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番外編1 〜ライナスAfter story〜
12. 約束は守れたかな 挿絵付き
しおりを挟む「はは・・・うえ・・・?」
「久しぶりね、ライナス」
本物か?それとも、夢?
まだ意識が覚醒したばかりで夢と現実が混濁する。
でも俺の手を握るその熱は、夢ではないことを告げていた。
「やっと貴方に会えたわ。本当はもっと早く会いに行きたかったのだけど、国の情勢が整っていなくてずっと出国できなかったのよ。ようやく会いに行けそうだと思ったら、こんな事になって・・・っ」
髪も抜けて痩せ細った俺を見て、母は涙を流した。
会うのは何年振りだろうか。
軽く20年は超えている気がする。
「母・・・上・・・。俺、再婚した・・・んだ。息子が・・・、2人いるよ」
「ええ、あの人に聞いたわ。さっきナディアさんにも会った。子供達も夕方になったら会えるって。孫に会えるのが楽しみだわ」
そうか。父とナディアに会ったのか。父は久しぶりに母に会って大丈夫だったのだろうか?
「・・・・・・・・・貴方は変わったのね。そしてあの人も変わってた。知らぬ間に父親の顔していて驚いたわ。私は、また間違えていたのだと今更気づいてしまった」
「間違い・・・・・・?」
「ええ。貴方とあの人の親子としての交流を絶つべきではなかったのだと・・・、貴方を想って涙を流すあの人を見て、ああ、この人もちゃんと父親の心を持ち合わせていたんだと、目の当たりにしたの。私は貴方から父親を、あの人から息子を奪ってしまった」
────交流していたら、何か変わっていたのだろうか。
でも、父と和解できたのは窮地に陥ってお互いしか頼れない状況になったからだ。
世間の顰蹙をを買って、事業が立ちいかなくなって、侯爵家は落ち目だと誰も見向きもしなくなった。
気を抜けば没落まっしぐらだったからお互い協力してひたたすら働くしかなかった。
ただ必要に迫られて得た結果で、逆を言えばそこまで落ちないと向き合えなかったという事だ。
「───どうかな・・・。俺と父上はなんだかんだ似てるから・・・、お互い痛い目みないと分かり合えなかった気がするよ・・・」
「そう・・・。────やっぱり貴方も変わったわね。大人になった気がする」
「俺もう47だよ。大人じゃないと困るよ。───それで、母上は・・・、今までどこにいたんだ・・・?」
「南の国よ。私の従姉妹がそこに嫁いでいたから彼女の伝手で南の国に移り住んだの」
南国と言えば、第一王子と第二王子の王位継承争いで揉めていたな・・・。
先の大規模スタンピードで前線で戦って戦果を挙げた第二王子の派閥が勢いづいて、つい最近まで派閥争いが激化していたはず・・・。
それで出国できなかったのか・・・?
「そうか・・・。ここへはどうして?」
「家令にだけは居場所を言っていたのよ。私が会いに来れる日まで貴方を見守ってほしいとお願いしてね。その家令から貴方が倒れて白血病だと手紙をもらって、夫にどうしても国に帰りたいとお願いしたのよ」
「夫・・・?」
「──私も再婚したのよ。南国の王弟と」
「王弟!?」
突然の大物との再婚話に大きな声が出てしまい、少し眩暈がした。そんな俺を気遣いながら母は話を続ける。
「彼は元同級生でね。うちの学園に留学生として編入してきて、その時に交流があったのよ。その縁で求婚されて、最初はもう年だし、結婚なんて懲り懲りだからって断っていたんだけど、ずっと想いを伝え続けてくれたから10年前に再婚したの。孫がいる年なのにウエディングドレスまで着せられたわ」
王弟・・・。
そういえば・・・、俺が昔アシュリーに会いに辺境に行った時、母は王族に慕われるほどの優秀な公爵令嬢だったって元辺境伯夫人が言っていたような・・・。
母は今の夫を思い出しているのか、柔らかい表情で微笑んでいる。俺の記憶の中の母はいつもどこかピリピリと張り詰めた空気を纏っていたのに、すっかり角が取れて丸くなっていた。
その表情だけで幸せなのだと察することができる。
最後に別れた時よりだいぶ皺が増えたけど、母はやっぱり綺麗なままだな。
「でも夫の立場的に、大々的に公表できないの。だから内緒よ」
「父上が聞いたら、振られたと泣いてしまうな」
「ああ、あの人にはもう言ったわよ。あの人も同級生だったから『アイツまだしつこくお前の事想ってたのか』って苦虫潰したような顔してたけど」
「ははっ」
まだ薬の影響でふわふわした気分だが、今は久しぶりに調子がいい。
「───良かったよ。死ぬ前に、母上に会えて」
「・・・・・・・・・ライナス、何言ってるの・・・っ」
ずっと堪えていたのか、また母が堰を切ったように泣き出した。
「母上・・・、俺、調子に乗ってバカやって、アシュリー傷つけて・・・、夢だった騎士も結局ダメにして・・・、親不孝でどうしようもない奴だったけど・・・、母上との約束だけは守らなきゃって・・・、だから、領民を守る為に、必死に働いてきたつもりだ。・・・どうかな?・・・───俺、ちゃんと約束、守れたかな・・・?」
「ええ・・・っ、ええっ。全部聞いたわ・・・っ。貴方が寝る間も惜しんで領民の為に駆け回って、商会の人間にも、領民達にも慕われてる当主だって。皆褒めてたわよ・・・っ。マイナスからのスタートだったのに、よく頑張ったわね」
嗚咽を零して何度も頷きながら、母は俺を褒めてくれた。
───良かった。
─────ちゃんと約束を果たせた。
「──ダメよライナス。まだ寝ちゃダメ。私の話を聞きなさい」
瞼が重たくなって寝そうになるのを母に止められる。
でも、もう眠いんだ・・・。体の力が入らない。ふわふわとした気分の中、母の声がだんだん遠くなる。
「ダメよライナス!起きなさい!・・・ああ、ダメだわ、もう待てない!貴方!お願い早く来て!ライナスを今すぐ辺境の病院に転移させるわ!」
「どうしたクラウディア!」
「ライナス様!!」
皆の騒つく声が遠くに聞こえる。
どうしたのか聞きたいけれど、
瞼が重くて目が開けられない。
深く、体が沈んでいく。
もう、指先一つ動かせない。
そしてまた、
俺の意識は途絶えた。
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