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第9章 春
お彼岸と新学期
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お彼岸の時期になった。今日は結奈と理恵の墓参りに行く。彼女は近くの霊園墓地に眠っている。そこは小高い丘で湖がよく見える景色のいいところだった。
半年前、彼女の骨を埋葬に来た。その時は心の中で妻の死を受け入れられなかった。それは結奈も同じだった。しかし今は違う。理恵の死を乗り越えて新しい生活を送っているのだ。親子2人で。
お墓の掃除をしてお花や水を供えて線香に火をつけた。そして結奈と一緒に手を合わせた。
(理恵。私と結奈は何とかやっているよ。君の日記がどれほど役に立っているか・・・。結奈も明るさを取り戻して元気になったよ。)
私はお墓に向かってそう報告していた。普段、キッチンの理恵の写真に心の中で語りかけてはいるが・・・。
この半年、いろんなことがあったが何とか乗り越えてきた。私は刑事をやめ、総務課の事務の仕事をしている。そうして家にいる時間を多くして家事を切り盛りしている。結奈は日記で毎日のことを書いている。ママに向かって・・・・それを私がママに代わって返事をしている。それで私は結奈のことをよく知り、結奈はママと一緒にいられると心が安定いるのである。
「ねえ、パパ。ママは喜んでいるよね。」
「ああ。結奈が来てくれて喜んでいるさ。」
今日は特別な日だ。夕食は理恵の得意料理だったビーフストロガノフにしようか。彼女の日記のレシピを参考にして。
その日の夜、結奈が寝た後に彼女の部屋へ行って日記を見てみた。
『ママ。お墓参りに行ったよ。結奈が来たのがわかった? ママがいなくなって半年過ぎたけど結奈はママの顔も声もはっきり思い出せるよ。この日記ではいつも話せるけど、お墓にもまた行くね。・・・今日はパパがビーフストロガノフを作ったのよ。ママの味とよく似ていた。でもまだまだだけどね・・・・』
理恵のお墓に行って思うことがいろいろあったのだろう。今日は長めに書いてあった。ママの代わりに書く言葉をいつまで続けようか。いつかはばれてしまうと思うが、まだ結奈には必要なのだろうか・・・と考えることはある。だがこれは結奈のためじゃない。私と結奈をつなぐものだ・・・と考えることにした。
今日もママの言葉を日記に書いた。
『結奈。来てくれてありがとう。ママはうれしかったわ。結奈の成長した姿を見て驚いたのよ。・・・4月からはもう4年生ね。しっかりしたお姉さんとして1年生や2年生、3年生のめんどうも見てあげてね。・・・』
◇
4月になって新学期を迎えた。結奈はもう小学校4年生だ。あんなに小さかったのに・・・と思うと感慨深い思いがする。
始業式が終わり、結奈が帰ってきた。
「4年2組になったよ。担任の先生は山中先生だよ。」
と教えてくれた。私は担任の先生が変わらず、ホッとしていた。彼女は結奈や私の家のことをよくわかってくれているし、何かあればメールで知らせてくれる。それ以上の思いはない・・・。
「よかったな。また山中先生で。」
「パパもうれしいでしょう。ママはやきもち焼いているかもしれないけど・・・」
結奈もませたことを言うことが多くなった。これも成長しているためか・・・。
山中先生からもメールが来た。
『今年度も結奈さんの担任になりました。よろしくお願いします。・・・』
山中先生からもあれからメールがたまに来ていたが、結奈のことについての報告だった。あのひな祭りの日以来、彼女には会っていないし、その距離感は以前に戻った気がした。少しさびしいがそれがいいのだろう・・・。
私の職場である総務課にも新人が入ってきた。それも若者が。
「上野大翔です。よろしくお願いします。」
「珍しいな。若いものがここに配属されるなんて。」
「刑事を志望したんですけどなぜかこうなってしまって。でもここで頑張って捜査課に行きますよ。」
なかなか生意気そうな若者だった。
「ここもなかなか大変だよ。わからなかったら聞いてくれ。もっとも私もここに来て半年だからね。」
