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第一章 〜初恋 / 運命が動き出す音〜
9. 大好きな人との約束
しおりを挟むそれは青天の霹靂だった。
「え?・・・領地?」
ヴィオラは今、来週領地に帰るため準備をしておけと母に命じられた。
何故ルカディオと婚約した今なのか、意味が分からず放心する。
「それは・・・短期的なものですか?」
「いいえ。クリスの病気が治るまでよ」
「・・・・・・何故私まで?」
「まあ!薄情な娘ね!兄が病で苦しんでいるっていうのに、支えることもせず、自分は婚約者と楽しく遊んで暮らしていくつもり?」
「そ、そんな、つもりは・・・っ」
「お前、最近調子に乗っているのではなくて?」
ヒュッと息を飲んだ。
突然当てられた魔力による威圧。
ガタガタと体が震え、耳奥で警報が鳴る。
これは殺気だ。
何故自分は実の母親に殺気を当てられているのか。
意味がわからない。自分は何をしたのか?
「旦那様とフォルスター侯爵家には領地に戻る事は既に了承を得ています。お前の意見は聞いてないわ。言われた通り出発までに荷物をまとめておきなさい。これは決定事項です」
汚物を見るような視線と、有無を言わせない強い口調でヴィオラに命じ、母親は部屋から出て行く。
威圧が解け、その場に座り込んだ。
まだ体が震えている。何故自分は、あんな憎悪の目を向けられなければならないのだろう。
それよりも─────、
「ルカに・・・会えなくなっちゃう」
涙が溢れた。
幸せな日々が、終わろうとしている。
**********
「領地に・・・帰るって聞いた」
ルカディオが、悲しげに眉を寄せて呟いた。
邸の裏手のいつもの場所で2人は向かい合い、
ルカディオはヴィオラの両手を自分のそれで握りしめた。
「領地で・・・新薬が出来たから、現地で薬物治療する事になったんだって・・・。私もクリスもまだ8歳だから、親の言う事聞くしかなく・・・てっ」
数日後にはここを離れ、ルカディオと会えなくなると思うと涙がボロボロと溢れる。
大好きな人と、離れ離れ。その事実がヴィオラの胸を酷く締め付けた。
「ルカに会えなくなるの・・・嫌だよぉっ、なんで・・・何でお母様は私に意地悪するの・・・っ、何で大事なものを取り上げるの・・・っ、何でっ」
小さく、悲痛な声を上げて泣くヴィオラが痛ましくて、ルカディオはその体を抱きしめた。
自分も辛くて涙が滲む。
「俺も、会えないの嫌だよ・・・っ。でも子供の俺らには何も出来ない。それが悔しい・・・っ」
「うえ・・・っ、ふっ、ふええんっ」
声を上げながらヴィオラはルカディオの背中に縋りついた。好きで、好きで、大好きで。ずっと一緒にいたい男の子。
でも、ここに1人残ってクリスフォードと離れるのも考えられない。
何故今のまま3人でいられないのか。
悲しくて悲しくて仕方ない。
「ヴィオ・・・、聞いて」
体を離し、ルカディオはヴィオラの両肩を掴んで真っ直ぐ見つめる。 頬に触れて、優しくヴィオラの涙を拭い、決意表明をした。
「俺、これから剣の稽古めちゃくちゃ頑張るよ。頑張って、必ずヴィオの騎士になるから」
「私の騎士?」
「うん。ヴィオを守る騎士。俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから」
「一生?ホント?」
「うん!約束!だってヴィオは俺のお嫁さんになるんでしょ?結婚したらずっと一緒にいられる」
「うん!ルカのお嫁さんになってずっと一緒にいたい。だから、私の事忘れないで。迎えに来るの待ってるね」
「忘れるわけないじゃん!約束って言ったでしょ」
「うん!」
ふわっと花が咲いたようなヴィオラの笑顔が溢れる。ルカディオとの約束で心が幸せになった。
その笑顔を近くで直視したルカディオの顔が茹で蛸のように赤く染まる。
そして何かを決意したようにゆっくりと顔を近づけ、チュッと軽いリップ音を響かせた。
────2人の、初めてのキスだった。
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