結奈とママの、そしてパパの日記

広之新

文字の大きさ
上 下
9 / 40
第2章 事件

学校での結奈

しおりを挟む
 結奈は学校でも元気がなかったようだ。それを心配して彼女の担任の山中先生に密かに呼び出された。仕事を早引きして小学校に行くと、静まり返った校舎にただ職員室の電気だけが寂し気に点いていた。校長先生と山中先生が迎えてくれて私は校長室に通された。校長先生は人のいい温和な老人という風だった。山中先生はまだ大学を出たばかりの若い女性だが、細い眼鏡をかけてきりりとしていた。

「色々大変だったでしょう。」
「ええ、まあ。私の母が来てくれたので助かってはいますが、このままではいけないと・・・」

私は困っている日常の生活について話すと、校長先生はうなずきながら聞いてくれていた。だがなかなか本題に進まないので山中先生が話しに割り込んできた。

「結奈さんのことですが・・・」
「あっ、すいません。つまらないことを長々と話してしまって・・・」

確かに今日は私の愚痴を言いに来たのではなかった。結奈のことで来たのだ。

「結奈さんは元気がないようです。以前なら周りを明るくするくらい元気だったのに。家でもそうなのですか?」
「はい。・・・」

私は家での結奈の様子を話した。寂し気にソファに座っているか、自分の部屋に閉じこもっている。以前のように私とも話そうとしないことなど・・・。山中先生はメモを取りながら聞いていた。しかしアドバイス的なことは何も言ってくれなかった。私は山中先生が何か結奈が元気が出るようなアドバイスをしてくれるのかと期待していたが、彼女はただ聞いているだけだった。だから私の方から尋ねてみた。

「困ってしまいまして・・・。どうしたらいいのでしょうか?」
「家族の、お父様の温かい・・・愛情をこめて・・・」

山中先生は話し出したが、それは教科書的なアドバイスだった。それではよくわからなかった。

「具体的にどうすればいいのでしょうか?」
「それは・・・」

山中先生は返事に困っていた。多分、彼女の人生経験ではそこまでなのだろう。横から校長先生がにこやかに言った。

「お子さんをよく見てあげることです。どういうことを思っているのかを知るのは重要なことです。まずそこから始められては。」

確かにそうだ。今まで妻に任せっきりで結奈のことを多く知っているわけでもない。妻が死んでからも自分のことで精いっぱいで、結奈のそばにずっといたことはなかった。

「やってみます。ありがとうございました。」
「学校側もできるだけサポートします。だから焦らずに。」
「結奈さんのことはよく注意して見てみます。もし必要なことがありましたらメールでお知らせします。」

校長先生と山中先生はそう言ってくれた。


 家に帰ると結奈はやはり寂しそうにソファに座っていた。

(これからは結奈と向かい合って生きよう。それが今まで何もしてやれなかった償いだ。)

私はそう思った。母も気にしてこの家に来てくれているがいつまでも甘えてはいられない。店をしている母もいつまでも閉めたままにしているわけにもいかない。私はその日、決心した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

小説教室・ごはん学校「SМ小説です」

浅野浩二
現代文学
ある小説学校でのSМ小説です

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...