6 / 228
第一章 〜初恋 / 運命が動き出す音〜
2. 双子の兄妹
しおりを挟む
「ヴィオ・・・ごめんね。僕のせいで・・・っ」
微睡の中、近くで悲痛な声が聞こえる。
(・・・この声は・・・お兄様?)
今にも泣き出しそうな声で謝罪を繰り返す兄の声を聞き、ヴィオラは意識を覚醒させる。
ゆっくり目を開けた先に見えたのは、泣き腫らしたような目をした、自分と同じ顔の双子の兄、クリスフォードの姿だった。
「・・・っ、ヴィオ!」
「お兄・・・様。・・・泣いてる・・・の?」
「良かった・・・っ、良かったヴィオ!」
腫れて赤くなった瞳からボロボロと涙を流す兄の姿が痛ましくて、柔らかい黒髪に触れ、頭を撫でる。
2人は双子だが、プラチナブロンドの髪色をしているヴィオラとは対称的に、クリスフォードは艶やかで流麗な黒髪のため、同じ顔、同じアメジストの瞳を持っていても見分けは容易に出来た。
「泣かないで、お兄様・・・」
「だって・・・怖かったんだっ、ヴィオは2週間も意識不明だったんだよ!このまま、目が覚めなかったらどうしよう・・・っ、僕を置いて死んでしまったらどうしようって・・・ずっと怖かったんだ!」
そう。ヴィオラは鞭打ちで意識を失った後、出血多量によりしばらく予断を許さない状況だった。
優秀な侍医の素早い対処により一命を取り留め、峠を越える事ができたのだ。
クリスフォードから詳細を聞き、現状を思い出したヴィオラは青ざめた。
「カリナは・・・、カリナは無事ですか?」
あの時自分を庇ってくれた専属侍女。
彼女も何度か母から鞭打たれた。
打たれたらどれだけ痛いか、いつもやられている自分が1番分かっている。
あれは肌に傷が残る。自分より3歳年上とはいえ、まだ13歳の少女なのだ。嫁入り前の少女の背中に傷が残ってしまえば、人生が大きく左右されてしまう。
カリナの今後を憂い悩み出すヴィオラを見て、クリスフォードは違和感を感じ、不安げに声をかける。
「ヴィオ・・・?なんか・・・いつものヴィオと違う」
ぎくり。
何も悪い事はしていないが、条件反射でヴィオラは肩を震わせた。流石は双子の兄なだけあって妹の変化に鋭く反応する。
確かに今のヴィオラは、倒れる前のヴィオラとは違う。
今のヴィオラは、体は10歳だが中身は10歳の自分と前世のミオの28年分の知識が同居しているような不思議な感覚だった。
ミオを思い出しても、この世界で生きてきたのはヴィオラであってミオではない。ヴィオラとしての記憶が濃い為、人格が混ざる事はなかった。
この不思議な現象を、訝しんでいる兄にどうやって説明すればいいのか、ヴィオラは言葉に詰まる。
「・・・えーと。・・・・・・・・・その・・・」
「ヴィオ?」
クリスフォードの性格上、誤魔化しは逆効果であることをヴィオラは知っている。
同じ10歳だというのに、やはり王族に重宝される天才医師と呼ばれた父の血か、クリスフォードはとても優秀な頭脳を持っている。
(本当のこと言うまで引き下がらないだろうしな・・・。でも何て言えばいいんだろう・・・)
黙り込むヴィオラに再び声を掛けようとクリスフォードが口を開くが、何かの落下音と水音に声をかき消されてしまう。
何ごとかと振り返れば、水を張った桶を床に落とし、涙を浮かべたカリナが扉近くに立っていた。
「お嬢様!」
落とした桶など気にしていられず、カリナはヴィオラに駆け寄り、両手でヴィオラの手を握りしめながら涙を溢す。
「カリナ!動いて平気なの?背中痛いでしょう?私なんかを庇ったから・・・っ」
「お嬢様・・・っ、お目覚めになられて良かった・・・っ。私は大丈夫です。お嬢様の方が何倍も怪我が酷かったんですよっ。一時はどうなるかと・・・.本当に良かったです・・・っ」
ヴィオラの手を握るカリナの両手は震えていた。しっかりした侍女といってもまだ13歳の少女なのだ。仕えていた主が血塗れで死にかけた事はカリナにとってもトラウマだった。
