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第9章 春
家庭訪問
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結奈が学校からプリントをもって帰ってきた。それを見ると担任の先生による家庭訪問があるというのだ。ということは山中先生がこの家に来るということだ。あれっきり私は彼女と会っていない。事務的なメールだけが送られて来るだけだ。
「家庭訪問よ。パパ。いつがいい?」
「そうだな・・・」
ちょうど非番の日があった。その日にしようかと結奈に言った。
「わかった。結奈が先生を学校から案内するよ。」
「山中先生はここに来たことがあるから大丈夫だろう。」
「ううん。結奈がそうしたいの。」
放課後、家庭訪問先の生徒が先生を家まで案内することが多いらしい。そうして道々、先生といろんな話をしたいようだ。
結奈の日記にはこう書かれていた。
『家庭訪問で山中先生が家に来るよ。今年も結奈が案内するんだ。またいろいろ話をしたい。去年はね。ママのことを話したの。今年はパパの話でもしようかな。・・・・』
結奈は楽しみにしているようだった。
『先生はどんな話をしてくれるのかしら。ママも聞いていようかな・・・』
私はママの言葉を日記に書いた。よく考えれば山中先生は以前、この家に預かったことがある。この家のことはよくわかっているのだが・・・。それでも家庭訪問となれば違うのかm知れない。
家庭訪問の日が来た。私はお茶やお菓子の用意をしていた。プリントにはお茶やお菓子は不要とのことだったが、そうはいかない。一応、用意しなければ・・・・。
久しぶりに山中先生と会う・・・。ひな祭りの時以来だ。私は何かワクワクするような気持があったが、その反面、マンションまで送っていった時に私の不用意な一言で彼女は走って行ってしまった。だから気まずくもある。
そうやって待っていると呼鈴が鳴った。私が玄関に出ると山中先生と結奈がいた。
「パパ。先生を連れてきたよ。」
「ようこそ。どうぞ中へ。」
「では失礼します。」
あいさつをした。私も山中先生も久しぶりに会って緊張していた。お互いに笑顔がぎこちない。私はリビングに彼女を案内して、山中先生にお茶とお菓子を出した。
「どうぞ。何もありませんが・・・」
「いえ、お構いなく。」
「先生の好きだったハーブティーと手作りクッキーです。何とか作ってみました。味を見てください。」
私は理恵の日記帳のレシピからクッキーを焼いた。うまくできたのでこうして山中先生に出せる。
「でも、いただかないことになっていて・・・」
山中先生は断ろうとしたが、結奈が横から言った。
「先生、食べてみて。パパが先生のために焼いたんだよ。おいしいよ。ママのと同じ味がするのよ。」
それで山中先生は興味がわいたようで、クッキーを食べてくれた。
「おいしいです。」
「それはよかった。」
私はホッとした。少しは雰囲気が和んだかと・・・。だが私と山中先生が向かい合って座ると何やら意識して、会話が進まない。まるでお見合いの席のようだ。
「藤田さん。結奈さんは家でもよくお手伝いされるのですか?」
「ええ。2人きりなので助かっています。」
「家での過ごし方も・・・」
実際、前にうちにいたのだから、山中先生は結奈の生活のこともよく知っているはずだ。しかし場が持たないのか、ありきたりの質問をする。私もそれに普通に答えるだけだった。なにか重苦しい空気がその場を支配していた。だが結奈がそれを打ち破ろうとした。
「先生。結奈はお手伝いをよくするんだよ。」
「そうなのね。えらいのね。」
「がんばるとママがほめてくれるの。だからもっとがんばろうと思うの。」
それを聞いて山中先生は言葉に困っていた。結奈の母が死んでいないことは知っている。だがママがほめてくれるとはどういうことか・・・下手にいらぬことを言って結奈を傷つけないようにと・・・。
その空気を察したのか、結奈は声を潜めて言った。
「先生だけに秘密を教えてあげる。私の部屋に来て・・・」
「えっ! どうして。」
「いいから。」
結奈は山中先生を2階の部屋に連れて行ってしまった。
(結奈はママの言葉を書いた日記帳を山中先生に見せたのだろう。なんとかばれないように山中先生が話を合わせてくれたらいいが・・・)
私はハラハラしていた。しばらくして2人がリビングに下りてきた。
「内緒よ。」
「ええ、秘密にするから。」
2人の会話が聞こえてきた。その様子だと山中先生はうまく話を合わせてくれたようだ。山中先生はもう帰るようだった。
「では失礼します。次の生徒のところを回りますので。」
「これはどうも。お構いもしませんで・・・」
私は玄関で見送った。結奈は何かうれしそうにしていた。それに引きかえ、私はあの日記の秘密を山中先生に知られてしまって何か恥ずかしい気持ちになっていた。
その夜、私は結奈の日記を見てみた。
『ママ。この日記にママが返事を書いてくれることを山中先生に教えたよ。秘密にしてくれるって。本当は誰にも言いたくなかったけど、山中先生には言いたかったの。おかしいかな・・・』
何度も読んでみたが、結奈が山中先生に日記の秘密を話した理由はわからない。しかし私も恥ずかしいとは思ったものの、山中先生には知ってもらってもいいという気持ちはあった。
