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第4章 日記
クリスマスの奇跡
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昼休みに女性事務員の話が聞こえてきた。いずれも小学生の子供を持つ母親だ。私も話を聞いて参考にさせてもらっている。
「決まった? クリスマスプレゼント?」
「まだよ。」
「うちの子はゲームよ。でももっと身になるものがいいんだけど。ゲームばっかりして。」
「去年は本を買ったらがっかりしていたわ。難しいわね。」
そういえばクリスマスにプレゼントを買わねば・・・まだ先と思っていたが考えておかねばならないようだ。去年までは理恵がちゃんと用意してくれた。多分、大好きなキャラクターのグッズだった気がする。結奈の好みを知っているから用意できるのだ。つまらないものを買ってしまうとがっかりさせるだろう。
私は夕食のときに何気に結奈に聞いてみた。
「結奈が一番欲しいものは何かな?」
「ううん。別に。」
結奈は首を横に振ってそう答えた。最近の彼女の日記にも欲しいものについて何も書いていない。そのうちに何かヒントになることを書いてくるか・・・と待っているうちに日ばかりが過ぎていった。
だが私には頼みの綱の理恵の日記がある。早速、去年のクリスマス前のページを開いて見た。
『今年の結奈へのクリスマスのプレゼントをどうしよう? ちょっと聞いてみたが内緒と言って教えてくれない。』
『買い物に結奈を誘って一緒に行ってみる。結奈はワンワンズのキャラクターグッズをじっと見ていた。多分、これだと思う。今年は結奈の好きなワンワンズのグッズにしよう。』
『ワンワンズの文房具セットを買った。ぬいぐるみは持っているから却下・・・』
日記を読んでみてわかったが、理恵でもかなり迷っていた。結奈はクリスマスイブに枕元に大きな靴下をつるす。そこに欲しいものを書いた紙を入れておけば、サンタさんがそれをくれると思っているらしい。だからサンタさん以外には欲しいものは秘密にしておきたいようだ。去年のクリスマスの日、理恵の日記にはこう書かれていた。
『靴下には「ワンワンズがほしいです。」と書いてあった。それにカードには「サンタさん。毎年、ありがとう。」の言葉が添えられていた。結奈も心遣いができるようになった・・・』
去年はずばり、理恵の予想が当たったようだ。今年も結奈をがっかりさせないものを選ばねば・・・私は考えを巡らした。
まず私は休日に結奈を買いものに連れ出した。特に用はないが、まずデパートに行ってみた。ここならいろんなものがあるから結奈の気にいるものがあるのかもしれない。時期はクリスマス商戦、にぎやかな音楽が流れ、くり出す人も多く、様々な品物があふれていた。私はわざとらしくおもちゃ売り場、書籍売り場、雑貨売り場、服の売り場・・・結奈が興味を引きそうなところを回った。
(さて、結奈は何が好きなのか?)
じっと観察してみたがあまり興味を示さない。私は結奈に言った。
「ここまで来たのだから何かを買ってあげよう。」
「ううん。いいの・・・」
結奈は首を横に振った。仕方がないので結奈の服を買っただけになった。
あてが外れてしまったが、ワンワンズのグッズが新しく発売されているのを見つけた。
(今年もこれにするか・・・。結奈のいないときに買って、クリスマスイブに靴下に入れよう。)
と思った。我ながら安易に思えたが、他に思いつかなかった。
いよいよクリスマスイブの夜になった。今日は職場からすぐにデパートに行ってプレゼントを買って、ついでに料理やケーキを手に入れた。帰宅すると結奈に見つからないようにプレゼントを隠して、チキンをはじめ、ご馳走をテーブルに並べた。
「結奈。クリスマスパーティーだ。」
私は2階の部屋にいる結奈を呼んだ。これを見て結奈は目を輝かしてくれるのを信じて・・・。だが結奈の表情は暗かった。そういえば彼女の日記にはクリスマスのことは書いていなかった。毎年、楽しみにしているはずなのに・・・。
それでも私は盛り上げようと結奈に声をかけていた。
「さあ、チキンだよ。本当は七面鳥だけどこのチキンもおいしいよ。」
「今日だけは特別にジュースだ。」
「ケーキだよ。サンタさんとトナカイが乗っているよ。」
結奈は「うんうん。」うなずくだけだった。やはり元気がない。
(何か嫌なことでもあったのか?)
そうであっても直接聞くわけにいかない。聞いても私に言わないだろう。また彼女の日記を見るしかないのか・・・。
クリスマスディナーはこうして静かなままに終わった。結奈を喜ばそうとした私の目論見は空振りに終わった。だが後はプレゼントがある。これで結奈は喜んでくれるはずだ。
結奈が寝たころを見計らって私は彼女に部屋に行った。プレゼントの包みを持って・・・。結奈はすやすやとよく寝ている。そしてその枕元に靴下が吊るしてある。この靴下はかなり大きいものだが、このプレゼントの包みよりは小さい。私はそっとプレゼントをそのまま枕元に置いた。
(これでよしと。そういえば靴下にメッセージカードを入れていたんだっけ。これを持っていかないと。)
それと結奈が一体何を欲しがっていたかが気になった。ワンワンズの新しいグッズを買ってきたもののこれでよかったかどうか・・・。私は靴下に手を入れてカードを抜き取った。そしてそっと机の電灯をつけてそのカードを開いた。
『サンタさん。毎年ありがとう。私は一つだけ欲しいものがあります・・・』
と書かれていた。結奈の欲しいもの、それは一体・・・。
『ママに会いたい。』
それを読んで私は愕然としてカードを落とした。確かに今の結奈にとって一番欲しいものだ。かなえることはできないが・・・。
私はどんよりした気持ちになったが、気を取り直して彼女の日記を広げた。そこには・・・。
『クリスマスなのに悲しい。ママはどうして死んでしまったの。』
その文字は涙でにじんでいた。振り返って寝ている結奈の顔をみると、そこには涙の痕があった。ママのいないクリスマスを悲しんでいたのだ。
(理恵。どうしたらいいんだ・・・。私には結奈に何もしてやれないのか・・・)
私はため息をついた。こんな時、理恵なら・・・
その時、私は思わず、ペンを握り締めていた。そして結奈の書いた文の後に、文字を書いていた。
『結奈。ごめんね。でもママはいつも結奈のそばにいる。ずっと結奈のことを見ているよ。』
その文字はまるで理恵が書いたかのようだった。理恵が乗り移って・・・いや、私が理恵の代わりのこれを書いているのだ。結奈のために・・・。
そうして私は結奈の部屋を出た。結奈に嘘をついているようで心苦しかったが、もうこれしかないのだ。本当にママに会わせることはできないのだから・・・。
次の朝、結奈は大きな声を上げてリビングに来た。もちろん、あの日記帳をもって。
「パパ! 見て! ママが書いてくれたのよ!」
そこには涙ににじんだ結奈の字の後に、私の書いたママの言葉があった。私は驚くふりをして結奈に言った。
「本当だ! これはすごい! 天国のママが結奈に返事をくれたんだ!」
「サンタさんがお願いを聞いてくれたんだ。」
「そうなの?」
「うん。靴下に『ママに会いたい』のカードを入れたんだよ。そうしたらママの返事が書いてあった。」
「そうか。結奈の心が天に通じたんだ。クリスマスの奇跡だね。」
私は感動したように言った。白々しいと思ったが、こうでもしないと結奈にばれてしまう気がした。
「ええ、もうこれで寂しくない。いつでもママと話せるのだから!」
「いつでも?」
それを聞いて私は戸惑った。クリスマスだけじゃなくて・・・。
「ええ。ママはいつも見てくれているって。きっと返事をくれるわ!」
喜ぶ結奈の姿に私は否定できなかった。こうなったら・・・
「それじゃあ、毎日、ママに今日の出来事を書いてあげるんだ。ママは喜ぶぞ。」
「そうする! 毎日書く!」
結奈は喜んで久しぶりの笑顔を見せた。私は後ろめたくもあったが、そんな結奈の姿にホッとしていた。
今年のクリスマスは奇跡が起こった。結奈にも私にも・・・。
「決まった? クリスマスプレゼント?」
「まだよ。」
「うちの子はゲームよ。でももっと身になるものがいいんだけど。ゲームばっかりして。」
「去年は本を買ったらがっかりしていたわ。難しいわね。」
そういえばクリスマスにプレゼントを買わねば・・・まだ先と思っていたが考えておかねばならないようだ。去年までは理恵がちゃんと用意してくれた。多分、大好きなキャラクターのグッズだった気がする。結奈の好みを知っているから用意できるのだ。つまらないものを買ってしまうとがっかりさせるだろう。
私は夕食のときに何気に結奈に聞いてみた。
「結奈が一番欲しいものは何かな?」
「ううん。別に。」
結奈は首を横に振ってそう答えた。最近の彼女の日記にも欲しいものについて何も書いていない。そのうちに何かヒントになることを書いてくるか・・・と待っているうちに日ばかりが過ぎていった。
だが私には頼みの綱の理恵の日記がある。早速、去年のクリスマス前のページを開いて見た。
『今年の結奈へのクリスマスのプレゼントをどうしよう? ちょっと聞いてみたが内緒と言って教えてくれない。』
『買い物に結奈を誘って一緒に行ってみる。結奈はワンワンズのキャラクターグッズをじっと見ていた。多分、これだと思う。今年は結奈の好きなワンワンズのグッズにしよう。』
『ワンワンズの文房具セットを買った。ぬいぐるみは持っているから却下・・・』
日記を読んでみてわかったが、理恵でもかなり迷っていた。結奈はクリスマスイブに枕元に大きな靴下をつるす。そこに欲しいものを書いた紙を入れておけば、サンタさんがそれをくれると思っているらしい。だからサンタさん以外には欲しいものは秘密にしておきたいようだ。去年のクリスマスの日、理恵の日記にはこう書かれていた。
『靴下には「ワンワンズがほしいです。」と書いてあった。それにカードには「サンタさん。毎年、ありがとう。」の言葉が添えられていた。結奈も心遣いができるようになった・・・』
去年はずばり、理恵の予想が当たったようだ。今年も結奈をがっかりさせないものを選ばねば・・・私は考えを巡らした。
まず私は休日に結奈を買いものに連れ出した。特に用はないが、まずデパートに行ってみた。ここならいろんなものがあるから結奈の気にいるものがあるのかもしれない。時期はクリスマス商戦、にぎやかな音楽が流れ、くり出す人も多く、様々な品物があふれていた。私はわざとらしくおもちゃ売り場、書籍売り場、雑貨売り場、服の売り場・・・結奈が興味を引きそうなところを回った。
(さて、結奈は何が好きなのか?)
じっと観察してみたがあまり興味を示さない。私は結奈に言った。
「ここまで来たのだから何かを買ってあげよう。」
「ううん。いいの・・・」
結奈は首を横に振った。仕方がないので結奈の服を買っただけになった。
あてが外れてしまったが、ワンワンズのグッズが新しく発売されているのを見つけた。
(今年もこれにするか・・・。結奈のいないときに買って、クリスマスイブに靴下に入れよう。)
と思った。我ながら安易に思えたが、他に思いつかなかった。
いよいよクリスマスイブの夜になった。今日は職場からすぐにデパートに行ってプレゼントを買って、ついでに料理やケーキを手に入れた。帰宅すると結奈に見つからないようにプレゼントを隠して、チキンをはじめ、ご馳走をテーブルに並べた。
「結奈。クリスマスパーティーだ。」
私は2階の部屋にいる結奈を呼んだ。これを見て結奈は目を輝かしてくれるのを信じて・・・。だが結奈の表情は暗かった。そういえば彼女の日記にはクリスマスのことは書いていなかった。毎年、楽しみにしているはずなのに・・・。
それでも私は盛り上げようと結奈に声をかけていた。
「さあ、チキンだよ。本当は七面鳥だけどこのチキンもおいしいよ。」
「今日だけは特別にジュースだ。」
「ケーキだよ。サンタさんとトナカイが乗っているよ。」
結奈は「うんうん。」うなずくだけだった。やはり元気がない。
(何か嫌なことでもあったのか?)
そうであっても直接聞くわけにいかない。聞いても私に言わないだろう。また彼女の日記を見るしかないのか・・・。
クリスマスディナーはこうして静かなままに終わった。結奈を喜ばそうとした私の目論見は空振りに終わった。だが後はプレゼントがある。これで結奈は喜んでくれるはずだ。
結奈が寝たころを見計らって私は彼女に部屋に行った。プレゼントの包みを持って・・・。結奈はすやすやとよく寝ている。そしてその枕元に靴下が吊るしてある。この靴下はかなり大きいものだが、このプレゼントの包みよりは小さい。私はそっとプレゼントをそのまま枕元に置いた。
(これでよしと。そういえば靴下にメッセージカードを入れていたんだっけ。これを持っていかないと。)
それと結奈が一体何を欲しがっていたかが気になった。ワンワンズの新しいグッズを買ってきたもののこれでよかったかどうか・・・。私は靴下に手を入れてカードを抜き取った。そしてそっと机の電灯をつけてそのカードを開いた。
『サンタさん。毎年ありがとう。私は一つだけ欲しいものがあります・・・』
と書かれていた。結奈の欲しいもの、それは一体・・・。
『ママに会いたい。』
それを読んで私は愕然としてカードを落とした。確かに今の結奈にとって一番欲しいものだ。かなえることはできないが・・・。
私はどんよりした気持ちになったが、気を取り直して彼女の日記を広げた。そこには・・・。
『クリスマスなのに悲しい。ママはどうして死んでしまったの。』
その文字は涙でにじんでいた。振り返って寝ている結奈の顔をみると、そこには涙の痕があった。ママのいないクリスマスを悲しんでいたのだ。
(理恵。どうしたらいいんだ・・・。私には結奈に何もしてやれないのか・・・)
私はため息をついた。こんな時、理恵なら・・・
その時、私は思わず、ペンを握り締めていた。そして結奈の書いた文の後に、文字を書いていた。
『結奈。ごめんね。でもママはいつも結奈のそばにいる。ずっと結奈のことを見ているよ。』
その文字はまるで理恵が書いたかのようだった。理恵が乗り移って・・・いや、私が理恵の代わりのこれを書いているのだ。結奈のために・・・。
そうして私は結奈の部屋を出た。結奈に嘘をついているようで心苦しかったが、もうこれしかないのだ。本当にママに会わせることはできないのだから・・・。
次の朝、結奈は大きな声を上げてリビングに来た。もちろん、あの日記帳をもって。
「パパ! 見て! ママが書いてくれたのよ!」
そこには涙ににじんだ結奈の字の後に、私の書いたママの言葉があった。私は驚くふりをして結奈に言った。
「本当だ! これはすごい! 天国のママが結奈に返事をくれたんだ!」
「サンタさんがお願いを聞いてくれたんだ。」
「そうなの?」
「うん。靴下に『ママに会いたい』のカードを入れたんだよ。そうしたらママの返事が書いてあった。」
「そうか。結奈の心が天に通じたんだ。クリスマスの奇跡だね。」
私は感動したように言った。白々しいと思ったが、こうでもしないと結奈にばれてしまう気がした。
「ええ、もうこれで寂しくない。いつでもママと話せるのだから!」
「いつでも?」
それを聞いて私は戸惑った。クリスマスだけじゃなくて・・・。
「ええ。ママはいつも見てくれているって。きっと返事をくれるわ!」
喜ぶ結奈の姿に私は否定できなかった。こうなったら・・・
「それじゃあ、毎日、ママに今日の出来事を書いてあげるんだ。ママは喜ぶぞ。」
「そうする! 毎日書く!」
結奈は喜んで久しぶりの笑顔を見せた。私は後ろめたくもあったが、そんな結奈の姿にホッとしていた。
今年のクリスマスは奇跡が起こった。結奈にも私にも・・・。
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