「心配かけてごめんね。カリナ。守ってくれてありがとう。背中、傷はどうなったの?」
「私も侍医の方に診てもらえたので、間近で見ないとわからないくらいには治るそうです」
「そう。良かった・・・」
ホッとして強張っていた体が解れる。
カリナも安心したようで、水桶を片付けに部屋を出て行った。
この間もクリスフォードの視線がずっと刺さっていた。きっともう、兄はヴィオラの変化に確信を持っているのだろう。
双子というのはどうも隠し事ができないのだ。兄がヴィオラの事なら何でもわかるように、ヴィオラもまた、クリスフォードの事なら何でもわかる。
「ヴィオ、今はまだ目覚めたばかりだから無理しないで横になってて」
優しい笑顔を向けて妹の頭を撫でる兄の手の温もりに、ヴィオラは涙が出そうになる。
「はい。お兄様も、目冷やしてね」
「・・・・・・・・・」
「お兄様?」
「許せない・・・あのクソばばあっ。・・・僕が病弱じゃなければ・・・っ、子供じゃなければっ、アイツからヴィオを守れるのに・・・っ、悔しいっ」
クリスフォードの手元に視線を向けると、色が白く変わる程に強く拳を握りしめていた。
(きっとあの時、私と母にあった出来事を執事のロイドから全部聞いたんだろうな)
昔からクリスフォードは、自分が病弱なせいで妹の存在を否定する母親の姿に傷ついていた。
ヴィオラへの怨嗟の言葉を吐きながら、自分への愛を語る異常な母親を疎い、嫌悪感を抱くのに然程時間はかからなかった。
「お兄様・・・。お母様は?」
「父上の命令で部屋に監禁されてるよ。まあ・・・その命令も使いの者が伝令に来ただけで、娘が意識不明だっていうのに帰っても来ないからね」
「・・・・・・そう」
王族の専属侍医である父親は、万事に備えるために王宮を出ることがままならない。
伯爵家に自分の弟子である優秀な侍医を雇った途端、クリスフォードが発作を起こしても帰って来なくなった。
そのせいで母親のヴィオラに対する冷遇が酷くなり、クリスフォードは父親までも恨むようになってしまった。
ヴィオラが傷つけられる度に同じように傷つき、ヴィオラの代わりに怒ってくれる優しい兄。
未だ強く拳を握りしめている兄の手に、自分の手を重ね、笑って見せる。
「私は大丈夫。だってお兄様が側にいてくれるもの。それにカリナも、ロイド達もいるし」
だから手の力を抜いて。傷がついてしまう。とヴィオラがお願いすれば、漸くクリスフォードの体の強張りが解けた。
「・・・じゃあ、ロイド達にヴィオラが目を覚ましたって伝えてくるね。眠かったら寝てていいよ」
執事達を呼びに行く兄の姿を眺めて、ヴィオラは兄には全てを話すことを決心した。
信じてもらえないかもしれないが、兄に嘘はつきたくないと思う。
それに、ミオの記憶を思い出してヴィオラには気づいた事があった。
(私は、お兄様に愛されているのね。そしてカリナも私の事を心配して泣いてくれる)
今までは母の愛を乞うあまり、周りが見えていなかった。でも今はミオの記憶のおかげで視野が広がり、客観的な思考を持てるようになっていた。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
ヴィオラはこの邸で1人ではなかった。周りをよく見渡せば、兄も、カリナも、執事のロイドも、護衛の騎士達も、皆ヴィオラによくしてくれていたのに。
母に存在を否定されるたびに、目の前が闇に包まれて何も見えなくなっていた。
(私は1人じゃなかった)
ずっとこの邸で1人だと思っていたのだ。私を愛してくれるのは、初恋の彼だけだと思っていた。
(ルカ・・・会いたい。今日の出来事をルカに話したら、「良かったね」って喜んでくれるかな)
大好きな男の子と交わした約束に思いを馳せる。
「早く迎えに来て。ルカ・・・」
恋しい彼の姿を思い浮かべながら、ヴィオラはまた眠りについた。
微睡の中、近くで悲痛な声が聞こえる。
(・・・この声は・・・お兄様?)
今にも泣き出しそうな声で謝罪を繰り返す兄の声を聞き、ヴィオラは意識を覚醒させる。
ゆっくり目を開けた先に見えたのは、泣き腫らしたような目をした、自分と同じ顔の双子の兄、クリスフォードの姿だった。
「・・・っ、ヴィオ!」
「お兄・・・様。・・・泣いてる・・・の?」
「良かった・・・っ、良かったヴィオ!」
腫れて赤くなった瞳からボロボロと涙を流す兄の姿が痛ましくて、柔らかい黒髪に触れ、頭を撫でる。
2人は双子だが、プラチナブロンドの髪色をしているヴィオラとは対称的に、クリスフォードは艶やかで流麗な黒髪のため、同じ顔、同じアメジストの瞳を持っていても見分けは容易に出来た。
「泣かないで、お兄様・・・」
「だって・・・怖かったんだっ、ヴィオは2週間も意識不明だったんだよ!このまま、目が覚めなかったらどうしよう・・・っ、僕を置いて死んでしまったらどうしようって・・・ずっと怖かったんだ!」
そう。ヴィオラは鞭打ちで意識を失った後、出血多量によりしばらく予断を許さない状況だった。
優秀な侍医の素早い対処により一命を取り留め、峠を越える事ができたのだ。
クリスフォードから詳細を聞き、現状を思い出したヴィオラは青ざめた。
「カリナは・・・、カリナは無事ですか?」
あの時自分を庇ってくれた専属侍女。
彼女も何度か母から鞭打たれた。
打たれたらどれだけ痛いか、いつもやられている自分が1番分かっている。
あれは肌に傷が残る。自分より3歳年上とはいえ、まだ13歳の少女なのだ。嫁入り前の少女の背中に傷が残ってしまえば、人生が大きく左右されてしまう。
カリナの今後を憂い悩み出すヴィオラを見て、クリスフォードは違和感を感じ、不安げに声をかける。
「ヴィオ・・・?なんか・・・いつものヴィオと違う」
ぎくり。
何も悪い事はしていないが、条件反射でヴィオラは肩を震わせた。流石は双子の兄なだけあって妹の変化に鋭く反応する。
確かに今のヴィオラは、倒れる前のヴィオラとは違う。
今のヴィオラは、体は10歳だが中身は10歳の自分と前世のミオの28年分の知識が同居しているような不思議な感覚だった。
ミオを思い出しても、この世界で生きてきたのはヴィオラであってミオではない。ヴィオラとしての記憶が濃い為、人格が混ざる事はなかった。
この不思議な現象を、訝しんでいる兄にどうやって説明すればいいのか、ヴィオラは言葉に詰まる。
「・・・えーと。・・・・・・・・・その・・・」
「ヴィオ?」
クリスフォードの性格上、誤魔化しは逆効果であることをヴィオラは知っている。
同じ10歳だというのに、やはり王族に重宝される天才医師と呼ばれた父の血か、クリスフォードはとても優秀な頭脳を持っている。
(本当のこと言うまで引き下がらないだろうしな・・・。でも何て言えばいいんだろう・・・)
黙り込むヴィオラに再び声を掛けようとクリスフォードが口を開くが、何かの落下音と水音に声をかき消されてしまう。
何ごとかと振り返れば、水を張った桶を床に落とし、涙を浮かべたカリナが扉近くに立っていた。
「お嬢様!」
落とした桶など気にしていられず、カリナはヴィオラに駆け寄り、両手でヴィオラの手を握りしめながら涙を溢す。
「カリナ!動いて平気なの?背中痛いでしょう?私なんかを庇ったから・・・っ」
「お嬢様・・・っ、お目覚めになられて良かった・・・っ。私は大丈夫です。お嬢様の方が何倍も怪我が酷かったんですよっ。一時はどうなるかと・・・.本当に良かったです・・・っ」
ヴィオラの手を握るカリナの両手は震えていた。しっかりした侍女といってもまだ13歳の少女なのだ。仕えていた主が血塗れで死にかけた事はカリナにとってもトラウマだった。
「心配かけてごめんね。カリナ。守ってくれてありがとう。背中、傷はどうなったの?」
「私も侍医の方に診てもらえたので、間近で見ないとわからないくらいには治るそうです」
「そう。良かった・・・」
ホッとして強張っていた体が解れる。
カリナも安心したようで、水桶を片付けに部屋を出て行った。
この間もクリスフォードの視線がずっと刺さっていた。きっともう、兄はヴィオラの変化に確信を持っているのだろう。
双子というのはどうも隠し事ができないのだ。兄がヴィオラの事なら何でもわかるように、ヴィオラもまた、クリスフォードの事なら何でもわかる。
「ヴィオ、今はまだ目覚めたばかりだから無理しないで横になってて」
優しい笑顔を向けて妹の頭を撫でる兄の手の温もりに、ヴィオラは涙が出そうになる。
「はい。お兄様も、目冷やしてね」
「・・・・・・・・・」
「お兄様?」
「許せない・・・あのクソばばあっ。・・・僕が病弱じゃなければ・・・っ、子供じゃなければっ、アイツからヴィオを守れるのに・・・っ、悔しいっ」
