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第8章 ストーカー
対決
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次の日、朝起きていくと、キッチンに朝食が用意してあった。しかし山中先生の姿はない。その代わりにテーブルに書置きがしてあった。
『ご迷惑をかけました。マンションに寄って学校に行きますので早めに家に出ます。またお礼に伺います。 山中美南』
私は悪い予感がした。朝とはいえ、ストーカーが待ち受けている可能性がある。もしばったり出くわしたら・・・。私は急いで結奈の部屋へ行った。彼女は起きたところで目をこすっていた。
「結奈。悪いけどパパはすぐに出かける。朝食はあるからそれを食べて一人で学校に行ってくれ。いいね。」
「う、うん。」
結奈は寝ぼけ眼でうなずいた。気にはなったが愚図々々していられない。私はすぐに着替えて彼女のマンションの方に走って行った。
まだ早朝なので人通りは少ない。しばらく走るとちょうど前に山中先生の姿が見えた。だが彼女はそこで立ち止まっていた。いや、後ずさりをしているのだ。よく見るとその前に男の姿が見えた。
(あれは青山警部補!)
私は何とか間に合ったようだった。
「山中先生!」
と叫んで駆け寄ると、青山警部補の前に立ちふさがった。
「藤田さん。来てくれたのですか。」
「ええ、びっくりしましたよ。あれほど危ないと言っていたのに、一人でこの時間に外に出るのですから。」
「すいません・・・」
山中先生とはそう話したが、気になるのは前からくる青山警部補だった。もはやストーカーと化した彼がどんなことをしてくるのか・・・。
「藤田とか言ったな。そこをどけ! 俺は美南に用があるんだ。」
「いえ、どきません。あなたがしていることはストーカー行為です。すぐに離れてください!」
私は身構えた。彼が向かってきても何とか撃退できるとは思った。しかしそうなればキャリアである彼が私を傷害罪で訴えるだろう。そうなれば私は逮捕される。うかつに手出しはできない。
「美南。こっちに来いよ。また昔みたいに付き合おう。このおっさんは放っておいて!」
「やめてください。藤田さんは・・・」
山中先生は言いかけて一旦やめた。しかし顔を上げて、青山警部補に向けてしっかりと言った。
「藤田さんは私の恋人です。手を出さないでください!」
それを聞いて私は驚いた。あまりのことに・・・。目の前の彼も思いもしなかった言葉に唖然としていた。だがすぐに我を取り戻して大声を上げた。
「このおっさんが恋人だと! 笑わせるな!」
「ええ、藤田さんと付き合っています。私の大事な人です! だから私に付きまとわないでください!」
「こ、この野郎! 俺の恋人を盗みやがって!」
青山警部補は殴り掛かってきた。私に手出しができるわけはなかった。ただ抵抗をせず、彼のなすがままにされていた。相手があきらめるまでこのままひたすら耐えようと思った。だがすぐに青山警部補の手は誰かにつかまれていた。
「青山警部補。いや、青山直樹。ストーカー規制法違反、および傷害の現行犯で逮捕する。」
それは倉田班長だった。私はあまりの展開に目を白黒させていた。倉田班長は青山直樹に手錠をかけて、捜査員が彼を連れて行った。
「班長!」
「おう! 藤田。今回は災難だったな。もてる男は困るな。」
倉田班長は笑顔で言った。
「おかげで助かりました。」
「ストーカー被害のことを聞いて、これはと密かに調べていたんだ。証拠もあるし現場も押さえたから幹部の連中も何も言えないだろう。」
