結奈とママの、そしてパパの日記

広之新

文字の大きさ
上 下
29 / 40
第8章 ストーカー

謹慎処分

しおりを挟む
 昼過ぎになって私は署長に呼び出された。私は嫌な予感がした。署長室に入ると、他に夏山課長をはじめ、署の幹部がそろっていた。

「なぜ、呼び出されたかはわかっているかね。」
「わかりません。」

私は直立不動で答えた。

「君は青山警部補がストーカーだと言っているようじゃないか。ろくな証拠もなく。」
「しかしその疑いがあります。ストーカーの被害を受けている女性がいます。きちんと捜査してその危険を取り除くのが警察の務めではないでしょうか。」

私は真っ当な意見を言った。しかしそんなことが通るわけはなかった。

「青山警部補にも県警を通して話を聞いた。彼は『そんな事実はない。ただ昔からの知り合いの女性だから会いに来た』と否定している。」
「それが本当か、調べればわかることだと思います。」

私は一歩も引かなかった。すると副署長が横から言った。

「いいかね。青山警部補は警視庁のキャリア組だ。将来、幹部になるだろう。我々はそんな方を預かっているのだ。粗相があってはならんのだ!」

それが署の幹部の本音なのだろう。私が反論しようとすると夏山課長が署長に言った。

「藤田もそれはわかっていると思います。ただ警察官として知り合いのストーカー被害者についてきただけです。とにかくこの件は藤田から手を引かせます。」
「うむ。わかった。では藤田君。君は謹慎したまえ。その間に捜査課がその女性の件を処理する。」

私は答えなかった。そんなことがあり得るのかと・・・。だが夏山課長が代わりに頭を下げた。

「寛大な処分、ありがとうございます。では失礼します。」

夏山課長はそう言って、署長室の外に私を引っ張っていった。私は不服だった。じっと唇をかんで顔を背けていた。そんな私に夏山課長はやさしく言った。

「相手が悪かった。しかし被害者の女性にこれ以上、まとわりつかないようにはできるだろう。だからな、ここはこらえろ。」

そう言われて私はうなずいた。とにかく謹慎を言われたのだから家にいなければならない。刑事の時だったらいてもたってもいられなかっただろうが、書類の整理をしている総務課では他の人が代わりをしてくれるだろうと割り切っていた。


 家にいると結奈が帰ってきた。私が家にいるのを見てびっくりしたようだ。

「パパ、どうしたの? こんなに早く帰って来て。」
「しばらく休みをもらえたんだ。これでいろいろと家のことができるよ。」

私は強がって見せた。だが結奈には何か特別なことがあったと感じたようだった。

「パパ。何かあったんだったら結奈に言って。聞いてあげるから。」

それは理恵の口調にそっくりだった。確かに彼女も私が行き詰っている時にそう言ってくれた。

「大丈夫だよ。さあ、夕食でも作ろうか? 結奈は何がいい?」

私は無理に笑顔を作った。
 山中先生も学校から帰ってきた。彼女も私が早く帰って来ているのに驚いていた。夕食の後、私に尋ねた。

「あれから何かあったのですか? 警察の方で。」
「いえ、何もありません。」
「隠さないでください。何かあったはずです。」

山中先生は何度も聞いてくる。明日も謹慎で家にいるのでごまかすことはできないだろう。

「いえ、ちょっと謹慎になってしまって。」
「えっ! もしかして私のために・・・」
「いえ、違いますよ。」
「いえ、絶対にそうです。直樹が圧力をかけたのでしょう。彼ならやりかねません。こんなにご迷惑をかけて・・・私、どうしたらいいか・・・」

山中先生は顔を伏せた。

「気にしないでください。ちょうどいい休暇なのですから。これで今までやれなかった家のことができますから。」
「いえ、これ以上、ご迷惑をかけられません。明日はマンションに戻ります。」
「それは危険です。」
「いえ、大丈夫です。小川さんが見回りの警官の巡回を増やすって電話がありました。服も毎日同じというわけにもいかないので、明日朝、マンションに戻ります。いろいろご面倒をかけて申し訳ありません。」
「そうですか・・・」

私はホッとした半面、少しがっかりした気分にもなった。山中先生が来てくれて、結奈のことはともかく、家の中が賑やかで明るくなったのは確かだ。しかしいつまでもこんな状態ではいけない。いらぬうわさが立って山中先生に迷惑がかかるかもしれないのだから。
 今日も結奈の日記をのぞいた。

『パパが早く帰ってきた。しばらく家にいるって。結奈はうれしいけどパパに何かあったみたい。ママ。パパを守ってあげて。』

結奈は心配してくれているようだ。安心させなければ・・・。

『パパは大丈夫よ。大人にはいろんな事情があるから。結奈はいつも通りにしていたらいいのよ。心配しないで・・・・』

とママの言葉で書いておいた。私は謹慎を食らったが、それもしばらくのことだろう。それより山中先生が心配だった。警官の巡回を増やしても彼女を守るには限界があるし、あの青山警部補はまた彼女にストーカー行為をしてくるような気がしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小説教室・ごはん学校「SМ小説です」

浅野浩二
現代文学
ある小説学校でのSМ小説です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...