クリスフォードの手元に視線を向けると、色が白く変わる程に強く拳を握りしめていた。
(きっとあの時、私と母にあった出来事を執事のロイドから全部聞いたんだろうな)
昔からクリスフォードは、自分が病弱なせいで妹の存在を否定する母親の姿に傷ついていた。
ヴィオラへの怨嗟の言葉を吐きながら、自分への愛を語る異常な母親を疎い、嫌悪感を抱くのに然程時間はかからなかった。
「お兄様・・・。お母様は?」
「父上の命令で部屋に監禁されてるよ。まあ・・・その命令も使いの者が伝令に来ただけで、娘が意識不明だっていうのに帰っても来ないからね」
「・・・・・・そう」
王族の専属侍医である父親は、万事に備えるために王宮を出ることがままならない。
伯爵家に自分の弟子である優秀な侍医を雇った途端、クリスフォードが発作を起こしても帰って来なくなった。
そのせいで母親のヴィオラに対する冷遇が酷くなり、クリスフォードは父親までも恨むようになってしまった。
ヴィオラが傷つけられる度に同じように傷つき、ヴィオラの代わりに怒ってくれる優しい兄。
未だ強く拳を握りしめている兄の手に、自分の手を重ね、笑って見せる。
「私は大丈夫。だってお兄様が側にいてくれるもの。それにカリナも、ロイド達もいるし」
だから手の力を抜いて。傷がついてしまう。とヴィオラがお願いすれば、漸くクリスフォードの体の強張りが解けた。
「・・・じゃあ、ロイド達にヴィオラが目を覚ましたって伝えてくるね。眠かったら寝てていいよ」
執事達を呼びに行く兄の姿を眺めて、ヴィオラは兄には全てを話すことを決心した。
信じてもらえないかもしれないが、兄に嘘はつきたくないと思う。
それに、ミオの記憶を思い出してヴィオラには気づいた事があった。
(私は、お兄様に愛されているのね。そしてカリナも私の事を心配して泣いてくれる)
今までは母の愛を乞うあまり、周りが見えていなかった。でも今はミオの記憶のおかげで視野が広がり、客観的な思考を持てるようになっていた。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
ヴィオラはこの邸で1人ではなかった。周りをよく見渡せば、兄も、カリナも、執事のロイドも、護衛の騎士達も、皆ヴィオラによくしてくれていたのに。
母に存在を否定されるたびに、目の前が闇に包まれて何も見えなくなっていた。
(私は1人じゃなかった)
ずっとこの邸で1人だと思っていたのだ。私を愛してくれるのは、初恋の彼だけだと思っていた。
(ルカ・・・会いたい。今日の出来事をルカに話したら、「良かったね」って喜んでくれるかな)
大好きな男の子と交わした約束に思いを馳せる。
「早く迎えに来て。ルカ・・・」
恋しい彼の姿を思い浮かべながら、ヴィオラはまた眠りについた。
276
お気に入りに追加
7,379
あなたにおすすめの小説
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~
参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。
二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。
アイシアはじっとランダル様を見つめる。
「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」
「何だ?」
「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」
「は?」
「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」
婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。
傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。
「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」
初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。
(あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?)
★小説家になろう様にも投稿しました★
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる