闇の者

広之新

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特別章 西暦3009年 地球

決定

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 ショーン副代表は急いで病院に駆け付けた。彼は自室で残務処理をしているときに、リカード代表が刺されてすぐに病院に搬送されたことを知らされた。
(死ぬな! マコウ本星には君の帰りを待つ息子夫婦と生まれてくる孫がいるじゃないか。生きて帰るんだ!)ショーン副代表は心の中でそう訴えかけていた。しかし病室に着いた彼の前には、顔に布をかけられたリカード代表の亡骸があった。
「ど、どうして・・・」ショーン副代表はベッドのそばで崩れるように膝をついた。
「残念です。地球人の活動家に刺されました。パーティーに紛れていたようです。地球指導部からバイオノイドを護衛として出していましたがとっさのことで間に合わず、こんなことになってしまいました。」傍らにいるドグマ主任は沈痛な面持ちで言った。
「リカードは地球の未来に賭けたんだ。地球人の可能性を信じて。それをこんなに・・・」ショーン副代表は涙をこぼしていた。
「ええ。けしからぬ奴です。その男はすぐにバイオノイドが斬り倒しました。しかし所詮、地球人というのはそんな奴らです。」ドグマ主任は言った。
「残された私たちはどうすべきか・・・」
「ショーン副代表。リカード代表がこんな形で殺されて、果たして地球人が一人前だと認めていいのでしょうか? こんな野蛮な奴らに自治を与えていいものでしょうか?」ドグマ主任が聞いた。
「いや、確かにそうだ。我々がやるのは・・・」ショーン副代表は立ち上がった。その目には強い決意と怒りが混じっていた。
「リカード。君の無念はきっと晴らす。私はこのことを一生忘れない。」ショーン副代表はそう言うと病室を出て行った。その背後でドグマ主任の口元がかすかに緩んでいた。

 次の日、調査団で緊急会議が行われた。。
「地球に自治は必要ない! 保護惑星として扱うべきだ。」ショーン副代表は発言した。そこには怒りの色が見えていた。委員の多くはそれに賛成していた。リカード代表を殺した者がいる地球を決して許せなかったからだ。だが中には異を唱える者も少数ながらいた。
「しかしリカード代表は地球人の可能性を信じていた。その意志を尊重するべきでは・・・」
「こうなった以上、亡くなったリカード代表も考えを変えていると思う。こんなことは決して許されるべきではない!」ショーン副代表は強硬だった。そして会議は終わった。地球を保護惑星とすべきとして・・・
 地球政府の関係者がショーン副代表に何とか接触しようと試みたが、彼は一切会わずに断った。もうどうにもならないことに地球政府の参事や委員たちは思い知った。

 やがて調査団が引き上げる日が来た。シャトルに乗り込むショーン副代表は辺りを見渡した。地球政府関係者が見送りに来ていたが、彼はそれを見るのも嫌だった。
「地球人を変える。いや変えねばならん。保護惑星として我がマコウ人の手によって。」ショーン副代表は言った。
「ええ、確かに。私はここでその準備をいたします。」ドグマ主任はそう言った。彼は保護惑星化するにわたり、様々な提案をしていた。まるで前から周到な準備をしていたかのように・・・。そして地球人のデモは行われていたが、それを以前に増して徹底的に弾圧していた。
「私はいつの日か、またここに来る。その時は・・・」ショーン副代表はそう言い残してシャトルに乗った。宇宙港に冷たい風が吹き渡っていた。
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