12 / 40
第3章 新たな生活
チーズインハンバーグ
しおりを挟む
私はその夜、チーズインのハンバーグを作った。もちろんレシピ本通りにだ。少しは料理に腕が上がり、レシピ本を見て何とかそれらしいものを作れるまでになった。時間はかかるが・・・。
結奈は相変わらず自室にこもっていた。私は部屋の外から声をかけた。
「ご飯できたよ。今日は結奈の好きなものだよ。」
するとドアが開いて結奈が出て来た。その顔はいつもと同じく暗かった。それでも私は少し自信があった。今日は結奈の好きなチーズインのハンバーグなのだから。
テーブルの上には自慢のハンバーグなどの料理が並べられている。結奈は小さな声で
「いただきます・・・」
と言って食べていった。
「どうだい? パパが作ったんだ。チーズインのハンバーグだ。」
結奈はそれに答えず、いつも通りに食べていた。それが好きだという感じはない。
「おいしい?」
「う、うん・・・」
結奈は申し訳程度の返事をした。
(まずいのか? 作るのに失敗したか?)
私も自分の作ったハンバーグを食べてみた。
(う~ん?・・・)
まずくはない。ただ理恵の作ったものとは明らかに違う。ただおいしいチーズインハンバーグを作るのが目的ではない。理恵が作ったチーズインハンバーグと同じものを作って、結奈に喜ばせるのが目的なのだ。だからこれは失敗ということになる。それは結奈の様子を見れば一目瞭然だ。
(まだまだ私に知らないことが多いのだ。ハンバーグでさえ理恵のものと似せることができない・・・)
私は少し気落ちした。だがいつまでそうしておくわけにはいかなかった。もっともっといろんなことを知らねば・・・。
私は押し入れの中を探してみた。すると理恵の今までの日記が出て来た。結婚してからずっと毎日書いていたようだ。読んでみると彼女も苦労しながらいろんなことに試行錯誤してきたようだ。特に結奈に関しては・・・。
『女の子が無事に生まれた。良一さんは駆け付けてくれて、赤ちゃんの顔を見て喜んでくれた。予定通りに結奈という名前にしよう・・・・』
『結奈が熱を出した。夜間救急に連れて行ったが、ただの風邪とのこと。でも心配でずっとそばで見ていた。朝には熱も下がった・・・』
『今日は結奈の3歳の誕生日。パパは今日も遅いけど。2人でケーキにろうそくを立ててハッピーバースディを歌った。結奈も何とか歌えるようになった。プレゼントを開けると・・・』
『結奈が小学校に入学した。明日からは毎日自分で通わないと。あまり行きたがらないからどうしようか。心配で途中までついて行こうか・・・』
『結奈の好き嫌いには困った。ピーマンにニンジン、それに・・・もう少し料理を工夫しようか・・・』
気が付くと私はその日記を夢中で数時間も読み続けていた。私の脳裏にはそれが書かれた9年間のことが浮かんでいた。家にいることは多くなかったが、それでも多くの思い出があった。そしてその日記から在りし日の理恵の姿が浮かび上がった。私がいないときも彼女は結奈のため、家庭のために頑張ってくれたのだ。その理恵はもういない・・・そう思うと思わずまた涙がこぼれてきた。
「だめだ。しっかりしないと。過去を振り返ってばかりでは・・・。これからを見ていくんだ。結奈のために・・・」
私は自分に言い聞かすようにそう声を出した。
私はパラパラと日記をめくっていった。その中には料理のレシピまで書いてあるのだ。あのチーズインハンバーグを含めて。私はノートにメモしていった。
(よし! これで結奈に満足させるハンバーグが作れる!)
私は気合を入れてキッチンに向かった。
私はリベンジのつもりでまたチーズインハンバーグを出した。結奈は(また・・・)という顔をしていたが、今度こそはと私は少し自信があった。
「今日は前のと違うんだよ。食べてごらん。」
私がそう言うと結奈はハンバーグを口にした。理恵の日記のレシピ通りに作ったんだ。多分、大喜びして結奈が食べてくれるだろうと・・・。私は彼女の様子をじっと見ていた。
だが結奈は数口食べてどこで手を止めてしまった。その表情は明るいどころか、むしろ暗くなっている気がした。
(作るのを失敗したか!)
私は急いでハンバーグを口に入れてみた。
(うまい。前に作ったのよりうまいが・・・)
しかし結奈は悲しそうな顔をしているのだ。一体、何が悪かったのか・・・。
「これもまずいの?」
私は結奈に恐る恐る聞いてみた。すると結奈は首を横に振った。
「ううん。おいしいよ・・・」
「じゃあ、どうして食べないの?」
「これは・・・」
結奈の声が小さくなって聞こえなくなった。私は「えっ?」と顔を寄せた。結奈はもう少し大きな声で言った。
「これはママのハンバーグ。ママがよく作ってくれたハンバーグ・・・」
ハンバーグはきちんと作れていたのだ。しかしそれがかえってよくなかったのか・・・。結奈にママのことを思い出せて余計に悲しくしてしまったようだ。
「ごめんよ。結奈。ママのことを思い出せちゃったな。でもおいしいだろう。パパがこれからもママの分までおいしい料理を作りからね。」
私がそう言うと結奈はうなずいてハンバーグを食べ始めた。私はその様子を見て少しほっとしていた。
(結奈。今は悲しいだろうが・・・。でも乗り越えられる。パパは信じている。)
結奈は相変わらず自室にこもっていた。私は部屋の外から声をかけた。
「ご飯できたよ。今日は結奈の好きなものだよ。」
するとドアが開いて結奈が出て来た。その顔はいつもと同じく暗かった。それでも私は少し自信があった。今日は結奈の好きなチーズインのハンバーグなのだから。
テーブルの上には自慢のハンバーグなどの料理が並べられている。結奈は小さな声で
「いただきます・・・」
と言って食べていった。
「どうだい? パパが作ったんだ。チーズインのハンバーグだ。」
結奈はそれに答えず、いつも通りに食べていた。それが好きだという感じはない。
「おいしい?」
「う、うん・・・」
結奈は申し訳程度の返事をした。
(まずいのか? 作るのに失敗したか?)
私も自分の作ったハンバーグを食べてみた。
(う~ん?・・・)
まずくはない。ただ理恵の作ったものとは明らかに違う。ただおいしいチーズインハンバーグを作るのが目的ではない。理恵が作ったチーズインハンバーグと同じものを作って、結奈に喜ばせるのが目的なのだ。だからこれは失敗ということになる。それは結奈の様子を見れば一目瞭然だ。
(まだまだ私に知らないことが多いのだ。ハンバーグでさえ理恵のものと似せることができない・・・)
私は少し気落ちした。だがいつまでそうしておくわけにはいかなかった。もっともっといろんなことを知らねば・・・。
私は押し入れの中を探してみた。すると理恵の今までの日記が出て来た。結婚してからずっと毎日書いていたようだ。読んでみると彼女も苦労しながらいろんなことに試行錯誤してきたようだ。特に結奈に関しては・・・。
『女の子が無事に生まれた。良一さんは駆け付けてくれて、赤ちゃんの顔を見て喜んでくれた。予定通りに結奈という名前にしよう・・・・』
『結奈が熱を出した。夜間救急に連れて行ったが、ただの風邪とのこと。でも心配でずっとそばで見ていた。朝には熱も下がった・・・』
『今日は結奈の3歳の誕生日。パパは今日も遅いけど。2人でケーキにろうそくを立ててハッピーバースディを歌った。結奈も何とか歌えるようになった。プレゼントを開けると・・・』
『結奈が小学校に入学した。明日からは毎日自分で通わないと。あまり行きたがらないからどうしようか。心配で途中までついて行こうか・・・』
『結奈の好き嫌いには困った。ピーマンにニンジン、それに・・・もう少し料理を工夫しようか・・・』
気が付くと私はその日記を夢中で数時間も読み続けていた。私の脳裏にはそれが書かれた9年間のことが浮かんでいた。家にいることは多くなかったが、それでも多くの思い出があった。そしてその日記から在りし日の理恵の姿が浮かび上がった。私がいないときも彼女は結奈のため、家庭のために頑張ってくれたのだ。その理恵はもういない・・・そう思うと思わずまた涙がこぼれてきた。
「だめだ。しっかりしないと。過去を振り返ってばかりでは・・・。これからを見ていくんだ。結奈のために・・・」
私は自分に言い聞かすようにそう声を出した。
私はパラパラと日記をめくっていった。その中には料理のレシピまで書いてあるのだ。あのチーズインハンバーグを含めて。私はノートにメモしていった。
(よし! これで結奈に満足させるハンバーグが作れる!)
私は気合を入れてキッチンに向かった。
私はリベンジのつもりでまたチーズインハンバーグを出した。結奈は(また・・・)という顔をしていたが、今度こそはと私は少し自信があった。
「今日は前のと違うんだよ。食べてごらん。」
私がそう言うと結奈はハンバーグを口にした。理恵の日記のレシピ通りに作ったんだ。多分、大喜びして結奈が食べてくれるだろうと・・・。私は彼女の様子をじっと見ていた。
だが結奈は数口食べてどこで手を止めてしまった。その表情は明るいどころか、むしろ暗くなっている気がした。
(作るのを失敗したか!)
私は急いでハンバーグを口に入れてみた。
(うまい。前に作ったのよりうまいが・・・)
しかし結奈は悲しそうな顔をしているのだ。一体、何が悪かったのか・・・。
「これもまずいの?」
私は結奈に恐る恐る聞いてみた。すると結奈は首を横に振った。
「ううん。おいしいよ・・・」
「じゃあ、どうして食べないの?」
「これは・・・」
結奈の声が小さくなって聞こえなくなった。私は「えっ?」と顔を寄せた。結奈はもう少し大きな声で言った。
「これはママのハンバーグ。ママがよく作ってくれたハンバーグ・・・」
ハンバーグはきちんと作れていたのだ。しかしそれがかえってよくなかったのか・・・。結奈にママのことを思い出せて余計に悲しくしてしまったようだ。
「ごめんよ。結奈。ママのことを思い出せちゃったな。でもおいしいだろう。パパがこれからもママの分までおいしい料理を作りからね。」
私がそう言うと結奈はうなずいてハンバーグを食べ始めた。私はその様子を見て少しほっとしていた。
(結奈。今は悲しいだろうが・・・。でも乗り越えられる。パパは信じている。)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる