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第7章 2月
雪だるま
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2月に入った頃、日本列島は寒波を襲った。それは毎年のことだが今年は少し強かった。大雪が降るようなのである。そうなれば交通がマヒし、職場への出勤や学校への登校に大きな影響を受ける。
天気予報を見ながら私が困った顔をしているに比べ、結奈はなぜかうれしそうだった。
「今夜から雪みたいだよ。」
「雪は積もるかなあ。」
「積もるかもしれないね。転ばないように気をつけてね。」
「うん。でも楽しみだなあ。」
結奈はそう言って自分の部屋に行った。
(雪なのになぜ?)
と思いつつ、彼女が寝た頃に部屋に行った。暖房をつけているが、それでも部屋の中は少し寒い。布団から出した腕を直して、首まで布団をかけてやった。さて日記の方はと言うと、こう書かれていた。
『明日は雪、積もるみたい。いっぱい雪があったら何を作ろうかな。雪だるまがいいかな。ママは何がいい?』
(そういうことか)と私は思った。雪なんか大人にとって厄介でしかない。でも子供にとっては雪だるまとか、作りたいものがあるようだ。毎年そんなに積もることがないのだから。でも寒い中にいて風邪でも引いたら大変だ。
『雪が降ったらかなり寒いわよ。外に出ないで、家で温かくしていてね。・・・』
とママの返事を書いたがどうだろうか。結奈は家でじっとしていないような気がしていた。
次の日、窓を開けると外は真っ白だった。やっぱり雪が積もっている。
(これは大変だ。早めに出ないと・・・)
だが1階に下りてきた結奈は外の雪に興奮していた。
「見て、見て! 雪よ。こんなに積もっているよ!」
「いいから、早く用意をしなさい。歩きにくいから学校まで時間がかかるのだから。」
「はーい。」
結奈は朝食を食べて早めに家を出た。私も外の雪にげんなりしながら、いつもより早めに出勤した。だがそれからが大変だった。バスはなかなか来ないし、乗ったバスは満員で、また道は歩きにくいし、転びそうになるわ、溶けた雪で足が濡れていた。
(今頃、結奈もさすがに雪は嫌だと思っているかな。)
私はそう思った。雪だるまを作ろうという気はなくなっているだろう。学校から帰って家で寒さで震えているかもしれない。こんな日は鍋でもして温かくしようと朝から考えていた。
私が帰宅すると結奈はうれしそうに玄関で出迎えてくれた。
「今日は寒かっただろう。」
「ううん。平気。でも楽しかった。」
「楽しかった?」
「うん。学校で雪合戦をしたの。当たってもいたくないけど、冷たいからひやっとするのよ。」
「そうか。雪を楽しんでいたんだね。」
「それだけじゃないのよ。見た?」
「何を?」
「見てないの? じゃあ、こっちに来て!」
結奈は私を外に引っ張っていった。暗くて気付かなかったが、そこに確かにあった。それも3つ。
「雪だるまよ。結奈が作ったんだ。」
「3つも! 頑張ったんだね。」
「うん。パパとママ、そして私。やっぱり3つないとさびしいもの。」
よく見ると確かにそう見えるように工夫がしてあった。一番大きいのは首にネクタイのように葉っぱがくっつけてあった。その次に大きいのは口のところに赤い紙が貼られていた。そしてその間に置かれていた小さい雪だるまは、落ち葉の髪飾りをつけていた。いずれも楽しそうな表情をしていた。
「うまくつくったね。大変だっただろう。」
「うん。でもこれを作りたかったの。家族3人の。」
「そうか。じゃあ、写真に撮っておこうか。」
私はスマホで写真を撮った。そういえば家族3人で写真を撮ったのはいつだろうか・・・去年? いや一昨年ぐらいか。もう今は3人で撮ることはできないが・・・。雪だるまであっても我が家の3人の家族写真は貴重に思える。
「もう寒いから中に入ろうか? 今日はお鍋だよ。」
「わーい!」
やっぱり寒い時期は子供であっても鍋はうれしいらしい。もっとも今夜の鍋の味付けも理恵の日記のレシピから頂戴しているが・・・。
その夜の結奈の日記にはこう書かれていた。
『雪だるまを作ったよ。パパとママと結奈のだよ。パパに見せたら写真を撮ってくれた。明日にはもう溶けてしまうけど・・・。でもまた雪が降ったら作るからね。これで家族がそろうのだから・・・』
結奈は雪だるまを作りながら、ママがいた3人の家族の頃を思い出していたのだろう。ママのことをいつまでも引きずっているのは、私がいつもママの言葉をとして日記を書いているからかもしれない。だがこれが結奈の心の支えになっているはず。まだやめるわけにはいかない。
『よくできていたわ。ママは感心したのよ。・・・明日も寒いから温かくして風邪をひかないようにね。』
私はただそう書いただけだった。
天気予報を見ながら私が困った顔をしているに比べ、結奈はなぜかうれしそうだった。
「今夜から雪みたいだよ。」
「雪は積もるかなあ。」
「積もるかもしれないね。転ばないように気をつけてね。」
「うん。でも楽しみだなあ。」
結奈はそう言って自分の部屋に行った。
(雪なのになぜ?)
と思いつつ、彼女が寝た頃に部屋に行った。暖房をつけているが、それでも部屋の中は少し寒い。布団から出した腕を直して、首まで布団をかけてやった。さて日記の方はと言うと、こう書かれていた。
『明日は雪、積もるみたい。いっぱい雪があったら何を作ろうかな。雪だるまがいいかな。ママは何がいい?』
(そういうことか)と私は思った。雪なんか大人にとって厄介でしかない。でも子供にとっては雪だるまとか、作りたいものがあるようだ。毎年そんなに積もることがないのだから。でも寒い中にいて風邪でも引いたら大変だ。
『雪が降ったらかなり寒いわよ。外に出ないで、家で温かくしていてね。・・・』
とママの返事を書いたがどうだろうか。結奈は家でじっとしていないような気がしていた。
次の日、窓を開けると外は真っ白だった。やっぱり雪が積もっている。
(これは大変だ。早めに出ないと・・・)
だが1階に下りてきた結奈は外の雪に興奮していた。
「見て、見て! 雪よ。こんなに積もっているよ!」
「いいから、早く用意をしなさい。歩きにくいから学校まで時間がかかるのだから。」
「はーい。」
結奈は朝食を食べて早めに家を出た。私も外の雪にげんなりしながら、いつもより早めに出勤した。だがそれからが大変だった。バスはなかなか来ないし、乗ったバスは満員で、また道は歩きにくいし、転びそうになるわ、溶けた雪で足が濡れていた。
(今頃、結奈もさすがに雪は嫌だと思っているかな。)
私はそう思った。雪だるまを作ろうという気はなくなっているだろう。学校から帰って家で寒さで震えているかもしれない。こんな日は鍋でもして温かくしようと朝から考えていた。
私が帰宅すると結奈はうれしそうに玄関で出迎えてくれた。
「今日は寒かっただろう。」
「ううん。平気。でも楽しかった。」
「楽しかった?」
「うん。学校で雪合戦をしたの。当たってもいたくないけど、冷たいからひやっとするのよ。」
「そうか。雪を楽しんでいたんだね。」
「それだけじゃないのよ。見た?」
「何を?」
「見てないの? じゃあ、こっちに来て!」
結奈は私を外に引っ張っていった。暗くて気付かなかったが、そこに確かにあった。それも3つ。
「雪だるまよ。結奈が作ったんだ。」
「3つも! 頑張ったんだね。」
「うん。パパとママ、そして私。やっぱり3つないとさびしいもの。」
よく見ると確かにそう見えるように工夫がしてあった。一番大きいのは首にネクタイのように葉っぱがくっつけてあった。その次に大きいのは口のところに赤い紙が貼られていた。そしてその間に置かれていた小さい雪だるまは、落ち葉の髪飾りをつけていた。いずれも楽しそうな表情をしていた。
「うまくつくったね。大変だっただろう。」
「うん。でもこれを作りたかったの。家族3人の。」
「そうか。じゃあ、写真に撮っておこうか。」
私はスマホで写真を撮った。そういえば家族3人で写真を撮ったのはいつだろうか・・・去年? いや一昨年ぐらいか。もう今は3人で撮ることはできないが・・・。雪だるまであっても我が家の3人の家族写真は貴重に思える。
「もう寒いから中に入ろうか? 今日はお鍋だよ。」
「わーい!」
やっぱり寒い時期は子供であっても鍋はうれしいらしい。もっとも今夜の鍋の味付けも理恵の日記のレシピから頂戴しているが・・・。
その夜の結奈の日記にはこう書かれていた。
『雪だるまを作ったよ。パパとママと結奈のだよ。パパに見せたら写真を撮ってくれた。明日にはもう溶けてしまうけど・・・。でもまた雪が降ったら作るからね。これで家族がそろうのだから・・・』
結奈は雪だるまを作りながら、ママがいた3人の家族の頃を思い出していたのだろう。ママのことをいつまでも引きずっているのは、私がいつもママの言葉をとして日記を書いているからかもしれない。だがこれが結奈の心の支えになっているはず。まだやめるわけにはいかない。
『よくできていたわ。ママは感心したのよ。・・・明日も寒いから温かくして風邪をひかないようにね。』
私はただそう書いただけだった。
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