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第8章 ストーカー
謹慎処分
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昼過ぎになって私は署長に呼び出された。私は嫌な予感がした。署長室に入ると、他に夏山課長をはじめ、署の幹部がそろっていた。
「なぜ、呼び出されたかはわかっているかね。」
「わかりません。」
私は直立不動で答えた。
「君は青山警部補がストーカーだと言っているようじゃないか。ろくな証拠もなく。」
「しかしその疑いがあります。ストーカーの被害を受けている女性がいます。きちんと捜査してその危険を取り除くのが警察の務めではないでしょうか。」
私は真っ当な意見を言った。しかしそんなことが通るわけはなかった。
「青山警部補にも県警を通して話を聞いた。彼は『そんな事実はない。ただ昔からの知り合いの女性だから会いに来た』と否定している。」
「それが本当か、調べればわかることだと思います。」
私は一歩も引かなかった。すると副署長が横から言った。
「いいかね。青山警部補は警視庁のキャリア組だ。将来、幹部になるだろう。我々はそんな方を預かっているのだ。粗相があってはならんのだ!」
それが署の幹部の本音なのだろう。私が反論しようとすると夏山課長が署長に言った。
「藤田もそれはわかっていると思います。ただ警察官として知り合いのストーカー被害者についてきただけです。とにかくこの件は藤田から手を引かせます。」
「うむ。わかった。では藤田君。君は謹慎したまえ。その間に捜査課がその女性の件を処理する。」
私は答えなかった。そんなことがあり得るのかと・・・。だが夏山課長が代わりに頭を下げた。
「寛大な処分、ありがとうございます。では失礼します。」
夏山課長はそう言って、署長室の外に私を引っ張っていった。私は不服だった。じっと唇をかんで顔を背けていた。そんな私に夏山課長はやさしく言った。
「相手が悪かった。しかし被害者の女性にこれ以上、まとわりつかないようにはできるだろう。だからな、ここはこらえろ。」
そう言われて私はうなずいた。とにかく謹慎を言われたのだから家にいなければならない。刑事の時だったらいてもたってもいられなかっただろうが、書類の整理をしている総務課では他の人が代わりをしてくれるだろうと割り切っていた。
家にいると結奈が帰ってきた。私が家にいるのを見てびっくりしたようだ。
「パパ、どうしたの? こんなに早く帰って来て。」
「しばらく休みをもらえたんだ。これでいろいろと家のことができるよ。」
私は強がって見せた。だが結奈には何か特別なことがあったと感じたようだった。
「パパ。何かあったんだったら結奈に言って。聞いてあげるから。」
それは理恵の口調にそっくりだった。確かに彼女も私が行き詰っている時にそう言ってくれた。
「大丈夫だよ。さあ、夕食でも作ろうか? 結奈は何がいい?」
私は無理に笑顔を作った。
山中先生も学校から帰ってきた。彼女も私が早く帰って来ているのに驚いていた。夕食の後、私に尋ねた。
「あれから何かあったのですか? 警察の方で。」
「いえ、何もありません。」
「隠さないでください。何かあったはずです。」
山中先生は何度も聞いてくる。明日も謹慎で家にいるのでごまかすことはできないだろう。
「いえ、ちょっと謹慎になってしまって。」
「えっ! もしかして私のために・・・」
「いえ、違いますよ。」
「いえ、絶対にそうです。直樹が圧力をかけたのでしょう。彼ならやりかねません。こんなにご迷惑をかけて・・・私、どうしたらいいか・・・」
山中先生は顔を伏せた。
「気にしないでください。ちょうどいい休暇なのですから。これで今までやれなかった家のことができますから。」
「いえ、これ以上、ご迷惑をかけられません。明日はマンションに戻ります。」
「それは危険です。」
「いえ、大丈夫です。小川さんが見回りの警官の巡回を増やすって電話がありました。服も毎日同じというわけにもいかないので、明日朝、マンションに戻ります。いろいろご面倒をかけて申し訳ありません。」
「そうですか・・・」
私はホッとした半面、少しがっかりした気分にもなった。山中先生が来てくれて、結奈のことはともかく、家の中が賑やかで明るくなったのは確かだ。しかしいつまでもこんな状態ではいけない。いらぬうわさが立って山中先生に迷惑がかかるかもしれないのだから。
今日も結奈の日記をのぞいた。
『パパが早く帰ってきた。しばらく家にいるって。結奈はうれしいけどパパに何かあったみたい。ママ。パパを守ってあげて。』
結奈は心配してくれているようだ。安心させなければ・・・。
『パパは大丈夫よ。大人にはいろんな事情があるから。結奈はいつも通りにしていたらいいのよ。心配しないで・・・・』