『この日記の秘密を他の誰にも言ってはだめよ。でも山中先生だったらいいわ。先生は結奈のことをよく考えてくださるんだから・・・』
私はそう書いて日記を閉じた。とにかく今日の家庭訪問は緊張した。いろんな意味で・・・。
「家庭訪問よ。パパ。いつがいい?」
「そうだな・・・」
ちょうど非番の日があった。その日にしようかと結奈に言った。
「わかった。結奈が先生を学校から案内するよ。」
「山中先生はここに来たことがあるから大丈夫だろう。」
「ううん。結奈がそうしたいの。」
放課後、家庭訪問先の生徒が先生を家まで案内することが多いらしい。そうして道々、先生といろんな話をしたいようだ。
結奈の日記にはこう書かれていた。
『家庭訪問で山中先生が家に来るよ。今年も結奈が案内するんだ。またいろいろ話をしたい。去年はね。ママのことを話したの。今年はパパの話でもしようかな。・・・・』
結奈は楽しみにしているようだった。
『先生はどんな話をしてくれるのかしら。ママも聞いていようかな・・・』
私はママの言葉を日記に書いた。よく考えれば山中先生は以前、この家に預かったことがある。この家のことはよくわかっているのだが・・・。それでも家庭訪問となれば違うのかm知れない。
家庭訪問の日が来た。私はお茶やお菓子の用意をしていた。プリントにはお茶やお菓子は不要とのことだったが、そうはいかない。一応、用意しなければ・・・・。
久しぶりに山中先生と会う・・・。ひな祭りの時以来だ。私は何かワクワクするような気持があったが、その反面、マンションまで送っていった時に私の不用意な一言で彼女は走って行ってしまった。だから気まずくもある。
そうやって待っていると呼鈴が鳴った。私が玄関に出ると山中先生と結奈がいた。
「パパ。先生を連れてきたよ。」
「ようこそ。どうぞ中へ。」
「では失礼します。」
あいさつをした。私も山中先生も久しぶりに会って緊張していた。お互いに笑顔がぎこちない。私はリビングに彼女を案内して、山中先生にお茶とお菓子を出した。
「どうぞ。何もありませんが・・・」
「いえ、お構いなく。」
「先生の好きだったハーブティーと手作りクッキーです。何とか作ってみました。味を見てください。」
私は理恵の日記帳のレシピからクッキーを焼いた。うまくできたのでこうして山中先生に出せる。
「でも、いただかないことになっていて・・・」
山中先生は断ろうとしたが、結奈が横から言った。
「先生、食べてみて。パパが先生のために焼いたんだよ。おいしいよ。ママのと同じ味がするのよ。」
それで山中先生は興味がわいたようで、クッキーを食べてくれた。
「おいしいです。」
「それはよかった。」
私はホッとした。少しは雰囲気が和んだかと・・・。だが私と山中先生が向かい合って座ると何やら意識して、会話が進まない。まるでお見合いの席のようだ。
「藤田さん。結奈さんは家でもよくお手伝いされるのですか?」
「ええ。2人きりなので助かっています。」
「家での過ごし方も・・・」
実際、前にうちにいたのだから、山中先生は結奈の生活のこともよく知っているはずだ。しかし場が持たないのか、ありきたりの質問をする。私もそれに普通に答えるだけだった。なにか重苦しい空気がその場を支配していた。だが結奈がそれを打ち破ろうとした。
「先生。結奈はお手伝いをよくするんだよ。」
「そうなのね。えらいのね。」
「がんばるとママがほめてくれるの。だからもっとがんばろうと思うの。」
それを聞いて山中先生は言葉に困っていた。結奈の母が死んでいないことは知っている。だがママがほめてくれるとはどういうことか・・・下手にいらぬことを言って結奈を傷つけないようにと・・・。
その空気を察したのか、結奈は声を潜めて言った。
「先生だけに秘密を教えてあげる。私の部屋に来て・・・」
「えっ! どうして。」
「いいから。」
結奈は山中先生を2階の部屋に連れて行ってしまった。
(結奈はママの言葉を書いた日記帳を山中先生に見せたのだろう。なんとかばれないように山中先生が話を合わせてくれたらいいが・・・)
私はハラハラしていた。しばらくして2人がリビングに下りてきた。
「内緒よ。」
「ええ、秘密にするから。」
2人の会話が聞こえてきた。その様子だと山中先生はうまく話を合わせてくれたようだ。山中先生はもう帰るようだった。
「では失礼します。次の生徒のところを回りますので。」
「これはどうも。お構いもしませんで・・・」
私は玄関で見送った。結奈は何かうれしそうにしていた。それに引きかえ、私はあの日記の秘密を山中先生に知られてしまって何か恥ずかしい気持ちになっていた。
その夜、私は結奈の日記を見てみた。
『ママ。この日記にママが返事を書いてくれることを山中先生に教えたよ。秘密にしてくれるって。本当は誰にも言いたくなかったけど、山中先生には言いたかったの。おかしいかな・・・』
何度も読んでみたが、結奈が山中先生に日記の秘密を話した理由はわからない。しかし私も恥ずかしいとは思ったものの、山中先生には知ってもらってもいいという気持ちはあった。
『この日記の秘密を他の誰にも言ってはだめよ。でも山中先生だったらいいわ。先生は結奈のことをよく考えてくださるんだから・・・』
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