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第6章 友達
一家の旅立ち
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次の日、仕事から帰ってくると結奈が寂しそうにしていた。
「どうしたの?」
「やっぱり芽衣ちゃんは転校するって。それに急に。あまり話さないうちに帰っちゃった。もっとお別れを言いたかったのに。芽衣ちゃんは親戚に預けられるのかな?」
「仕方がないよ。芽衣ちゃんのお父さんとお母さんが話し合って決めたのだから。」
すると玄関の呼鈴が鳴った。私が出て行くと、芽衣ちゃんとお父さんとお母さんの3人が来ていた。
「この度はお世話になりました。」
芽衣ちゃんのお母さんが言った。顔色はよくないものの病院にいた時よりは元気になっている。
「退院されたのですか?」
「はい。おかげさまで。でもすぐに入院することになると思いますが・・・」
芽衣ちゃんのお母さんがそう言った後、お父さんがその後を続けた。
「私の単身赴任先の横浜の病院に転院することになったのです。」
「ということは?」
「妻とも話し合って3人で暮らすことになりました。もっとも妻は病院に入院していることが多いとは思いますが。」
「そうだったのですか。」
「藤田さんにお話しいただいてわかったのです。家族は一緒にいた方がいいと。特に私たち家族には残された時間は多くない。こんな時、仕事が忙しいと言って妻や娘を放っておくのはおかしいと気付いたのです。仕事も時間に融通が利く部署に回してもらって、できるだけ家族と過ごしたいと思います。」
「それはよかった。私もそれがいいと思います。」
私は大きくうなずいた。芽衣ちゃんのお父さんはお母さんと真剣にこれからのことを話し合ったのだろう。
「私も藤田さんのように家事を少しずつでもこなしていきたいと思います。妻からいろいろ聞いて。」
「それは奥さんも大変ですね。一から仕込むとなると大変ですからね。はっはっは。」
「まあ、一からがんばります。はっはっは。」
辺りは笑い声に包まれた。芽衣ちゃんのお父さんは頭をかいていた。
家族3人が横浜で暮らす。この形がこの家族にとって最良の選択なのだろう。だが芽衣ちゃんは引っ越してしまって結奈と別れることになる。結奈は寂しがると思いきや、うれしそうに言った。
「よかったね。芽衣ちゃん。これでお父さんとお母さんといつも一緒だね。」
「ありがとう。でも結奈ちゃんとお別れすることになるの。」
「ううん。手紙をいっぱい書くから。電話もするから。いつまでも友達でいようね。」
「うん。芽衣もそうする。」
2人は手を握っていた。私をはじめ大人たちはそれをほほえましく見ていた。芽衣ちゃんのお母さんが少しかがんで芽衣ちゃんの頭を撫でた。
「よかったわね。芽衣。」
「うん。これで私も寂しくないよ。でも向こうでも友達一杯作るから。」
芽衣ちゃんのお父さんは私にそっと耳打ちした。
「悔いが残らないように家族で過ごすつもりです。もし妻がいなくなっても2人で生きていけるように。」
「それが一番です。」
私も小さな声で耳打ちした。この家族なら不幸なことがあっても乗り越えられると思って・・・。
「じゃあ、私たちはこれで。」
芽衣ちゃんとお父さんとお母さんは手をつないで歩いて行った。それを私と結奈が見送っていた。
「どうしたの?」
「やっぱり芽衣ちゃんは転校するって。それに急に。あまり話さないうちに帰っちゃった。もっとお別れを言いたかったのに。芽衣ちゃんは親戚に預けられるのかな?」
「仕方がないよ。芽衣ちゃんのお父さんとお母さんが話し合って決めたのだから。」
すると玄関の呼鈴が鳴った。私が出て行くと、芽衣ちゃんとお父さんとお母さんの3人が来ていた。
「この度はお世話になりました。」
芽衣ちゃんのお母さんが言った。顔色はよくないものの病院にいた時よりは元気になっている。
「退院されたのですか?」
「はい。おかげさまで。でもすぐに入院することになると思いますが・・・」
芽衣ちゃんのお母さんがそう言った後、お父さんがその後を続けた。
「私の単身赴任先の横浜の病院に転院することになったのです。」
「ということは?」
「妻とも話し合って3人で暮らすことになりました。もっとも妻は病院に入院していることが多いとは思いますが。」
「そうだったのですか。」
「藤田さんにお話しいただいてわかったのです。家族は一緒にいた方がいいと。特に私たち家族には残された時間は多くない。こんな時、仕事が忙しいと言って妻や娘を放っておくのはおかしいと気付いたのです。仕事も時間に融通が利く部署に回してもらって、できるだけ家族と過ごしたいと思います。」
「それはよかった。私もそれがいいと思います。」
私は大きくうなずいた。芽衣ちゃんのお父さんはお母さんと真剣にこれからのことを話し合ったのだろう。
「私も藤田さんのように家事を少しずつでもこなしていきたいと思います。妻からいろいろ聞いて。」
「それは奥さんも大変ですね。一から仕込むとなると大変ですからね。はっはっは。」
「まあ、一からがんばります。はっはっは。」
辺りは笑い声に包まれた。芽衣ちゃんのお父さんは頭をかいていた。
家族3人が横浜で暮らす。この形がこの家族にとって最良の選択なのだろう。だが芽衣ちゃんは引っ越してしまって結奈と別れることになる。結奈は寂しがると思いきや、うれしそうに言った。
「よかったね。芽衣ちゃん。これでお父さんとお母さんといつも一緒だね。」
「ありがとう。でも結奈ちゃんとお別れすることになるの。」
「ううん。手紙をいっぱい書くから。電話もするから。いつまでも友達でいようね。」
「うん。芽衣もそうする。」
2人は手を握っていた。私をはじめ大人たちはそれをほほえましく見ていた。芽衣ちゃんのお母さんが少しかがんで芽衣ちゃんの頭を撫でた。
「よかったわね。芽衣。」
「うん。これで私も寂しくないよ。でも向こうでも友達一杯作るから。」
芽衣ちゃんのお父さんは私にそっと耳打ちした。
「悔いが残らないように家族で過ごすつもりです。もし妻がいなくなっても2人で生きていけるように。」
「それが一番です。」
私も小さな声で耳打ちした。この家族なら不幸なことがあっても乗り越えられると思って・・・。
「じゃあ、私たちはこれで。」
芽衣ちゃんとお父さんとお母さんは手をつないで歩いて行った。それを私と結奈が見送っていた。
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