6 / 26
オリヴィアside
4. 別れのキス
しおりを挟む貴方の本心を、私は知っている。
お望み通り、邪魔な私は目の前から消えてあげようとしているのに、追い打ちかけなくてもいいじゃない。
なぜ私が変わった理由を聞きたがるの。
それを知ってどうするの?
『なぜ執務室でもサロンでもなく、このガゼボなの?』
『ここは、貴方とメアリーの逢瀬の場所でしょう?』
『私の目を盗んで、ここで彼女と愛を育んでいたんでしょう?そんな場所に、なぜ私を座らせるの?』
その怒りを、全部貴方にぶつけていいというの?
ぶつけたらまた、貴方は私を嫌うのでしょう?
だったらもう、何も聞かないでほしい。
(もう、私に構わないでよ)
「この間のことを反省しているのはわかった。だからもう、そこまで思い詰めるな」
「殿下……」
彼が俯いている私の肩に手を置き、優しい言葉を投げかけてくれた。でもその時私が感じたのは、喜びではなく——苛立ちだった。
(本当に無神経な人ね——)
私がどんなに傷ついたか知りもしないで、思い詰めるな?
どの口が言っているの?
貴方が私を傷つけている張本人じゃない。
「オリヴィア?」
膝に置いた手を、ギリッと握りしめる。
初めて芽生えた感情に自分で驚く。
そして同時に気づく。
私が許せなかったのは、メアリーだけではなかった。
(私は……彼のことも、憎んでた?)
愛しているのに、憎い。
私がこんなに愛しているのに、
他の人を選ぶ貴方が憎い。
嫌い。大嫌い。
でも愛してる——
相反する感情が私を狂わせていく。
いや、前世ではそれで狂ったのだ。
だから私はメアリーを殺そうとした。
「どうしたんだ、オリヴィア。顔を上げろ」
──汚してあげる。
前世と今世で、二人の愛を育んだこの場所を。
その甘い逢瀬の思い出を、私が汚してあげるわ。
「聞いているのか、オリヴィ——」
私はルミナス様の唇を奪った。
今後、メアリーとこのガゼボで愛を囁きあうたびに、私とのキスを思い出して後ろめたい気持ちになればいい。
唇を離すと、彼は驚愕に目を瞠っていた。
そんな彼に私は微笑み、身体を離す。
「──御前失礼します」
「オリヴィア……っ」
私の名を呼ぶ声を無視して、私は王宮を後にした。
そして、そのまま国を出た。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
親愛なるルミナス様へ
貴方がこの手紙を読んでいる頃には、
私はこの国から消えているでしょう。
父に除籍届を出したので、近日中に私は平民になり、
貴方との婚約も解消されると思います。
貴方がメアリー様を愛し始めていることに、
私は気づいていました。
私は子供の頃からずっと、貴方に恋をしていたから、
すぐにわかってしまいました。
嫉妬に狂い、メアリー様に辛く当たってしまったことは、
今でも申し訳なくて、恥ずかしい気持ちでいっぱいです。
貴方の大切な人を傷つけてしまい、
大変申し訳ありませんでした。
こんなに感情に揺さぶられ、
我を忘れて愚行に走る女など、
王太子妃として相応しくありません。
だから私は、婚約者を辞退させていただきます。
もう貴方の邪魔はしません。
貴方は本当に愛する人を選んでください。
メアリー様は優秀ですから、
きっと妃教育もすぐにこなせることでしょう。
国を出たことは私の独断で、私の家族は何も知りません。どうか、公爵家を許してください。
私はいつまでも、貴方の幸せを願っています。
ですからどうぞ、愚かな私のことは忘れて下さい。
さようなら、ルミナス様。
メアリー様と末永くお幸せに。
4,350
お気に入りに追加
6,055
あなたにおすすめの小説

【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。


愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる