【完結】私に触れない貴方は、もう要らない

ハナミズキ

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番外編1 〜ライナスAfter story〜

14. エピローグ

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辺境での闘病生活は、やはりツラいものだった。 


終始酔っているかのように眩暈がし、吐き気も酷くて食事が喉を通らず、点滴で栄養剤を打ったり、長期の点滴で体が浮腫んだりと、もういっそ一思いに楽になりたいと思ったことも一度や二度じゃない。

母は闘病生活にずっと付き添わせるわけにはいかないから国に返した。


王弟の妻がいつまでも他国にいるのはよくないし、何かの拍子に国際問題に発展するかもしれないリスクがあるのでお願いして帰ってもらった。

それでも3か月に1度くらいの頻度で俺に会いにきてくれた。


子供達も長期休みの時に見舞いに来て沢山話をした。

二人ともいずれ侯爵領と子爵領の領主になる人間だから、領主としての心構えや、リスクを考えて行動する重要さを俺の失敗した話を例に出して話した。

といっても、ほとんど父と母の受け売りなのだが──。




そして父とナディアに、俺はあるお願いをした。

俺のこの闘病生活の記録を残し、今後の白血病患者の治療に役立てるような商品を探したり、開発したりしたいから手伝ってほしい旨を話した。

医者にも相談したが、俺のカルテのデータはもちろん先進医療の研究資料として活用させていただくが公開はできないと言われ、ではせめて白血病の研究への出資をしたいと願い出た所、良い反応が得られて辺境伯のセシル殿に相談すると言っていた。



アシュリーには、あの再会の時以来会っていない。


彼女は今は医療現場を離れて看護師育成の為に医療学校の教師をしているらしい。

だからこちらから先触れでも出さない限り接点がなくて会えないのだ。


きっと、会いたくないのだろう───。






そうして2年の苦しい闘病生活を経て、俺は退院の日を迎えた。

医者や看護師に見送られ、迎えの馬車がくるのを待っている所に、俺を呼ぶナディアの声が聞こえた。


振り返るとそこには、アシュリーの姿もあって出かかった言葉が喉に詰まって消える。


「─────ナディア・・・、シュタイナー伯爵夫人・・・」

「お待たせしました。ライナス様」

「なんで・・・」


「私がお願いしたんです。最後だけ、少しでいいからお時間くださいって」

「・・・退院おめでとうございます。セルジュ侯爵」

「・・・ありがとうございます」



・・・・・・・・・とても気まずい。


ナディアを見ると、目で話せと訴えているので助けてはくれなさそうだ。



「・・・最後に、少しだけ時間をもらえるだろうか」

「わかりました」



馬車乗り場の近くにある休憩スペースのベンチに、お互い距離を空けて座る。

久しぶりの会話に緊張で手が震える。また鳥肌が立つと言われるかもしれないから、手身近にすませた方がいいだろう。


「・・・アシュリー、君は知らないと思うけど、実は離縁後に2度ほど、君に会いに行ったことがある。・・・顔を合わせることは許されなかったけど・・・」

「・・・知ってる」

「え?」


「カイゼルに聞いて知ってるわ。結婚式の時は、私も貴方の後ろ姿を見かけたから」

「そ・・・、そうか・・・。一度目に会いに行った時・・・、君の夫に威圧だけで地面にねじ伏せられたよ。・・・辺境騎士の強さを身をもって思い知らされた。アシュリーは俺が守るから帰れ、彼女をこれ以上傷つけたらお前を潰すって言われて・・・、俺は、震えて逃げ帰るしかできなかった・・・」


「・・・・・・そう」


「ずっと・・・・・・すごく愛されてたんだな」



俺がそう言うと、アシュリーはこちらを向いて綺麗にほほ笑んだ。


「ええ。溺れるくらい愛されてたわ」

「そうか・・・」



そして再び、沈黙が流れる。

言いたい事は沢山あるのに、何をどう話したらいいのかわからない。


でも手身近に終わらせなければならないという焦りだけが膨らんでいく。


「セシル様に聞いたわ。白血病の研究に出資してくれるみたいね」

「・・・ああ。実際に病気になって苦しい思いしたからな・・・。研究が進んでいずれ完治する方法が見つかればいいと思って」


まあ・・・、俺はその頃にはこの世にいないだろうけど・・・。

きっと、これが本当にアシュリーとは最後になるだろう。


「アシュリー・・・、ずっと謝りたかった。君を傷つけてごめ──」

「謝らなくていいわ」

「・・・・・・・・・え?」




謝罪を遮られた・・・。

───それは、やはり聞くに値しないということだろうか・・・。
 


「私、貴方と結婚した事も別れた事も、微塵も後悔してないし、恨んでもいない」

「・・・・・・・・・・・・」

「貴方のした事は未だに許せないけど、でもそれがなければ私は看護師の資格は取っていなかった。カイゼルと出会う為に、辺境に行くこともなかった。だから貴方と出会った事は、今は後悔してない。全部、───全部カイゼルと会うために必要だったのよ」


まっすぐ前を向いて、愛しそうに笑うその視線の先に、あの男の姿が見えるかのような錯覚を覚えた。

あの男は、アシュリーの中で今も生き続けているのだと見せつけられる。
 


「・・・それほど、愛してたんだな」

「ええ。私の全力で彼を愛した。そして、今もカイゼルだけを愛してる。愛しい子供と、私の居場所と、大きな愛をくれた彼を、ずっと変わらず愛してる。来世でも彼の妻になりたいと思うくらい」


そう言って本当に幸せそうに微笑むから、俺はもう何も言えなくなった。


結局謝らせてもくれずに、

終わってしまうんだな。



「・・・じゃあ、俺もう行くよ。本当に、いろいろありがとう」

「お元気で。さようなら」




「ああ、さようなら」







木漏れ日の中、そよそよと顔を撫でるような優しい風が俺を通り過ぎ、アシュリーの髪を優しく揺らした。






◇◇◇◇


ライナス・セルジュ

47歳の時に急性白血病を患い、先進医療による2年の闘病生活を経て退院。しかしその2年後、再発により死去。亡き夫の遺志を継いだ妻ナディアにより、国内初の医療品メーカーを設立。白血病の研究や患者への支援は子供の世代になっても続けられ、先進医療の発展に大きく貢献した。









─────────────────────


『私に触れない貴方は、もう要らない』

ライナス編をもって完結です!

最後まで読んでいただきありがとうございました。


この結末にいろいろご意見があるかと思いますが、これが私の結末です。

当初の予定と大幅に狂って長編となってしまいましたが、挫折することなく最後まで書き切る事ができて良かったです。

同時連載や挿絵付きで毎日更新は禿げそうだということがわかりました(;´д`)



とりあえず、休憩したいと思います。
ありがとうございました(´༎ຶོρ༎ຶོ`)
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