15 / 26
オリヴィアside
13. 別れと再会
しおりを挟む(最低だわ、私……)
未だにルミナス様を忘れられないクセに、レイモンドの初恋の人に嫉妬している。なんて浅ましい女なのか。自分で自分が嫌になる。
レイモンドに触れていた手を離そうとした時、その手を彼が掴み、甘えるように頬を擦り寄せた。
「嬉しいな。初めてリアの嫉妬する顔が見られた」
「え?」
「俺、ちゃんとリアに愛されてたんだな」
「当たり前じゃない。何を言っているの?」
「でも、リアの心には違う男が居座ってるだろ?」
「え……」
「口説いてる時から気づいてたよ。仕事では堂々としてるリアが、恋愛には極端に臆病で、警戒心を強くしていた。その原因になった男が忘れられなかったんだよな?」
見透かされるような視線に思わず目を逸らすと、腰に手を回され、グイッと引き寄せられる。
まるで逃がさないというように、額同士を寄せられた。
「ずっとその男を忘れさせたかった」
「貴方もその初恋の人を忘れたかったの?」
「ああ。リアと愛し合えたら、忘れられると思った」
「愛してるわ。だから純潔を捧げたんじゃない」
「ああ。この体を知ってるのは俺だけだ」
「貴方も私だけを見てくれてた?」
「見てるよ。今も愛してるし、国に連れ帰りたい。でもリアは一緒に来てはくれないんだろう?」
再びレイモンドの瞳から涙が溢れる。どうにもできない現実が悲しくて、彼にしがみついた。
「ごめんなさい……平民の私では貴方の足枷にしかならない。幸せにできない……っ。貴方だってすべてを捨てて平民になるなんて無理でしょう?」
彼は自分の商会やそこで働く人たちを大事に思ってる。私一人のために彼らを見捨てるなんて出来ないはずだ。
「今度はリアのことが忘れられそうにないよ」
嗚咽をこぼす彼を、力いっぱい抱きしめた。
彼が私のためにすべてを捨てきれないように、私も今持っているものを捨てきれない。
そこまでの想いと言われれば何も言えない。
すべてを捨てることが出来たルミナス様への想いを超えることは出来なかったけれど── それでも純潔を捧げるほど彼を愛してたのは事実だ。
その後、私たちは朝まで何度も抱き合った。
何度も「愛してる」と囁き合った。
これで最後だというように、その身に自分の証を刻みつけて──そして別れた。
「リア。どうか幸せに──」
「レイモンドも約束して。必ず幸せになるって」
「ああ……約束するよ。いつかお互い思い出に出来たら、また会おう。今度は商談相手として──」
「ええ。望むところよ。びた一文まけないから」
ハハっと声を上げて笑うレイモンドに、私は最後のキスをした。レイモンドも私を強く抱きしめ、キスに応えてくれた。
「さようなら、レイモンド」
「さようなら、リア」
私の二度目の恋は、こうして終わった。
それからは、ひたすら仕事に専念した。何度か求婚されたけれど、すべて断った。
もう貴族と付き合うつもりはないし、それ以前に、ルミナス様より好きだと思える人でない限り、付き合うべきではないと思った。
レイモンドは何も言わなかったけれど、私の中のルミナス様の存在が、無自覚に彼を傷つけていたはずだ。
完全にルミナス様を忘れることが出来ない限り、きっと相手を傷つけ続けるだろう。だったら最初から恋人など作らない。
誰かを傷つけるくらいなら、一人でいい。前世のように、自分のせいで誰かを不幸にするのはもう嫌だ。
そして、祖国を出てから四年の月日が経った頃、それは突然にやってきた。
「オリヴィア……っ!?」
「嘘……どうして──」
大声で名を呼ばれ、振り返った先にいたのは、
ルミナス様だった。
4,726
お気に入りに追加
6,051
あなたにおすすめの小説

【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。



【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる