26 / 40
第8章 ストーカー
不気味な道
しおりを挟む
それは珍しく残業で遅くなった日だった。それも夕食の買い物をしてすっかり遅くなってしまった。
(結奈がお腹を空かして待っている。早く帰ってやらないと・・・)
そこで普段は通らない近道をすることにした。鬱蒼とした木々の間を進んでいく。そこは人通りも少なく電灯もあまりない暗い道で、昼間通って気味が悪いのに夜ならなおさら不気味だった。しかも横手に墓地まで見える。さすがの私もいつもはそこを避けている。
(今日だけだ・・・今日だけだ・・・何もない・・・)
なぜかそう思いながら家路を急いでいた。すると後ろから足音が聞こえる。
(誰かが歩いてくる。それも早足で・・・)
いつもなら気にしなかったのかもしれないが、今日は不気味に感じていた。私も追いつかれないように早足になった。しかし後ろからの足音はもっと早くなり、駆け足になっていた。
(お、追いつかれる・・・)
人間だったら怖くもないが、もし幽霊だったらどうしよう・・・いい大人がそう考えていた。こうなったら・・・私は逃げようと思った。その足音は間近まで迫っていたのを感じていたから・・・。
「藤田さん。」
それは若い女性の声だった。私は一瞬、ぞくっとしたがその声には聞き覚えがあった。私は振り返った。
「山中先生!」
それは結奈の担任の山中先生だった。彼女は小走りで追いかけてきたせいか、息が乱れている。
「どうしたんですか?」
「今日は遅くなってしまって・・・でもいつものように誰かにつけられている気がしたんです。怖くなってしまって。」
「いつものように?」
私はふっと頭に浮かんだ。それはストーカーではないかと。それならば彼女の身が危ない可能性がある。
「ええ、このところ誰かにつけられているような・・・。それだけじゃないんです。郵便物が荒らされていたり、無言電話がかかってきたり・・・」
まさにそれはストーカーの仕業と思われた。
「ちょうど藤田さんの姿が見えたから追いかけたらここまで来てしまって・・・」
私が彼女を危ない道に引っ張ってしまったようだった。
「とにかくご自宅まで送りましょう。」
一度、山中先生を送ったことがあるから場所は覚えていた。あのマンションならセキュリティーはしっかりしているから安心だろう。
「警察に相談された方がいいですよ。ストーカーに対してはちゃんと対処ができるようになっていますから。」
「ええ、そうします。毎日が怖いですから。」
別れ際にそう伝えた。マンションに入って行く彼女を見送った後、私は辺りを見渡した。
(やはり誰か見ている。)
私も何者かの視線を感じていた。だがそれが何者ものなのか、どこから見ているのかはわからない。署のストーカー対策の専門家の意見を聞いた方がいいようだ。
家に帰ると結奈が待っていた。
「パパ。遅い!」
「ごめんね。途中で山中先生に会ったんだ。暗くて危ないからマンションまで送っていったんだよ。」
「ふ~ん。それだけ?」
「それだけだよ。どうして?」
「だってパパ、怪しいんだもの。」
どうも結奈は私が山中先生に下心があると思っているようだ。あの初詣の一件から。まだ9歳なのにませているのか・・・。
「そんなこと言うなよ。ママの前で。それよりご飯にしよう。今日は買ってきたおかずだけど我慢してね。」
「は~い。」
それきり山中先生の話は出なかった。ママの写真のある前でそんなことを言ってはいけないと思ったのか・・・。
だがそうではなかった。結奈の日記にはちゃんと書かれてあった。
『ママ。聞いて。パパが浮気しそうだよ。山中先生に気があるようなの。怒ってあげて。』
これにはまいった。ママの言葉をどうやって書こうかと頭を悩ました。あまりにかばいすぎると私が書いていることがばれてしまう。こんな時、理恵なら・・・いや、思い出そうとしてもそんなことはなかったし、考えられなかった。これはまずいかなと思いつつ、やっとのことで書いた。
『パパは私たちのパパよ。でも警察官だからみんなを守っているのよ。もちろん山中先生も。誤解しないで見ていてあげて。』
(結奈がお腹を空かして待っている。早く帰ってやらないと・・・)
そこで普段は通らない近道をすることにした。鬱蒼とした木々の間を進んでいく。そこは人通りも少なく電灯もあまりない暗い道で、昼間通って気味が悪いのに夜ならなおさら不気味だった。しかも横手に墓地まで見える。さすがの私もいつもはそこを避けている。
(今日だけだ・・・今日だけだ・・・何もない・・・)
なぜかそう思いながら家路を急いでいた。すると後ろから足音が聞こえる。
(誰かが歩いてくる。それも早足で・・・)
いつもなら気にしなかったのかもしれないが、今日は不気味に感じていた。私も追いつかれないように早足になった。しかし後ろからの足音はもっと早くなり、駆け足になっていた。
(お、追いつかれる・・・)
人間だったら怖くもないが、もし幽霊だったらどうしよう・・・いい大人がそう考えていた。こうなったら・・・私は逃げようと思った。その足音は間近まで迫っていたのを感じていたから・・・。
「藤田さん。」
それは若い女性の声だった。私は一瞬、ぞくっとしたがその声には聞き覚えがあった。私は振り返った。
「山中先生!」
それは結奈の担任の山中先生だった。彼女は小走りで追いかけてきたせいか、息が乱れている。
「どうしたんですか?」
「今日は遅くなってしまって・・・でもいつものように誰かにつけられている気がしたんです。怖くなってしまって。」
「いつものように?」
私はふっと頭に浮かんだ。それはストーカーではないかと。それならば彼女の身が危ない可能性がある。
「ええ、このところ誰かにつけられているような・・・。それだけじゃないんです。郵便物が荒らされていたり、無言電話がかかってきたり・・・」
まさにそれはストーカーの仕業と思われた。
「ちょうど藤田さんの姿が見えたから追いかけたらここまで来てしまって・・・」
私が彼女を危ない道に引っ張ってしまったようだった。
「とにかくご自宅まで送りましょう。」
一度、山中先生を送ったことがあるから場所は覚えていた。あのマンションならセキュリティーはしっかりしているから安心だろう。
「警察に相談された方がいいですよ。ストーカーに対してはちゃんと対処ができるようになっていますから。」
「ええ、そうします。毎日が怖いですから。」
別れ際にそう伝えた。マンションに入って行く彼女を見送った後、私は辺りを見渡した。
(やはり誰か見ている。)
私も何者かの視線を感じていた。だがそれが何者ものなのか、どこから見ているのかはわからない。署のストーカー対策の専門家の意見を聞いた方がいいようだ。
家に帰ると結奈が待っていた。
「パパ。遅い!」
「ごめんね。途中で山中先生に会ったんだ。暗くて危ないからマンションまで送っていったんだよ。」
「ふ~ん。それだけ?」
「それだけだよ。どうして?」
「だってパパ、怪しいんだもの。」
どうも結奈は私が山中先生に下心があると思っているようだ。あの初詣の一件から。まだ9歳なのにませているのか・・・。
「そんなこと言うなよ。ママの前で。それよりご飯にしよう。今日は買ってきたおかずだけど我慢してね。」
「は~い。」
それきり山中先生の話は出なかった。ママの写真のある前でそんなことを言ってはいけないと思ったのか・・・。
だがそうではなかった。結奈の日記にはちゃんと書かれてあった。
『ママ。聞いて。パパが浮気しそうだよ。山中先生に気があるようなの。怒ってあげて。』
これにはまいった。ママの言葉をどうやって書こうかと頭を悩ました。あまりにかばいすぎると私が書いていることがばれてしまう。こんな時、理恵なら・・・いや、思い出そうとしてもそんなことはなかったし、考えられなかった。これはまずいかなと思いつつ、やっとのことで書いた。
『パパは私たちのパパよ。でも警察官だからみんなを守っているのよ。もちろん山中先生も。誤解しないで見ていてあげて。』
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる