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第10章 日常の出来事
ゴールデンウイーク
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いよいよゴールデンウイークの時期になった。休みが続くこのときに結奈を朝帯にどこかに連れて行きたいと思った。私は結奈に聞いてみた。
「ゴールデンウイークだよ。今年はパパがどこかに連れて行ってあげる。結奈はどこがいい?」
「ううん・・・。どこがいいかな?」
「どこかに旅行しようか?」
「あんまり行きたいところもないし・・・」
「おばあちゃんのところに行こうか?」
「ううん。おばあちゃん、忙しいって言っていたもの。」
私の母は小さな店を共同でやっている。ゴールデンウイーク中は忙しいのは確かだ。それは結奈の方がよくわかっていた。多分、昔から理恵から聞かされていたのだろう。
「それじゃあ、USJなんかどうかな?」
「それなら結奈は行きたいところがあるの。」
「どこ?」
「奥峠ゆうえん地よ。」
「奥峠?」
確か、山の中にあった小さな遊園地だった。ファミリー向けで結奈を連れて行ったことがあったが、どうして今、行きたいと思うのか・・・。
「まだあるかな? でも小さい遊園地だったよ。乗り物も大したものがなかったと思うけど。」
「いいの。結奈はそこに行きたいの。」
それでゴールデンウイークの予定は決まった。長い休みがあるのに旅行にもいかず、小さな遊園地に行くことになった。
それは5月3日だった。その日はよく晴れており、風がさわやかだった。いわゆる行楽日和というやつだ。私と結奈は車に乗って奥峠に向かった。
ゴールデンウイーク中は道が混む。案の定、渋滞に巻き込まれた。この分ではいつになったら着くか・・・と思っていたら途中から急に空いてきた。それは奥峠に行く道に入ってからだった。
(もしかして遊園地は潰れたか?)
全国で地方の遊園地がなくなっている。もしかして・・・と思ったが、とにかく行ってみることにした。するとちゃんとあって営業していた。
よかった。でも車が少ないな・・・)
確かに広い駐車場に数台、車が停まっているだけだった。私は結奈とともに入場口に向かった。古ぼけて色あせていたが、見覚えのある建物が見えてきた。
(そういえば昔ここに来たな・・・)
記憶の底から思い出がいろいろとよみがえってきた。結奈がもっと小さかった時、たまたま休みが取れて家族3人で来たのだ。
「パパ! 来て!」
遊園地に入ると結奈が私を引っ張っていった。そこは観覧車だった。それはかなり古くて小さめで、ペンキのはげかかっていた。
「さあ、乗ろう!」
私は結奈とともに観覧車に乗った。昔は高いと感じたが、今はさほどに感じない。高くてもビルの3階ぐらいだ。だがそこから見る風景は懐かしかった。山の上にあるからそれぐらいの高さでも方々が見渡せる。確か、幼い結奈を理恵が抱いて窓の外を見せていた。
「ほら、あれが来た道よ。向こうの方に家があるのよ。」
理恵は結奈に指さして教えていた。その結奈は今は普通に座って窓の外を見ている。そして同じように指さして私に言うのだ。
「パパ。あの道から来たんだよね。そしてずっと向こうに家があって・・・」
私は「うんうん」とうなずいていた。
それからいろいろな乗り物に乗った。スリルのないジェットコースター、飛行塔、メリーゴーランドにコーヒーカップ・・・どれも家族の思い出が詰まっていた。もう古くなった遊園地は人気がなくなって来客数は少なくなっているには違いないが、家族の思い出の重さでは他の新しいテーマパークに引けを取らないと私は思っていた。
私たちは一日、そこで過ごした。そして夕方になって遊び疲れて帰った。帰り道、車から夕焼けがきれいに見えた。
その日は夕食を食べて、結奈はすぐに眠りについた。よほど楽しかったのだろう。寝姿が幸せそうに見えた。疲れていただろうがそれでも結奈は日記を書いていた。
『今日、パパと奥峠ゆうえん地に行って来たよ。昔と同じように乗り物にいっぱい乗ったよ。観覧車からの風景は変わらなかった。ママが教えてくれた通り、山があって町があって道があった。そしてずっと奥の方に結奈の住む家がある。パパにも教えてあげたよ。コーヒーカップもメリーゴーランドもママの席を開けておいたからね。ちゃんと乗ってくれたかな・・・』
家族3人で言った遊園地の思い出を幼いながらも結奈は覚えていた。彼女は親子3人で行ったつもりになっている。
