「そっか・・・。うん。そうだね。一連托生になってもらおう」
「───それ、聞かない選択肢あります?」
ロイドは嫌な予感がしたので一応拒否の姿勢を示したが、双子の2人は同じ顔でにっこり笑って首を横に振った。
そしてロイドもヴィオラの秘密を知る。
これから実行する2人の計画も聞き、その人員に勝手に自分も加えられていた事も知る。
子供達2人は、もしそれが実現すればどれだけの利益を産むのか気づいていない。多分、オルディアン家の歴史上の中でも類を見ない発展と栄光を手にするだろう。
そうなると必然的に虫が湧く。
出る杭は打たれるのだ。
スタートの時点でイザベラという厄介な虫に纏わりつかれているのに、2人は更に虫が大量発生する中へ飛び込んでいこうとしている。
ずっと代行で薬産業の運営をしていたロイドにはわかる。多分2人が立ち上げる商会は国内トップクラスに躍り出るだろう。それどころか世界中にも通用するグローバルな商会に爆発的な成長を遂げるはず。
(む・・・虫除け作業員が、いくらいても足りない!)
ただでさえ多忙なロイドの、
受難の日々が今始まる。
(休み!休みをくれーっ!!泣)
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