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番外編1 〜ライナスAfter story〜
4. 俺が守るから 挿絵付き
しおりを挟む「ライナス・セルジュ、ここで何をしている?」
俺が呆然と立ち尽くしている間に、アシュリーの近くにいたはずのカイゼル・オーウェンが後ろに立っていた。
「あらカイゼル。こっち来ちゃったの?」
「来ちゃったの?じゃないよ母上。何でこの男を敷地内に入れてるんだよ。しかも堂々とこっちに殺気飛ばして、医務室にいた騎士達は全員すぐにお前の気配と場所に気づいたぞ。俺達辺境騎士に喧嘩売ってんのか?」
「!?」
こんな距離が離れているのに、俺の気配に気づいてた?
しかもあの部屋にいる患者全員だと!?
驚いて医務室に目を向けると、ベッドに座っている手負の騎士達の何人かがこちらを見ていた。
「こんな・・・木の葉に紛れていて俺の姿は見えてないはずなのに・・・?」
「辺境騎士を舐めるなよ。姿が見えなくても気配で敵の位置はわかる。それくらい出来なきゃ魔物や西の帝国相手に戦える訳ないだろ。生温い環境で剣振り回してる王都の騎士と一緒にするな」
「ぐっ」
強烈な威圧を全身に浴びて、思わず片膝をついた。
先程の辺境伯夫人のものとは比べ物にならない圧力が肩に掛かって立ち上がれない。体が勝手に震える。
「もう一度聞く。ライナス・セルジュ、何をしに辺境に来た?」
「ア・・・アシュリーに・・・会いに・・・」
「なぜ?」
「・・・・・・・・・」
本能的に、理由を言ってはならないと頭の中で警告音が鳴る。
しかしその警戒も虚しく、夫人の一言で俺は更に追い詰められた。
「彼女に未練タラタラで会いに来たのよ。一目見たら帰るっていうからここからアシュリーさんを見せてあげたの」
「何やってんだよ母上・・・」
「だって、この手のタイプには現実見せてやった方が効果あると思ったのよ。アシュリーさんは責任もって辺境騎士団で守るから、元夫は引っ込んでなさいって今言ったところ」
「ぐあ・・・っ」
耐えきれずに、苦痛の声が漏れる。辺境伯夫人がアシュリーの事を話した途端に威圧が強まった。
ダメだ。
やっぱり俺はこの男に勝てない。
強さのケタが違いすぎる・・・っ
「お前のせいでアシュリーがどれだけ苦しんだと思ってんだ。今だって傷だらけなのに、必死に前を向いて自分の出来る事を探して、たくさん努力して、やっと笑えるようになったんだぞ。それなのに、一目姿を見たい?ふざけた事を抜かすな・・・っ」
「・・・・・・っ」
威圧が更に強まり、目の前の男の怒気がピリピリと肌を刺激する。
そして気圧されて立ち上がれない俺の胸ぐらを片手で軽々と掴み、正面から俺を睨みつけた。
「アシュリーは俺が守るから安心しろ。だからお前を彼女には絶対に会わせないし、これ以上アシュリーを傷つけたら俺はお前を潰すぞ。わかったらさっさとこの辺境から立ち去れ」
そのとてつもない殺気に、俺は恐怖で何も言葉が出てこなかった。ガタガタと体の震えが止まらない。
実力で副団長にまでなったのに、俺はこの男の強さに手も足も出ない。戦う前から負けるのがわかる。
辺境騎士というのはこうも違うのか。
掴まれた胸ぐらを離され、俺は無様に地面に崩れ落ちた。倒れた痛みで顔を上げることができない。
すると辺境伯夫人が俺の側に屈んで優雅に微笑む。
「どう?格の違いを味わった感想は」
ああ。なるほど。
この人は俺に慈悲の心を寄せてアシュリーに会わせてくれたわけじゃなかったんだな。
最初からこの男とアシュリーの仲を見せる為に、俺の心を折る為にここに連れてきたんだ。
「飴ばかり与えられて甘やかされた貴方には、いくら言葉で言っても聞かないでしょう?だったら、飴を舐める気力も起こらないほど、鞭で叩きのめすしかないじゃない?」
美しく笑う姿からは想像もできないほどの冷酷な仕打ちに、俺は夫人の目論み通り完全に心が折れた。
「さあ、もう帰りなさい。アシュリーさんはウチの息子が責任持って守るわ。カイゼルはもうすぐ団長に就任するの。実質、国で一番強い騎士に守られるのよ。これ以上の安全はないでしょう?」
辺境伯夫人の言葉に、またかつてのアシュリーを思い出した。
『アシュリー、何の絵本読んでるの?』
『ライナス!・・・えっとね、これは「騎士とお姫様」っていう絵本だよ。私の大好きな絵本なの。悪い人に捕まったお姫様を、騎士様が助けてくれるのよ』
『騎士が?そういうのって王子様が助けるんじゃないの?』
『そういうお話もいっぱいあるけど、私は騎士様の方が好き!』
『そうなの?何で?女の子って皆王子様が好きなんじゃないの?』
『だって、王子様は皆の王子様になっちゃうけど、騎士様はお姫様だけの騎士様になって、ずっと側にいて守ってくれるのよ。素敵でしょ?』
アシュリーを守る騎士は、最初から俺じゃなくて、
カイゼル・オーウェンだったんだな。
───俺はこの日、
アシュリーへの未練も、騎士として積み上げた力も、
強制的に、完膚なきまでに叩き切られた。
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