とママの言葉で書いておいた。私は謹慎を食らったが、それもしばらくのことだろう。それより山中先生が心配だった。警官の巡回を増やしても彼女を守るには限界があるし、あの青山警部補はまた彼女にストーカー行為をしてくるような気がしていた。
「なぜ、呼び出されたかはわかっているかね。」
「わかりません。」
私は直立不動で答えた。
「君は青山警部補がストーカーだと言っているようじゃないか。ろくな証拠もなく。」
「しかしその疑いがあります。ストーカーの被害を受けている女性がいます。きちんと捜査してその危険を取り除くのが警察の務めではないでしょうか。」
私は真っ当な意見を言った。しかしそんなことが通るわけはなかった。
「青山警部補にも県警を通して話を聞いた。彼は『そんな事実はない。ただ昔からの知り合いの女性だから会いに来た』と否定している。」
「それが本当か、調べればわかることだと思います。」
私は一歩も引かなかった。すると副署長が横から言った。
「いいかね。青山警部補は警視庁のキャリア組だ。将来、幹部になるだろう。我々はそんな方を預かっているのだ。粗相があってはならんのだ!」
それが署の幹部の本音なのだろう。私が反論しようとすると夏山課長が署長に言った。
「藤田もそれはわかっていると思います。ただ警察官として知り合いのストーカー被害者についてきただけです。とにかくこの件は藤田から手を引かせます。」
「うむ。わかった。では藤田君。君は謹慎したまえ。その間に捜査課がその女性の件を処理する。」
私は答えなかった。そんなことがあり得るのかと・・・。だが夏山課長が代わりに頭を下げた。
「寛大な処分、ありがとうございます。では失礼します。」
夏山課長はそう言って、署長室の外に私を引っ張っていった。私は不服だった。じっと唇をかんで顔を背けていた。そんな私に夏山課長はやさしく言った。
「相手が悪かった。しかし被害者の女性にこれ以上、まとわりつかないようにはできるだろう。だからな、ここはこらえろ。」
そう言われて私はうなずいた。とにかく謹慎を言われたのだから家にいなければならない。刑事の時だったらいてもたってもいられなかっただろうが、書類の整理をしている総務課では他の人が代わりをしてくれるだろうと割り切っていた。
家にいると結奈が帰ってきた。私が家にいるのを見てびっくりしたようだ。
「パパ、どうしたの? こんなに早く帰って来て。」
「しばらく休みをもらえたんだ。これでいろいろと家のことができるよ。」
私は強がって見せた。だが結奈には何か特別なことがあったと感じたようだった。
「パパ。何かあったんだったら結奈に言って。聞いてあげるから。」
それは理恵の口調にそっくりだった。確かに彼女も私が行き詰っている時にそう言ってくれた。
「大丈夫だよ。さあ、夕食でも作ろうか? 結奈は何がいい?」
私は無理に笑顔を作った。
山中先生も学校から帰ってきた。彼女も私が早く帰って来ているのに驚いていた。夕食の後、私に尋ねた。
「あれから何かあったのですか? 警察の方で。」
「いえ、何もありません。」
「隠さないでください。何かあったはずです。」
山中先生は何度も聞いてくる。明日も謹慎で家にいるのでごまかすことはできないだろう。
「いえ、ちょっと謹慎になってしまって。」
「えっ! もしかして私のために・・・」
「いえ、違いますよ。」
「いえ、絶対にそうです。直樹が圧力をかけたのでしょう。彼ならやりかねません。こんなにご迷惑をかけて・・・私、どうしたらいいか・・・」
山中先生は顔を伏せた。
「気にしないでください。ちょうどいい休暇なのですから。これで今までやれなかった家のことができますから。」
「いえ、これ以上、ご迷惑をかけられません。明日はマンションに戻ります。」
「それは危険です。」
「いえ、大丈夫です。小川さんが見回りの警官の巡回を増やすって電話がありました。服も毎日同じというわけにもいかないので、明日朝、マンションに戻ります。いろいろご面倒をかけて申し訳ありません。」
「そうですか・・・」
私はホッとした半面、少しがっかりした気分にもなった。山中先生が来てくれて、結奈のことはともかく、家の中が賑やかで明るくなったのは確かだ。しかしいつまでもこんな状態ではいけない。いらぬうわさが立って山中先生に迷惑がかかるかもしれないのだから。
今日も結奈の日記をのぞいた。
『パパが早く帰ってきた。しばらく家にいるって。結奈はうれしいけどパパに何かあったみたい。ママ。パパを守ってあげて。』
結奈は心配してくれているようだ。安心させなければ・・・。
『パパは大丈夫よ。大人にはいろんな事情があるから。結奈はいつも通りにしていたらいいのよ。心配しないで・・・・』
とママの言葉で書いておいた。私は謹慎を食らったが、それもしばらくのことだろう。それより山中先生が心配だった。警官の巡回を増やしても彼女を守るには限界があるし、あの青山警部補はまた彼女にストーカー行為をしてくるような気がしていた。
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