10 / 40
第3章 新たな生活
失敗する料理
しおりを挟む
次の日、私は倉田班長に異動願を出した。
「勝手を言いますが、よろしくお願いします。」
「わかっている。班長としては惜しいが、今のお前のことを思うとそれがいいのかもしれない。上は俺が何とかするから安心しろ。」
倉田班長はそれを受理してくれた。それで私はすぐに総務課に異動することになった。刑事をやめたのだ。
そこは定時で帰れることが多かった。残業があっても遅くなることはない。それにそこの夏山課長は私の事情をよくわかっていてくれた。それは倉田班長が話を通してくれていたからだ。
だがそこからが大変だった。刑事としての勤務が長かったから慣れない仕事に四苦八苦した。単純な作業さえまともにできないのだ。30半ば過ぎの新人・・・総務課ではかなりのお荷物になったとは思うのだが、周りの人はやさしかった。
そしてもう一つ、家のことだ。私が異動して定時に帰って来られるのを見て、また店のこともあってその夜に母は帰ってしまった。
(今日から家事は全部こなすぞ!)
と意気込んだまではよかったが、最近、家のことを何もしていないことに気付いた。それでも朝早く起きて朝食作りから始めた。
(卵を焼いて野菜と一緒に出して、パンを焼いて牛乳をコップに入れる。)
こんなことぐらい簡単にできそうだが、忙しい朝にしていくのはなかなかうまくいかなかった。結奈を起こして着替えを出してその間に準備をするのである。
「おはよう・・・」
結奈が着替え終わって降りてきた。
「ああ、おはよう。今日からパパがすべてやるから。でも慣れないから結奈も手伝ってくれよ。」
私の言葉に結奈は軽く頭を下げただけだった。そして、
「焦げ臭い・・・」
とつぶやいた。確かに焦げ臭い。横を見るとフライパンの中で卵焼きが焦げていた。ちょっと目を離しただけだが火が強かったのか・・・。
「こりゃいけない!」
私は慌てて火を消した。そして焦げてしまった卵焼きを皿に載せ替えた。パンはと言うと、これもこんがりと焦げていた。トースターの時間が長すぎたらしい。私は慌てて焦げたパンを引っ張り出した。
「ちょっと待ってて。もう一度焼くから。」
「いらない。」
結奈はそう言ってランドセルを背負った。しかし何も食べさせないで学校にやるわけにはいかない。
「ハムや野菜もあるし・・・せめて牛乳だけでも・・・」
私はコップに牛乳を注ごうとしたが、あまりに慌てたので床にこぼしてしまった。結奈はその様子を見てため息をついて、そのまま玄関に向かった。私はこぼした牛乳をタオルで拭きながら言った。
「待って、待って!」
だが結奈は玄関を開けて行ってしまった。家事もろくにできない父にあきれたのかもしれない。私は私でこれほどまで不器用なのに自分に愛想をつかした。でも結奈のために生きていくと決めたのだ。これぐらいでへこたれるわけにいかない。
「まだ初日だ。これから長いんだ。明日からはしっかりやるぞ。」
私は頬を手で叩いて気合を入れた。それから私は焦げた朝食を取り、そのまま署に向かった。
その日はスーパーに寄って食材を買って来た。今は手軽に料理が作れるように便利なものがある。お惣菜を買ってそれで済まそうかとも考えたが、ずっとそうしているわけにはいかない。少しずつでも料理ができるようにならなければ・・・。
米の焚き方は何とか、わかった。炊飯器にセットして後はおかずだ。買って来た食材を切って炒めるだけだ。だが包丁はまだ使い慣れない。
「痛い!」
と何度も指を切った。絆創膏を巻いて再びチャレンジする。だがまた焦げてくる。火が強すぎるのか・・・。手間取っているうちに時間だけは容赦なく過ぎていく。結奈はリビングに降りてきて、幾度かキッチンの方を見た。お腹はすいているがいつまでもできない夕食が気になっているようだ。
「結奈。もうすぐだからね。」
料理を皿に移してテーブルに置いた。見た目は悲惨な状態だが、ちゃんと食べられるはずだ。
「パパが作ったんだ。ちょっと味見を。」
私はその料理を少しつまんで口に入れた。すると今まで食べたことのないような異様な味がした。とても食べられたものではない。結奈も私を真似て少し口に入れたが渋い顔をしていた。
「パパ。まずい・・・」
確かにまずかった。どこでどう間違えたのか・・・。
「こりゃあ、失敗だ。ご飯があるからそれでレトルトのもので・・・」
私はキッチンに行って炊飯器を開けた。
「あっ!」
そこには水につかった米がそのままになっていた。スイッチを入れ忘れたのだ。私の驚き方でその失敗が結奈にはわかったらしく、「はあ。」とため息をついた。
「今日はピザでも取ろうか。すぐに来るから。」
私は電話でピザを注文した。それで何とか遅い夕食を済ますことができた。
(今日は失敗続きだ。明日からは・・・)
「勝手を言いますが、よろしくお願いします。」
「わかっている。班長としては惜しいが、今のお前のことを思うとそれがいいのかもしれない。上は俺が何とかするから安心しろ。」
倉田班長はそれを受理してくれた。それで私はすぐに総務課に異動することになった。刑事をやめたのだ。
そこは定時で帰れることが多かった。残業があっても遅くなることはない。それにそこの夏山課長は私の事情をよくわかっていてくれた。それは倉田班長が話を通してくれていたからだ。
だがそこからが大変だった。刑事としての勤務が長かったから慣れない仕事に四苦八苦した。単純な作業さえまともにできないのだ。30半ば過ぎの新人・・・総務課ではかなりのお荷物になったとは思うのだが、周りの人はやさしかった。
そしてもう一つ、家のことだ。私が異動して定時に帰って来られるのを見て、また店のこともあってその夜に母は帰ってしまった。
(今日から家事は全部こなすぞ!)
と意気込んだまではよかったが、最近、家のことを何もしていないことに気付いた。それでも朝早く起きて朝食作りから始めた。
(卵を焼いて野菜と一緒に出して、パンを焼いて牛乳をコップに入れる。)
こんなことぐらい簡単にできそうだが、忙しい朝にしていくのはなかなかうまくいかなかった。結奈を起こして着替えを出してその間に準備をするのである。
「おはよう・・・」
結奈が着替え終わって降りてきた。
「ああ、おはよう。今日からパパがすべてやるから。でも慣れないから結奈も手伝ってくれよ。」
私の言葉に結奈は軽く頭を下げただけだった。そして、
「焦げ臭い・・・」
とつぶやいた。確かに焦げ臭い。横を見るとフライパンの中で卵焼きが焦げていた。ちょっと目を離しただけだが火が強かったのか・・・。
「こりゃいけない!」
私は慌てて火を消した。そして焦げてしまった卵焼きを皿に載せ替えた。パンはと言うと、これもこんがりと焦げていた。トースターの時間が長すぎたらしい。私は慌てて焦げたパンを引っ張り出した。
「ちょっと待ってて。もう一度焼くから。」
「いらない。」
結奈はそう言ってランドセルを背負った。しかし何も食べさせないで学校にやるわけにはいかない。
「ハムや野菜もあるし・・・せめて牛乳だけでも・・・」
私はコップに牛乳を注ごうとしたが、あまりに慌てたので床にこぼしてしまった。結奈はその様子を見てため息をついて、そのまま玄関に向かった。私はこぼした牛乳をタオルで拭きながら言った。
「待って、待って!」
だが結奈は玄関を開けて行ってしまった。家事もろくにできない父にあきれたのかもしれない。私は私でこれほどまで不器用なのに自分に愛想をつかした。でも結奈のために生きていくと決めたのだ。これぐらいでへこたれるわけにいかない。
「まだ初日だ。これから長いんだ。明日からはしっかりやるぞ。」
私は頬を手で叩いて気合を入れた。それから私は焦げた朝食を取り、そのまま署に向かった。
その日はスーパーに寄って食材を買って来た。今は手軽に料理が作れるように便利なものがある。お惣菜を買ってそれで済まそうかとも考えたが、ずっとそうしているわけにはいかない。少しずつでも料理ができるようにならなければ・・・。
米の焚き方は何とか、わかった。炊飯器にセットして後はおかずだ。買って来た食材を切って炒めるだけだ。だが包丁はまだ使い慣れない。
「痛い!」
と何度も指を切った。絆創膏を巻いて再びチャレンジする。だがまた焦げてくる。火が強すぎるのか・・・。手間取っているうちに時間だけは容赦なく過ぎていく。結奈はリビングに降りてきて、幾度かキッチンの方を見た。お腹はすいているがいつまでもできない夕食が気になっているようだ。
「結奈。もうすぐだからね。」
料理を皿に移してテーブルに置いた。見た目は悲惨な状態だが、ちゃんと食べられるはずだ。
「パパが作ったんだ。ちょっと味見を。」
私はその料理を少しつまんで口に入れた。すると今まで食べたことのないような異様な味がした。とても食べられたものではない。結奈も私を真似て少し口に入れたが渋い顔をしていた。
「パパ。まずい・・・」
確かにまずかった。どこでどう間違えたのか・・・。
「こりゃあ、失敗だ。ご飯があるからそれでレトルトのもので・・・」
私はキッチンに行って炊飯器を開けた。
「あっ!」
そこには水につかった米がそのままになっていた。スイッチを入れ忘れたのだ。私の驚き方でその失敗が結奈にはわかったらしく、「はあ。」とため息をついた。
「今日はピザでも取ろうか。すぐに来るから。」
私は電話でピザを注文した。それで何とか遅い夕食を済ますことができた。
(今日は失敗続きだ。明日からは・・・)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる