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第5章 虜になるもの
甘い匂い
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美亜のモデルの仕事は好調だった。もう飛鳥の付き添いもなく一人で現場に行っていた。以前のようにおどおどした不安げな様子はなく、落ち着き払った雰囲気はカメラマンに好評だった。
「素晴らしいよ。一皮むけたというか、殻が破れたというか、見違えてきた。このまま大化けするかもしれない。」彼女と仕事をしてきた人たちはみなそう言った。美亜はその言葉ににっこりとうなずいた。
(私ってすごいんだわ。あのオーデコロンのおかげね。)美亜は心の中で飛び上がるほど喜んでいた。
すると大きな仕事が舞い込んできた。ある大手のメーカーのイメージガールにという話があり、その商品のイメージ撮影ということになった。その日は偶然、飛鳥も現場に呼ばれていた。
「美亜ちゃん。最近、みんなに褒められているらしいじゃないの。よかったね。」控室で飛鳥が美亜に声をかけた。
「ありがとう。これもお姉さんのおかげよ。」美亜は嬉しそうだった。
「いえ、美亜ちゃんが頑張ったからじゃないの。」
「ううん。実は秘密があるの。お姉さんだからこっそり教えてあげる。」美亜は自分のカバンからオーデコロンの小瓶を出した。
「これは?」
「これを両手に少し振りかけて匂いを嗅げば落ち着くの。なんだか自信も出てくるのよ。」美亜が飛鳥に小瓶を渡した。
「これが?」飛鳥はその小瓶を匂ってみた。
「ん?」オーデコロンであるはずだが何の匂いも感じられなかった。
「そう、匂わないの。でもこうやって皮膚に振りかけると匂いが出てくるの。」美亜はオーデコロンを手首に振りかけた。すると何か甘い匂いが広がった。
(この匂い・・・どこかで・・・)飛鳥は思い出そうとしていた。美亜は手首についた匂いを吸って、
「はあ、落ち着く。」と声を出した。飛鳥はその姿に異様な感じを受けた。
「ちょっと! それ大丈夫なの? 危ない物じゃないの?」
「大丈夫よ。駅前の薬局の店員さんが勧めてくれたの。限定品だからその奥の路地の窓口でしか買えないのよ。今度、お姉さんにも教えてあげる。」美亜が声を潜めて言った。
「でも、美亜ちゃん・・・」飛鳥が言いかけた時、スタジオから美亜を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい。」美亜は立ち上がった。
「じゃあ、いってくるね。」美亜は飛鳥にそう言ってスタジオに行ってしまった。
後に残された飛鳥は何か嫌な予感がした。
(あのオーデコロンは一体・・・)
その時、いきなりスタジオから、
「きゃあ!」「うわあ!」と悲鳴が上がった。スタジオで何かが起こっている・・・。
「なに!」飛鳥はすぐにスタジオに走った。
「えっ!」そこで起こっている光景を見て飛鳥は驚いて立ちつくした。美亜が恐ろしい形相をして暴れていたのだった。それはもう正気を失い、目を剥いて、訳の分からい言葉を発していた。その手には角棒が握られ、そこらの物を叩き壊していた。その姿に誰も彼女に近寄れなかった。
「何が起こったの?」飛鳥が隅で震えているアシスタントに聞いた。
「急に暴れ出して・・・。訳が分かりません・・・」アシスタントは腰が抜けて動けないようだった。そこに美亜が角棒を振り回して近づいてきた。
「しっかりして!」飛鳥は美亜に飛びついた。美亜は意識が飛んでいるもののその力はすさまじく、飛鳥でも止められそうになかった。このままではけが人が出る・・・。
「美亜ちゃん。ごめん!」飛鳥は美亜に当て身をした。
「うっ!」美亜は気絶して倒れかけた。飛鳥はその体をしっかりと抱きとめた。彼女は美亜からあの甘い匂いをかぎ取っていた。
(この匂い。間違いない。)飛鳥は確信した。
「素晴らしいよ。一皮むけたというか、殻が破れたというか、見違えてきた。このまま大化けするかもしれない。」彼女と仕事をしてきた人たちはみなそう言った。美亜はその言葉ににっこりとうなずいた。
(私ってすごいんだわ。あのオーデコロンのおかげね。)美亜は心の中で飛び上がるほど喜んでいた。
すると大きな仕事が舞い込んできた。ある大手のメーカーのイメージガールにという話があり、その商品のイメージ撮影ということになった。その日は偶然、飛鳥も現場に呼ばれていた。
「美亜ちゃん。最近、みんなに褒められているらしいじゃないの。よかったね。」控室で飛鳥が美亜に声をかけた。
「ありがとう。これもお姉さんのおかげよ。」美亜は嬉しそうだった。
「いえ、美亜ちゃんが頑張ったからじゃないの。」
「ううん。実は秘密があるの。お姉さんだからこっそり教えてあげる。」美亜は自分のカバンからオーデコロンの小瓶を出した。
「これは?」
「これを両手に少し振りかけて匂いを嗅げば落ち着くの。なんだか自信も出てくるのよ。」美亜が飛鳥に小瓶を渡した。
「これが?」飛鳥はその小瓶を匂ってみた。
「ん?」オーデコロンであるはずだが何の匂いも感じられなかった。
「そう、匂わないの。でもこうやって皮膚に振りかけると匂いが出てくるの。」美亜はオーデコロンを手首に振りかけた。すると何か甘い匂いが広がった。
(この匂い・・・どこかで・・・)飛鳥は思い出そうとしていた。美亜は手首についた匂いを吸って、
「はあ、落ち着く。」と声を出した。飛鳥はその姿に異様な感じを受けた。
「ちょっと! それ大丈夫なの? 危ない物じゃないの?」
「大丈夫よ。駅前の薬局の店員さんが勧めてくれたの。限定品だからその奥の路地の窓口でしか買えないのよ。今度、お姉さんにも教えてあげる。」美亜が声を潜めて言った。
「でも、美亜ちゃん・・・」飛鳥が言いかけた時、スタジオから美亜を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい。」美亜は立ち上がった。
「じゃあ、いってくるね。」美亜は飛鳥にそう言ってスタジオに行ってしまった。
後に残された飛鳥は何か嫌な予感がした。
(あのオーデコロンは一体・・・)
その時、いきなりスタジオから、
「きゃあ!」「うわあ!」と悲鳴が上がった。スタジオで何かが起こっている・・・。
「なに!」飛鳥はすぐにスタジオに走った。
「えっ!」そこで起こっている光景を見て飛鳥は驚いて立ちつくした。美亜が恐ろしい形相をして暴れていたのだった。それはもう正気を失い、目を剥いて、訳の分からい言葉を発していた。その手には角棒が握られ、そこらの物を叩き壊していた。その姿に誰も彼女に近寄れなかった。
「何が起こったの?」飛鳥が隅で震えているアシスタントに聞いた。
「急に暴れ出して・・・。訳が分かりません・・・」アシスタントは腰が抜けて動けないようだった。そこに美亜が角棒を振り回して近づいてきた。
「しっかりして!」飛鳥は美亜に飛びついた。美亜は意識が飛んでいるもののその力はすさまじく、飛鳥でも止められそうになかった。このままではけが人が出る・・・。
「美亜ちゃん。ごめん!」飛鳥は美亜に当て身をした。
「うっ!」美亜は気絶して倒れかけた。飛鳥はその体をしっかりと抱きとめた。彼女は美亜からあの甘い匂いをかぎ取っていた。
(この匂い。間違いない。)飛鳥は確信した。
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