『楽しかったわね。ママも結奈とパパと一緒に行けてうれしかった・・・』
私はママの言葉を書いた。なぜか昔の思い出があふれてきて涙ぐんでいた。
「ゴールデンウイークだよ。今年はパパがどこかに連れて行ってあげる。結奈はどこがいい?」
「ううん・・・。どこがいいかな?」
「どこかに旅行しようか?」
「あんまり行きたいところもないし・・・」
「おばあちゃんのところに行こうか?」
「ううん。おばあちゃん、忙しいって言っていたもの。」
私の母は小さな店を共同でやっている。ゴールデンウイーク中は忙しいのは確かだ。それは結奈の方がよくわかっていた。多分、昔から理恵から聞かされていたのだろう。
「それじゃあ、USJなんかどうかな?」
「それなら結奈は行きたいところがあるの。」
「どこ?」
「奥峠ゆうえん地よ。」
「奥峠?」
確か、山の中にあった小さな遊園地だった。ファミリー向けで結奈を連れて行ったことがあったが、どうして今、行きたいと思うのか・・・。
「まだあるかな? でも小さい遊園地だったよ。乗り物も大したものがなかったと思うけど。」
「いいの。結奈はそこに行きたいの。」
それでゴールデンウイークの予定は決まった。長い休みがあるのに旅行にもいかず、小さな遊園地に行くことになった。
それは5月3日だった。その日はよく晴れており、風がさわやかだった。いわゆる行楽日和というやつだ。私と結奈は車に乗って奥峠に向かった。
ゴールデンウイーク中は道が混む。案の定、渋滞に巻き込まれた。この分ではいつになったら着くか・・・と思っていたら途中から急に空いてきた。それは奥峠に行く道に入ってからだった。
(もしかして遊園地は潰れたか?)
全国で地方の遊園地がなくなっている。もしかして・・・と思ったが、とにかく行ってみることにした。するとちゃんとあって営業していた。
よかった。でも車が少ないな・・・)
確かに広い駐車場に数台、車が停まっているだけだった。私は結奈とともに入場口に向かった。古ぼけて色あせていたが、見覚えのある建物が見えてきた。
(そういえば昔ここに来たな・・・)
記憶の底から思い出がいろいろとよみがえってきた。結奈がもっと小さかった時、たまたま休みが取れて家族3人で来たのだ。
「パパ! 来て!」
遊園地に入ると結奈が私を引っ張っていった。そこは観覧車だった。それはかなり古くて小さめで、ペンキのはげかかっていた。
「さあ、乗ろう!」
私は結奈とともに観覧車に乗った。昔は高いと感じたが、今はさほどに感じない。高くてもビルの3階ぐらいだ。だがそこから見る風景は懐かしかった。山の上にあるからそれぐらいの高さでも方々が見渡せる。確か、幼い結奈を理恵が抱いて窓の外を見せていた。
「ほら、あれが来た道よ。向こうの方に家があるのよ。」
理恵は結奈に指さして教えていた。その結奈は今は普通に座って窓の外を見ている。そして同じように指さして私に言うのだ。
「パパ。あの道から来たんだよね。そしてずっと向こうに家があって・・・」
私は「うんうん」とうなずいていた。
それからいろいろな乗り物に乗った。スリルのないジェットコースター、飛行塔、メリーゴーランドにコーヒーカップ・・・どれも家族の思い出が詰まっていた。もう古くなった遊園地は人気がなくなって来客数は少なくなっているには違いないが、家族の思い出の重さでは他の新しいテーマパークに引けを取らないと私は思っていた。
私たちは一日、そこで過ごした。そして夕方になって遊び疲れて帰った。帰り道、車から夕焼けがきれいに見えた。
その日は夕食を食べて、結奈はすぐに眠りについた。よほど楽しかったのだろう。寝姿が幸せそうに見えた。疲れていただろうがそれでも結奈は日記を書いていた。
『今日、パパと奥峠ゆうえん地に行って来たよ。昔と同じように乗り物にいっぱい乗ったよ。観覧車からの風景は変わらなかった。ママが教えてくれた通り、山があって町があって道があった。そしてずっと奥の方に結奈の住む家がある。パパにも教えてあげたよ。コーヒーカップもメリーゴーランドもママの席を開けておいたからね。ちゃんと乗ってくれたかな・・・』
家族3人で言った遊園地の思い出を幼いながらも結奈は覚えていた。彼女は親子3人で行ったつもりになっている。
『楽しかったわね。ママも結奈とパパと一緒に行けてうれしかった・・・』
私はママの言葉を書いた。なぜか昔の思い出があふれてきて涙ぐんでいた。
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