12 / 228
第一章 〜初恋 / 運命が動き出す音〜
8. 良妻賢母を演じる女 sideクリスフォード
しおりを挟む「───は?・・・今なんて言いました?」
母イザベラの発言に、クリスフォードは固まった。
就寝前、母親が慈悲に満ちた微笑みを浮かべ、ベッドに横たわるクリスフォードの手を握っている。
これはいつもの儀式のようなもの。
息子を溺愛している。看病している。
献身的な良妻賢母。
社交界でそう言われる為の、見せかけの儀式。
現実は、自分しか愛していない強欲な女。
そんな性根の腐った女がとんでもない事を言い出した為、クリスフォードは瞬時に母親の思惑を探り出す。
「ですから、私とクリスとヴィオラは、来週から領地で静養する事になりました。この前クリスが酷い発作を起こして数日寝込んだでしょう?侍医と相談して自然豊かな土地で療養した方が良いだろうっていう話になったのよ」
「何で急にそんな話に・・・」
「急ではないわ。以前から話は出ていました。今回領地で新しい薬草の栽培に成功したので、新たな薬物療法を取り入れてみる事になったのよ。クリスは伯爵家を継ぐために、15才になったら王立魔法学園に入学しなければならないの。その為にも、より良い環境で治療する事が大事なのよ」
嘘だ。
それは表向きの理由だろう事は子供のクリスフォードでもわかった。この女が息子の病を治したいなんてこれっぽっちも思ってないのは知っている。
溺愛されているはずのクリスフォードは、実際は『息子の看病をする愛情深い賢母』の立場を得る為の道具に過ぎない。
じゃなければ、とっくの昔に領地に戻って治療しているはずだ。
「ですが、ヴィオラはつい先日ルカディオと婚約したばかりなんですよ?これから侯爵家で花嫁修行を始めるんじゃないんですか?」
「それに関しては、領地で家庭教師に花嫁修行してもらうから大丈夫よ。侯爵家とも話はついてるし」
ニッコリと、満面の笑みで嬉しそうに答える母親に自分の見解が正解だと脳が訴える。
目的はヴィオラだ。
領地に篭って、父上の目が届かない場所で虐げるつもりなのだ。この女は。
ヴィオラとルカディオが関わるようになってから、表立って体罰を行う事が出来なくなった。
ヴィオラに傷をつけて侯爵家に情報が回ってしまうのを恐れたのだろう。それから3年間ヴィオラは目立った怪我をする事はなかった。
ルカディオに恋をして交流を深める事で、以前は悲壮感が常に漂っていたヴィオラだったが、今は幸せオーラを漂わせており、その姿がこの女を3年もの間苛立たせてきたのだろう。
最近のヴィオラを見る目が殺気立っているのがいい証拠だ。
(────このまま領地なんかに行ったらこの女にヴィオラが殺されるかもしれないじゃないかっ)
出発までに味方を増やさなくてはならない。
大人で、父上寄りの奴がいい。
なりふり構ってられない。
ヴィオラを守る為に、
脅してでもあのくそ親父に動いてもらう。
154
お気に入りに追加
7,348
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
勘違いは程々に
蜜迦
恋愛
年に一度開催される、王国主催の馬上槍試合(トーナメント)。
大歓声の中、円形闘技場の中央で勝者の証であるトロフィーを受け取ったのは、精鋭揃いで名高い第一騎士団で副団長を務めるリアム・エズモンド。
トーナメントの優勝者は、褒美としてどんな願いもひとつだけ叶えてもらうことができる。
観客は皆、彼が今日かねてから恋仲にあった第二王女との結婚の許しを得るため、その権利を使うのではないかと噂していた。
歓声の中見つめ合うふたりに安堵のため息を漏らしたのは、リアムの婚約者フィオナだった。
(これでやっと、彼を解放してあげられる……)
ガン飛ばされたので睨み返したら、相手は公爵様でした。これはまずい。
咲宮
恋愛
アンジェリカ・レリオーズには前世の記憶がある。それは日本のヤンキーだったということだ。
そんなアンジェリカだが、完璧な淑女である姉クリスタルのスパルタ指導の甲斐があって、今日はデビュタントを迎えていた。クリスタルから「何よりも大切なのは相手に下に見られないことよ」と最後の教えを、アンジェリカは「舐められなければいいんだな」と受け取る。
順調に令嬢方への挨拶が進む中、強い視線を感じるアンジェリカ。視線の先を見つけると、どうやら相手はアンジェリカのことを睨んでいるようだった。「ガン飛ばされたら、睨み返すのは基本だろ」と相手を睨み返すのだが、どうやらその相手は公爵様だったらしい。
※毎日更新を予定しております。
※小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる