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オリヴィアside
13. 別れと再会
しおりを挟む(最低だわ、私……)
未だにルミナス様を忘れられないクセに、レイモンドの初恋の人に嫉妬している。なんて浅ましい女なのか。自分で自分が嫌になる。
レイモンドに触れていた手を離そうとした時、その手を彼が掴み、甘えるように頬を擦り寄せた。
「嬉しいな。初めてリアの嫉妬する顔が見られた」
「え?」
「俺、ちゃんとリアに愛されてたんだな」
「当たり前じゃない。何を言っているの?」
「でも、リアの心には違う男が居座ってるだろ?」
「え……」
「口説いてる時から気づいてたよ。仕事では堂々としてるリアが、恋愛には極端に臆病で、警戒心を強くしていた。その原因になった男が忘れられなかったんだよな?」
見透かされるような視線に思わず目を逸らすと、腰に手を回され、グイッと引き寄せられる。
まるで逃がさないというように、額同士を寄せられた。
「ずっとその男を忘れさせたかった」
「貴方もその初恋の人を忘れたかったの?」
「ああ。リアと愛し合えたら、忘れられると思った」
「愛してるわ。だから純潔を捧げたんじゃない」
「ああ。この体を知ってるのは俺だけだ」
「貴方も私だけを見てくれてた?」
「見てるよ。今も愛してるし、国に連れ帰りたい。でもリアは一緒に来てはくれないんだろう?」
再びレイモンドの瞳から涙が溢れる。どうにもできない現実が悲しくて、彼にしがみついた。
「ごめんなさい……平民の私では貴方の足枷にしかならない。幸せにできない……っ。貴方だってすべてを捨てて平民になるなんて無理でしょう?」
彼は自分の商会やそこで働く人たちを大事に思ってる。私一人のために彼らを見捨てるなんて出来ないはずだ。
「今度はリアのことが忘れられそうにないよ」
嗚咽をこぼす彼を、力いっぱい抱きしめた。
彼が私のためにすべてを捨てきれないように、私も今持っているものを捨てきれない。
そこまでの想いと言われれば何も言えない。
すべてを捨てることが出来たルミナス様への想いを超えることは出来なかったけれど── それでも純潔を捧げるほど彼を愛してたのは事実だ。
その後、私たちは朝まで何度も抱き合った。
何度も「愛してる」と囁き合った。
これで最後だというように、その身に自分の証を刻みつけて──そして別れた。
「リア。どうか幸せに──」
「レイモンドも約束して。必ず幸せになるって」
「ああ……約束するよ。いつかお互い思い出に出来たら、また会おう。今度は商談相手として──」
「ええ。望むところよ。びた一文まけないから」
ハハっと声を上げて笑うレイモンドに、私は最後のキスをした。レイモンドも私を強く抱きしめ、キスに応えてくれた。
「さようなら、レイモンド」
「さようなら、リア」
私の二度目の恋は、こうして終わった。
それからは、ひたすら仕事に専念した。何度か求婚されたけれど、すべて断った。
もう貴族と付き合うつもりはないし、それ以前に、ルミナス様より好きだと思える人でない限り、付き合うべきではないと思った。
レイモンドは何も言わなかったけれど、私の中のルミナス様の存在が、無自覚に彼を傷つけていたはずだ。
完全にルミナス様を忘れることが出来ない限り、きっと相手を傷つけ続けるだろう。だったら最初から恋人など作らない。
誰かを傷つけるくらいなら、一人でいい。前世のように、自分のせいで誰かを不幸にするのはもう嫌だ。
そして、祖国を出てから四年の月日が経った頃、それは突然にやってきた。
「オリヴィア……っ!?」
「嘘……どうして──」
大声で名を呼ばれ、振り返った先にいたのは、
ルミナス様だった。
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