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第11章 死を乗り越えて
ママの励まし
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私はそれ以降のことをよく覚えていない。だが夢を見ていた。いや、夢のようなおぼろげな世界にいたのかもしれない。真っ白な着物を着てひたすら歩いている。しばらくして川が見えてきた。流れもゆるく、透き通った水が流れている。足を踏み入れようかと迷っているうちに対岸に人の姿が見えた。私はそれが誰だか、すぐにわかった。
「理恵!」
私は呼びかけた。理恵も白い着物を着てにこやかに笑っていた。
「理恵! 君なのか!」
「ええ、あなた。理恵です。」
「そうか。理恵。君はここにいたのか。」
私はその川に足を踏み入れようとした。だが理恵は右手を上げてそれを制した。そしてやさしく言った。
「私はこちらからずっと見ています。あなたと結奈のことを。」
「理恵。」
「ありがとう。私がいない分、あなたががんばってくれているのね。」
「大変だったよ。でも君の日記が役に立った。それを読んで僕はやってこれたんだ。」
「そう。書いておいてよかったわ。それに結奈も日記を書いてくれているし・・・私はうれしいわ。」
「もう少し君と話したい。いろんなことを。そっちに行っていいかい?」
私がそう言うと理恵は悲しそうに首を横に振った。
「今はだめ。私もあなたに話したいことはいっぱいあるけど、今はだめ。こっちに来てはいけないわ。」
「どうして?」
「あなたにはやることがあるわ。結奈のことよ。こっちに来たらもう戻れない・・・」
そう言われて私ははっとした。その川を越えることは死を意味する。もし私が死んだら結奈はどうなるか・・・。
「あなたには結奈をお願いします。私にはあなたには生きていて欲しい。きっと生きて・・・生きて・・・」
理恵がそう言うと、周りの景色がぼやけだした。もちろん理恵の姿も・・・。私は夢中で叫んでいた。
「理恵! 理恵! りえー!」
そこで私は目を覚ました。天井の蛍光灯がやけにまぶしい。目をパチパチしていたら、ぼんやりするが人の姿が見えた。そして声も聞こえた。
「パパ! パパ!」
それは結奈の声だった。彼女が私に呼びかけていた。次第に目もはっきり見えてきて結奈の姿を見ることができた。
「パパが目を覚ました! 見て! 見て!」
結奈がそう言うと、もう一つの人の姿が見えた。それは山中先生だった。彼女はあわてて私の顔をのぞきこんだ。
「よかった・・・」
山中先生はそれだけ言うのがやっとだった。彼女の目には涙が光っていた。
私は目を覚ましたもののしばらく入院が続くということだった。結奈のことが心配だったが、山中先生がマンションに引き取ってみてくれるそうだ。周りには秘密だが・・・。彼女はそのことを言いに来たのだが、同時にすまなそうに言った
「私のせいです。藤田さんが刺されたのは・・・。私をかばってくれたので・・・」
山中先生は私が刺されたのは自分のせいだと思っていた。
「いえ、先生のせいではないですよ。私の不注意です。自業自得です。それよりも結奈のことでご面倒をかけます。」
しばらくは傷を治すのに専念しよう。だが気がかりがあった。結奈の日記のことだ。多分、毎日結奈は書いているだろう。しかしいつものようにママの返事が書かれることはない。がっかりするだけならいいが、ママの返事を私が書いていることがばれたら・・・結奈はどう思うだろうか・・・。
いよいよその日が来てしまった。結奈が日記を抱えて病室に来たのだ。
「パパ。だいじょうぶ?」
「大丈夫だよ。山中先生のマンションでいい子にしているかい?」
「もちろんよ。心配しないで。」
結奈はそう言って日記帳を私に見せた。
「日記帳を持ってきたのよ。パパに見てもらおうと思って。」
結奈が異変に気付いたらしい。さあ、どう言い訳をしようか…と考えていると、
「さあ、ここを見て!」
と日記帳を開いて見せた。それは私が刺された日だった。
『パパがナイフで刺されて手術を受けているのよ。パパが危ない。ママ。助けてあげて!』
結奈がそう書いていた。そしてその後には・・・信じられないが、その後にママの字で書かれてあった。
『パパならだいじょうぶよ。ママが神様にお願いしたから、きっとよくなるわ。いっしょにパパをはげましてあげましょう。パパ! ファイト!』
私はわが目を疑った。一体、これは・・・。 驚く私を後目に、結奈は笑顔でこう言った。
「ママが助けてくれたからもう大丈夫ね。早くよくなって家に帰って来て。」
「そうだね。ママがね・・・。早くよくなって退院して結奈を迎えに行くよ。」
私はまだそのことが信じられなかった。でもなぜか、私も日記のママの言葉を受け入れはじめていた。理恵が日記を通して語りかけているのか・・・私を励まそうと・・・。私は何度もその日記を眺めていた。
「じゃあ。パパ。また来るからね。外で山中先生が待っているから。」
「ああ、気をつけて帰るんだよ。」
私は笑顔で結奈を送り出した。彼女はドアを開けて外に出たが、急に振り返って私に言った。
「私ならもう大丈夫よ。今までありがとう。パパ。」
結奈はそのまま行ってしまった。私はその結奈の言葉を聞いていろんなことを思い出して一人で笑っていた。
「理恵!」
私は呼びかけた。理恵も白い着物を着てにこやかに笑っていた。
「理恵! 君なのか!」
「ええ、あなた。理恵です。」
「そうか。理恵。君はここにいたのか。」
私はその川に足を踏み入れようとした。だが理恵は右手を上げてそれを制した。そしてやさしく言った。
「私はこちらからずっと見ています。あなたと結奈のことを。」
「理恵。」
「ありがとう。私がいない分、あなたががんばってくれているのね。」
「大変だったよ。でも君の日記が役に立った。それを読んで僕はやってこれたんだ。」
「そう。書いておいてよかったわ。それに結奈も日記を書いてくれているし・・・私はうれしいわ。」
「もう少し君と話したい。いろんなことを。そっちに行っていいかい?」
私がそう言うと理恵は悲しそうに首を横に振った。
「今はだめ。私もあなたに話したいことはいっぱいあるけど、今はだめ。こっちに来てはいけないわ。」
「どうして?」
「あなたにはやることがあるわ。結奈のことよ。こっちに来たらもう戻れない・・・」
そう言われて私ははっとした。その川を越えることは死を意味する。もし私が死んだら結奈はどうなるか・・・。
「あなたには結奈をお願いします。私にはあなたには生きていて欲しい。きっと生きて・・・生きて・・・」
理恵がそう言うと、周りの景色がぼやけだした。もちろん理恵の姿も・・・。私は夢中で叫んでいた。
「理恵! 理恵! りえー!」
そこで私は目を覚ました。天井の蛍光灯がやけにまぶしい。目をパチパチしていたら、ぼんやりするが人の姿が見えた。そして声も聞こえた。
「パパ! パパ!」
それは結奈の声だった。彼女が私に呼びかけていた。次第に目もはっきり見えてきて結奈の姿を見ることができた。
「パパが目を覚ました! 見て! 見て!」
結奈がそう言うと、もう一つの人の姿が見えた。それは山中先生だった。彼女はあわてて私の顔をのぞきこんだ。
「よかった・・・」
山中先生はそれだけ言うのがやっとだった。彼女の目には涙が光っていた。
私は目を覚ましたもののしばらく入院が続くということだった。結奈のことが心配だったが、山中先生がマンションに引き取ってみてくれるそうだ。周りには秘密だが・・・。彼女はそのことを言いに来たのだが、同時にすまなそうに言った
「私のせいです。藤田さんが刺されたのは・・・。私をかばってくれたので・・・」
山中先生は私が刺されたのは自分のせいだと思っていた。
「いえ、先生のせいではないですよ。私の不注意です。自業自得です。それよりも結奈のことでご面倒をかけます。」
しばらくは傷を治すのに専念しよう。だが気がかりがあった。結奈の日記のことだ。多分、毎日結奈は書いているだろう。しかしいつものようにママの返事が書かれることはない。がっかりするだけならいいが、ママの返事を私が書いていることがばれたら・・・結奈はどう思うだろうか・・・。
いよいよその日が来てしまった。結奈が日記を抱えて病室に来たのだ。
「パパ。だいじょうぶ?」
「大丈夫だよ。山中先生のマンションでいい子にしているかい?」
「もちろんよ。心配しないで。」
結奈はそう言って日記帳を私に見せた。
「日記帳を持ってきたのよ。パパに見てもらおうと思って。」
結奈が異変に気付いたらしい。さあ、どう言い訳をしようか…と考えていると、
「さあ、ここを見て!」
と日記帳を開いて見せた。それは私が刺された日だった。
『パパがナイフで刺されて手術を受けているのよ。パパが危ない。ママ。助けてあげて!』
結奈がそう書いていた。そしてその後には・・・信じられないが、その後にママの字で書かれてあった。
『パパならだいじょうぶよ。ママが神様にお願いしたから、きっとよくなるわ。いっしょにパパをはげましてあげましょう。パパ! ファイト!』
私はわが目を疑った。一体、これは・・・。 驚く私を後目に、結奈は笑顔でこう言った。
「ママが助けてくれたからもう大丈夫ね。早くよくなって家に帰って来て。」
「そうだね。ママがね・・・。早くよくなって退院して結奈を迎えに行くよ。」
私はまだそのことが信じられなかった。でもなぜか、私も日記のママの言葉を受け入れはじめていた。理恵が日記を通して語りかけているのか・・・私を励まそうと・・・。私は何度もその日記を眺めていた。
「じゃあ。パパ。また来るからね。外で山中先生が待っているから。」
「ああ、気をつけて帰るんだよ。」
私は笑顔で結奈を送り出した。彼女はドアを開けて外に出たが、急に振り返って私に言った。
「私ならもう大丈夫よ。今までありがとう。パパ。」
結奈はそのまま行ってしまった。私はその結奈の言葉を聞いていろんなことを思い出して一人で笑っていた。
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