「そうなのですか? じゃあ、前はどこにいたんです?」
「それは・・・」
私は言いにくかった。まだ心の中で捜査課から総務課に来たことに割り切れない気持ちがあったかもしれない。
「捜査課よ。藤田さんがいたのは。」
隣の事務官の小林さんが代わりに答えた。
「藤田さん。捜査課だったんですか?」
「それもバリバリの刑事よ。」
「そうだったんですか! そりゃ、すごい! でもなんでここに?」
「それはね・・・」
さすがにその質問には小林さんも答えにくかった。私のいる前で・・・。
「いや、妻を失くしてね。子供の世話や家のこともあってね・・・」
私はボツリと言った。
「あっ。すいません。悪いこと聞いちゃって。」
「いや、いいんだ。それより・・・」
私は上野君にいろいろと教えていった。私も主任という立場上、彼を教育しなければならない。半年前の私の様に。
その日は少し気疲れした。慣れないことをしたためだろうか。家に帰ると結奈が迎えてくれた。
「パパ、お帰り。」
「ただいま。うれしそうだね。」
「うん。新しいクラスになって知らない子も多かったけど、友達になっているんだ。」
「それはよかったね。」
結奈は夕食の時も新しい友達のことを話した。私はそれを聞きながらも頭の中が混乱してきた。
(この子が友達で・・・その子が隣の席で・・・いや、あの子はどうだったかな?)
元刑事にしては覚えが悪い。捜査だったら人間関係がすっと頭に入っているのだが・・・。まあ、そのうちに覚えられるだろう。そうじゃないと結奈の話についていけなくなると思っていた。
その夜の日記もいろいろと書かれていた。
『ママ。友達が増えたよ。園山さんが・・・。結奈は文らしいクラスで楽しくやっているよ。』
それを読んで少しは人物関係が頭に入った。結奈の日記はまだ続きがあった。
『新しく友達になった子が聞くの? 「ママは?」って。前のクラスだとみんな知っていたけど。新しいクラスでは知らない子も多いから。もうあまり言いたくないけど・・・』
私ももうあのことは言いたくない。結奈ならなおさらだろう。どうすればいいか私にもわからない。理恵ならどう言うか・・・。
『ママはいるわ。いつも結奈を見守っている。だから友達に聞かれたら胸を押さえてママはここにいるって言えばいいわ・・・』
半年前、彼女の骨を埋葬に来た。その時は心の中で妻の死を受け入れられなかった。それは結奈も同じだった。しかし今は違う。理恵の死を乗り越えて新しい生活を送っているのだ。親子2人で。
お墓の掃除をしてお花や水を供えて線香に火をつけた。そして結奈と一緒に手を合わせた。
(理恵。私と結奈は何とかやっているよ。君の日記がどれほど役に立っているか・・・。結奈も明るさを取り戻して元気になったよ。)
私はお墓に向かってそう報告していた。普段、キッチンの理恵の写真に心の中で語りかけてはいるが・・・。
この半年、いろんなことがあったが何とか乗り越えてきた。私は刑事をやめ、総務課の事務の仕事をしている。そうして家にいる時間を多くして家事を切り盛りしている。結奈は日記で毎日のことを書いている。ママに向かって・・・・それを私がママに代わって返事をしている。それで私は結奈のことをよく知り、結奈はママと一緒にいられると心が安定いるのである。
「ねえ、パパ。ママは喜んでいるよね。」
「ああ。結奈が来てくれて喜んでいるさ。」
今日は特別な日だ。夕食は理恵の得意料理だったビーフストロガノフにしようか。彼女の日記のレシピを参考にして。
その日の夜、結奈が寝た後に彼女の部屋へ行って日記を見てみた。
『ママ。お墓参りに行ったよ。結奈が来たのがわかった? ママがいなくなって半年過ぎたけど結奈はママの顔も声もはっきり思い出せるよ。この日記ではいつも話せるけど、お墓にもまた行くね。・・・今日はパパがビーフストロガノフを作ったのよ。ママの味とよく似ていた。でもまだまだだけどね・・・・』
理恵のお墓に行って思うことがいろいろあったのだろう。今日は長めに書いてあった。ママの代わりに書く言葉をいつまで続けようか。いつかはばれてしまうと思うが、まだ結奈には必要なのだろうか・・・と考えることはある。だがこれは結奈のためじゃない。私と結奈をつなぐものだ・・・と考えることにした。
今日もママの言葉を日記に書いた。
『結奈。来てくれてありがとう。ママはうれしかったわ。結奈の成長した姿を見て驚いたのよ。・・・4月からはもう4年生ね。しっかりしたお姉さんとして1年生や2年生、3年生のめんどうも見てあげてね。・・・』
◇
4月になって新学期を迎えた。結奈はもう小学校4年生だ。あんなに小さかったのに・・・と思うと感慨深い思いがする。
始業式が終わり、結奈が帰ってきた。
「4年2組になったよ。担任の先生は山中先生だよ。」
と教えてくれた。私は担任の先生が変わらず、ホッとしていた。彼女は結奈や私の家のことをよくわかってくれているし、何かあればメールで知らせてくれる。それ以上の思いはない・・・。
「よかったな。また山中先生で。」
「パパもうれしいでしょう。ママはやきもち焼いているかもしれないけど・・・」
結奈もませたことを言うことが多くなった。これも成長しているためか・・・。
山中先生からもメールが来た。
『今年度も結奈さんの担任になりました。よろしくお願いします。・・・』
山中先生からもあれからメールがたまに来ていたが、結奈のことについての報告だった。あのひな祭りの日以来、彼女には会っていないし、その距離感は以前に戻った気がした。少しさびしいがそれがいいのだろう・・・。
私の職場である総務課にも新人が入ってきた。それも若者が。
「上野大翔です。よろしくお願いします。」
「珍しいな。若いものがここに配属されるなんて。」
「刑事を志望したんですけどなぜかこうなってしまって。でもここで頑張って捜査課に行きますよ。」
なかなか生意気そうな若者だった。
「ここもなかなか大変だよ。わからなかったら聞いてくれ。もっとも私もここに来て半年だからね。」
「そうなのですか? じゃあ、前はどこにいたんです?」
「それは・・・」
私は言いにくかった。まだ心の中で捜査課から総務課に来たことに割り切れない気持ちがあったかもしれない。
「捜査課よ。藤田さんがいたのは。」
隣の事務官の小林さんが代わりに答えた。
「藤田さん。捜査課だったんですか?」
「それもバリバリの刑事よ。」
「そうだったんですか! そりゃ、すごい! でもなんでここに?」
「それはね・・・」
さすがにその質問には小林さんも答えにくかった。私のいる前で・・・。
「いや、妻を失くしてね。子供の世話や家のこともあってね・・・」
私はボツリと言った。
「あっ。すいません。悪いこと聞いちゃって。」
「いや、いいんだ。それより・・・」
私は上野君にいろいろと教えていった。私も主任という立場上、彼を教育しなければならない。半年前の私の様に。
その日は少し気疲れした。慣れないことをしたためだろうか。家に帰ると結奈が迎えてくれた。
「パパ、お帰り。」
「ただいま。うれしそうだね。」
「うん。新しいクラスになって知らない子も多かったけど、友達になっているんだ。」
「それはよかったね。」
結奈は夕食の時も新しい友達のことを話した。私はそれを聞きながらも頭の中が混乱してきた。
(この子が友達で・・・その子が隣の席で・・・いや、あの子はどうだったかな?)
元刑事にしては覚えが悪い。捜査だったら人間関係がすっと頭に入っているのだが・・・。まあ、そのうちに覚えられるだろう。そうじゃないと結奈の話についていけなくなると思っていた。
その夜の日記もいろいろと書かれていた。
『ママ。友達が増えたよ。園山さんが・・・。結奈は文らしいクラスで楽しくやっているよ。』
それを読んで少しは人物関係が頭に入った。結奈の日記はまだ続きがあった。
『新しく友達になった子が聞くの? 「ママは?」って。前のクラスだとみんな知っていたけど。新しいクラスでは知らない子も多いから。もうあまり言いたくないけど・・・』
私ももうあのことは言いたくない。結奈ならなおさらだろう。どうすればいいか私にもわからない。理恵ならどう言うか・・・。
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