結奈とママの、そしてパパの日記

広之新

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第5章 年末年始

年末の風景

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 もう今年も押し詰まっていた。妻の死で家の中はうち沈んだ暗さに覆われていたが、クリスマス以来、ようやく一筋の明るさが見えてきた。
 結奈はあの日記帳に毎日、たくさん書いていた。最初のうちは今日あった出来事を少し書いていただけだったが、ママの返事が添えられるようになるといろんなことを書き出した。それは日記というよりママに向けた手紙と言った方が正しいのかもしれない。

 私はいつものように結奈が寝静まってから彼女の部屋に行った。そっと日記帳を見るのである。

『今日は学校の大そうじがあったよ。窓をふいたり、ほうきで掃いたりして、教室がきれいにした。がんばったから先生がほめてくれたよ・・・』

今日の日記にはそう書かれていた。机の電灯に照らされて結奈の顔が誇らしげに輝いている気がした。

(そうか。学校でもがんばっているんだな。)

担任の山中先生からもメールが送られている。

『結奈さんは最近、以前のような明るさが戻ってきています。安心しました。』

結奈はママの死から確実に立ち直っている。やはりこの日記でママと交流できるのが心の支えになっているのだろう。私はほっと安心する反面、少し後ろめたさも感じていた。ママではなく私が返事を書いていることに・・・。
 だが今さら結奈にばらすことはできない。そんなことをすればより一層落ち込んでしまうかもしれないと思うからだ。いつかはばれるとは思いつつ、このままママの代役をするしかない。

『よくがんばったわね。家でパパのお手伝いもしてくれるし、学校でも掃除をいっしょうけんめいして結奈はえらいわ。ママはうれしい。もうすぐ学校も終わりね。家にいても朝早く起きるのよ。それに家でも大掃除をたのむわよ。パパが掃除していてもあちこちほこりがたまっているから・・・』

私はペンを走らせた。多分、理恵ならこう言うと思って・・・。

 冬休みに入ると、日中、家にいる結奈はあちこち掃除を始めた。ママがいた時もよく手伝っていたに違いない。掃除する場所やそのやり方をよく知っていた。おかげで年末の大掃除は手が抜けそうだ。その代わりおせち料理を頑張って作ることにした。
 結奈もキッチンにいて横から見ていて口を出す。私は理恵の日記からあらかたレシピ書き写していたから、初めておせち料理を作るのに不安はなかった。だが結奈の見るところ少し違うようだ。

「そこは・・・」
「もっと味が甘い方がいい・・・」

結奈からいろいろと指導が入る。多分、去年まではこうして理恵は結奈とおせち料理を作っていたのだろう。その夜に日記にこう書かれていた。

『今日はおせち料理を作ったよ。パパが作ったのはママとは少し違うから直しておいたよ。来年もママの味のおせちが食べられるからね。正月のお雑煮もパパが作るのを見ておくからね・・・』

子供はママの味に敏感なのかもしれない。特に結奈は。私は理恵の作った料理の味をはっきり思い出せない。仕事の忙しさに考え事もしていて、しっかり味わっていなかったということか・・・。でも結奈がママの味を覚えているから、私もしっかり覚えていくとしよう。
 私は結奈の日記の後にママの返事を書いた。

『ママの味を覚えてくれてうれしかった。結奈はしっかりお手伝いしてくれたから覚えてくれたのね。これからもパパに伝えてあげてね。・・・・また来年はいい年でありますように。』

 今年は結奈と2人で年越しだ。理恵のいない初めての年越しになる。だが理恵が心の中に生きている限り、寂しさを感じることは少ないかもしれない。結奈は日記でママと話しているのだから・・・。
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