倉田班長は私が関わっていると思われる事件を、キャリアや幹部の意向を無視して捜査してくれていたのだ。これで山中先生をあのストーカーから身を守ることができた。
「お嬢さん。少し署の方でお話を。もちろん藤田にも来てもらいますから安心してください。」
倉田班長からそう言われて山中先生は頬を赤くしていた。私もなぜか赤くなっていた。
その日は瀬田署で山中先生が被害届を出し、私も話を聞かれた。やっと家に帰れる頃にはもう昼前になっていた。私は彼女を送っていった。
「もう安心ですね。」
「ありがとうございました。藤田さんのおかげです。」
「いえ、私は何もできなかった。」
「そんなことはないです。藤田さんが家に住まわせてくれなかったらどんなことになったか・・・。感謝しています。」
「まあ、これで安心してマンションに戻れますね。」
「ええ。でも少し残念です。」
「えっ?」
「あの家で暮らしたら、まるで家族のように感じて・・・。いえ、ごめんなさい。変なことを言って。では、さようなら!」
山中先生はそう言って手を振ってマンションに入って行った。私は後ろ姿を見送りながら、
(山中先生は青山にああ言ったし、さっきもあんなことを言った。もしかして・・・)
一瞬、そう思ったが慌てて否定した。こんな子持ちのおっさんを好きになってくれるはずはないと。それに自分には理恵と結奈がいる。私はふっと息を吐いて家に帰った。
結奈が学校から戻ってきた。すでに学校には山中先生のストーカー事件がすぐに伝わったようだ。それにしても人のうわさは怖い。話が少し変わって大きくなって伝わっている。
「パパ。聞いて。山中先生は今朝、怖いストーカーに会ったんだって。刃物を振りかざして襲いかかってきて、先生はあわてて逃げようとしたけど捕まってしまってさ。そんな危ないところに恋人が颯爽と現れて、そのストーカーを叩きのめしたんだって。すごいよね。かっこいいよね。明日は先生が来るからその恋人のことを聞いてみようかな。」
結奈は楽しそうに言った。本当はそんなかっこいいことではなくてひどい目に合ったのだが、そんな風に伝わっているならいいかと思うことにした。ただし、
「先生に恋人のことを聞いたらダメだよ。個人的なことだから・・・」
と結奈に釘を刺さねばならなかった。本当のことを知れば話がまたややこしくなる。結奈は、
「ふ~ん。」
と頭をひねっていた。
その日の夜、結奈の日記にはこう書かれていた。
『山中先生はストーカーから恋人に助けられたんだって。かっこいいよね。パパもママを守ってくれたことがあった?・・・』
私はママの返事を書いて、ため息をついた。最近、なんだかごまかすことが多いかと・・・。だが本当のことを書くわけにはいかないのだから・・・。
『パパはいつもママや結奈を守っているのよ。山中先生の恋人と同じように・・・』
『ご迷惑をかけました。マンションに寄って学校に行きますので早めに家に出ます。またお礼に伺います。 山中美南』
私は悪い予感がした。朝とはいえ、ストーカーが待ち受けている可能性がある。もしばったり出くわしたら・・・。私は急いで結奈の部屋へ行った。彼女は起きたところで目をこすっていた。
「結奈。悪いけどパパはすぐに出かける。朝食はあるからそれを食べて一人で学校に行ってくれ。いいね。」
「う、うん。」
結奈は寝ぼけ眼でうなずいた。気にはなったが愚図々々していられない。私はすぐに着替えて彼女のマンションの方に走って行った。
まだ早朝なので人通りは少ない。しばらく走るとちょうど前に山中先生の姿が見えた。だが彼女はそこで立ち止まっていた。いや、後ずさりをしているのだ。よく見るとその前に男の姿が見えた。
(あれは青山警部補!)
私は何とか間に合ったようだった。
「山中先生!」
と叫んで駆け寄ると、青山警部補の前に立ちふさがった。
「藤田さん。来てくれたのですか。」
「ええ、びっくりしましたよ。あれほど危ないと言っていたのに、一人でこの時間に外に出るのですから。」
「すいません・・・」
山中先生とはそう話したが、気になるのは前からくる青山警部補だった。もはやストーカーと化した彼がどんなことをしてくるのか・・・。
「藤田とか言ったな。そこをどけ! 俺は美南に用があるんだ。」
「いえ、どきません。あなたがしていることはストーカー行為です。すぐに離れてください!」
私は身構えた。彼が向かってきても何とか撃退できるとは思った。しかしそうなればキャリアである彼が私を傷害罪で訴えるだろう。そうなれば私は逮捕される。うかつに手出しはできない。
「美南。こっちに来いよ。また昔みたいに付き合おう。このおっさんは放っておいて!」
「やめてください。藤田さんは・・・」
山中先生は言いかけて一旦やめた。しかし顔を上げて、青山警部補に向けてしっかりと言った。
「藤田さんは私の恋人です。手を出さないでください!」
それを聞いて私は驚いた。あまりのことに・・・。目の前の彼も思いもしなかった言葉に唖然としていた。だがすぐに我を取り戻して大声を上げた。
「このおっさんが恋人だと! 笑わせるな!」
「ええ、藤田さんと付き合っています。私の大事な人です! だから私に付きまとわないでください!」
「こ、この野郎! 俺の恋人を盗みやがって!」
青山警部補は殴り掛かってきた。私に手出しができるわけはなかった。ただ抵抗をせず、彼のなすがままにされていた。相手があきらめるまでこのままひたすら耐えようと思った。だがすぐに青山警部補の手は誰かにつかまれていた。
「青山警部補。いや、青山直樹。ストーカー規制法違反、および傷害の現行犯で逮捕する。」
それは倉田班長だった。私はあまりの展開に目を白黒させていた。倉田班長は青山直樹に手錠をかけて、捜査員が彼を連れて行った。
「班長!」
「おう! 藤田。今回は災難だったな。もてる男は困るな。」
倉田班長は笑顔で言った。
「おかげで助かりました。」
「ストーカー被害のことを聞いて、これはと密かに調べていたんだ。証拠もあるし現場も押さえたから幹部の連中も何も言えないだろう。」
倉田班長は私が関わっていると思われる事件を、キャリアや幹部の意向を無視して捜査してくれていたのだ。これで山中先生をあのストーカーから身を守ることができた。
「お嬢さん。少し署の方でお話を。もちろん藤田にも来てもらいますから安心してください。」
倉田班長からそう言われて山中先生は頬を赤くしていた。私もなぜか赤くなっていた。
その日は瀬田署で山中先生が被害届を出し、私も話を聞かれた。やっと家に帰れる頃にはもう昼前になっていた。私は彼女を送っていった。
「もう安心ですね。」
「ありがとうございました。藤田さんのおかげです。」
「いえ、私は何もできなかった。」
「そんなことはないです。藤田さんが家に住まわせてくれなかったらどんなことになったか・・・。感謝しています。」
「まあ、これで安心してマンションに戻れますね。」
「ええ。でも少し残念です。」
「えっ?」
「あの家で暮らしたら、まるで家族のように感じて・・・。いえ、ごめんなさい。変なことを言って。では、さようなら!」
山中先生はそう言って手を振ってマンションに入って行った。私は後ろ姿を見送りながら、
(山中先生は青山にああ言ったし、さっきもあんなことを言った。もしかして・・・)
一瞬、そう思ったが慌てて否定した。こんな子持ちのおっさんを好きになってくれるはずはないと。それに自分には理恵と結奈がいる。私はふっと息を吐いて家に帰った。
結奈が学校から戻ってきた。すでに学校には山中先生のストーカー事件がすぐに伝わったようだ。それにしても人のうわさは怖い。話が少し変わって大きくなって伝わっている。
「パパ。聞いて。山中先生は今朝、怖いストーカーに会ったんだって。刃物を振りかざして襲いかかってきて、先生はあわてて逃げようとしたけど捕まってしまってさ。そんな危ないところに恋人が颯爽と現れて、そのストーカーを叩きのめしたんだって。すごいよね。かっこいいよね。明日は先生が来るからその恋人のことを聞いてみようかな。」
結奈は楽しそうに言った。本当はそんなかっこいいことではなくてひどい目に合ったのだが、そんな風に伝わっているならいいかと思うことにした。ただし、
「先生に恋人のことを聞いたらダメだよ。個人的なことだから・・・」
と結奈に釘を刺さねばならなかった。本当のことを知れば話がまたややこしくなる。結奈は、
「ふ~ん。」
と頭をひねっていた。
その日の夜、結奈の日記にはこう書かれていた。
『山中先生はストーカーから恋人に助けられたんだって。かっこいいよね。パパもママを守ってくれたことがあった?・・・』
私はママの返事を書いて、ため息をついた。最近、なんだかごまかすことが多いかと・・・。だが本当のことを書くわけにはいかないのだから・・・。
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