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第5章

④ 仲間を失うという苦しみ

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「お……おはよう」

「おはようございます」

 ふう、どうやら真純は私の昨夜のことには気づいてないようだ。

 京香ちゃんがあんな大胆なことをしてくるなんて。

 いや、エッチのことになると大胆なんだけど。

「あら、ふすまが破れているわ」

「なんだ、このひっかいたような跡は」

「あなたもご存じないの? どういうことかしら」

 よくわからないが、あまり気にしないでおこう。

 ひとまず今日は、アスピドケローネと会うことになるだろう。

 油断できない一日になるはずだ。



 ぽんぽこりん建設の始業は九時からである。

 なのに朝の六時半には出社してくる者がいる。

 彼は誰もいない会社の部屋でのんびり過ごすことが趣味だった。

 それによって仕事の効率性を上げているわけでもないのに、誰よりも早く来ることで「自分は何て会社のために頑張っているんだ」という自己満足にふけっていた。

 しかし、今日はすでにセキュリティが解除されていた。

「ちっ」

 それは彼にとって面白くないことだった。

 それでも、こういう日もあるだろうと気を取り直す。

 だが、部署のドアを開けて驚くことになる。

「ふうー、ふうー!!」

 なんと、部長の北亀が部屋で身もだえて苦しんでいるではないか。

「北亀さん、どうしたんですか!?」

「あ、安心してくれたまえ……大事な仕事をやり忘れていてね……」

「へー、北亀さんでもそんなことあるんですね。だけど、大丈夫ですか?」

「ああ、ひと段落着いたところで仮眠をとっていたら、とてもいやな夢を見てしまったんだ」

「そうなんですね」

 彼は、日ごろ大した仕事もしてないのに社長や女子からの評価だけは高い北亀が苦しんでいるのを見て、ざまあみろと思った。



 北亀が苦しんでいたのは、言うまでもなく仙崎がサキュバスとセックスしているのを見てしまったからである。

 北亀の中で仙崎は無様で哀れな人間でなくてはならなかった。

 セックスなんて素敵なことができるような立場の人間ではなかった。

 あの男にそんな権利など与えられていないのだ。

 なのに、サキュバスをいかせまくっていた!

「くっそー!!!!」

 異常なまでの悔しさが襲ってくる。

 この精神状態では家に帰ることもできず、会社に来て怒りに苦しみもだえていたのだ。

 結局、その日正常さを取り戻すまでに半日をかけてしまった。



「くくくく、いいことを思いついたぞ。アスランの仲間の女を犯してやる。私の催眠の力なら簡単に股を開く。まあ、精神を壊してしまわないように気をつけなければならないがな……」



 昼を過ぎてなんとか頭のまわるようになった北亀は、姿を消す魔法を使って空を飛んでいた。

 この世界になじむために、彼が異能を使う時は必ず人に気づかれないよう配慮している。

 今も早く出社して眠いからということで、会社にきちんと早退届を出してからの行動だ。

 そして、仙崎の仲間の女を探した。

 警視庁の防犯カメラのデータをハッキングし、自らがプログラムしたAI識別によってだいたいの位置は特定していた。

「くくくくく、いたぞいたぞ」

 さっきまでの怒りは消え、喜びがぞくぞくと湧き上がってくる。

「あの女、太っていたくせに、痩せたらきれいになったもんなぁ。絶世の美女とはまさにあの女のことだ。ああいう女とやってみたいよなぁ」

 楽しみすぎて独り言までこぼしていた。

「仲間を失うという苦しみをとくと味わうがいい」



 そこにいたのはみーはんだった。

 仙崎は現在単独行動のため、そのほかの仲間たちはビジネスホテルを借りて近くに待機している。

 みーはんは暇つぶしに近くの商店街を回っていた。

 あまりの美しさに周囲は老若男女問わず振り返る。

「こんにちは、ちょっとよろしいですか?」

 みーはんの前に、白髪混じりながら活力を感じさせるスーツ姿の男性が現れた。

 アスピドケローネこと北亀玄武だった。



「あなたのような美しい女性にぜひ身につけていただきたい商品がありまして」

 北亀はセールスマンを装ってみーはんに近づいた。

「なによ」

 みーはんは露骨に不信感を表した。

「まあまあ、ぜひ見るだけでも」

 そう言って大きな宝石を手渡した。

『くくくくく、この宝石からは微弱な催眠光線が出ている。どれだけ警戒していても、これを凝視すれば私を信用するようになる』

「せっかくですのでこんな人通りの多いところではなく、あちらの静かなところでお話しいたしましょう」

「わかったわ」

『ほぉら、効いてる、効いてる♪』



 連れて行ったのは、人通りのない路地裏だった。

 明らかに怪しいが、みーはんはとくに気にしているようでもない。

「で、いくらなの?」

「はははは、まあお急ぎにならずとも」

 その瞬間、みーはんの目を見て催眠波を放った。

 きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃん。

「…………」

『くくくくくく……効いたようだな』

 かかり具合を確かめるために手を握ってみる。

「何してんのよ」

『もう少し強くかけた方が完璧だな』

 催眠はいきなり強いものをかけるべきではない。

 だが目的はアスランの仲間を犯すことだ。

 少々なら精神的に壊れてもかまうものか!

 きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃん。



『これで完璧だ』

 そして、そっとみーはんの大きくてきれいな胸に手をやる。

「何すんのよ!」

 抗おうと殴りかかってきた。

 まだ完全にかかっていないとは。

 アスランの仲間だったせいで何らかの耐性ができたのであろうか?

 だが、この女は性格に難があったことはすでにわかっている。

 こんな女ごときのパンチなどどうということはない。

『ふふふふふ、性的な刺激を加えられれば完全に催眠状態になり、お前はもう抗うことなどできない』

 北亀は確信をもって胸を揉みしだいた。



 ぐしゃあ!!

「げぶう!?」

「このエロじじい。なんてことしてくれてんのよ!」

「あれ? あれ? 催眠が効いてない??」

 みーはんはレベル2万越えだ。

 どんなに強い催眠も効かない耐性をすでに持っていたのだ。

 そして、腕力もアスピドケローネを大きく上回っていた。

 もろに顔面にパンチを喰らって、頭蓋骨が陥没した。

 ぼこぉ!

 ぐしゃあ!

 べきぃ!

 ねちょぉ!

 みーはんの容赦ないパンチが何度も襲い掛かる。

 一分もせずにアスピドケローネはミンチになってしまった。



「ひぃぃぃぃ、ごめんなさい!」

「ふん、ちょっとやりすぎたかしらね」

『ちょっとじゃねーだろ。一般人なら間違いなく殺人だぞ!!』

「うーん、警察ごとは面倒ね」

 みーはんは完全治癒魔法を使って、変態オヤジをもとに戻した。

「だけど、このまま元気でいられるのも癪ね」

 そう言って、両足を蹴って粉砕骨折させてやった。

「ぎゃー!!」

「天罰よ。警察に通報したら、これよりひどい地獄を見せてやるわ」

「ひぃぃぃぃ、ごめんなさい!」



 みーはんが去った後、アスピドケローネは惨めな思いをしながら自分の脚に治癒魔法をかけていた。

「なんで、なんで催眠が効かなかったんだ? あの女は美しい以外ほとんど使いものにならなかったはずなのに!」

 実は北亀はみーはんが竜王になったことまでは把握していなかった。
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