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第4章 冬
第11話 最期の死闘
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紅之介は大きな音に目を覚ました。痛みをこらえて立ち上がって見てみると、一番門はすでに開かれ、敵兵がなだれ込んでいた。もう砦が落ちるのは時間の問題だった。
「姫様!」
紅之介はすぐに櫓に向かった。傷の痛みなどもう感じられなかった。その頭の中は葵姫のことでいっぱいだった。右往左往する味方の兵たちをかき分けていくと、ようやく櫓に通じる場所に出た。ここを進めば葵姫のいる櫓に・・・。
だがその先にあの男が待ち構えていたのだ。それは武藤三郎だった。
三郎はあれからすぐに砦に潜入していた。西藤三太夫を寝返させることには成功したが、これだけでは功はうすい。多分、兵助が自分の手柄にしてしまうだろう。襲撃してきた地侍たちを倒しただけでは兵助に褒められるだけである。葵姫の襲撃を失敗して万代宗長から放擲された身には、大きな手柄を立てて宗長に認めてもらうしかなかった。
「葵姫の首を取って宗長様に献上する!」
そう思って敵に真っただ中にいるのだ。幸いにも一番門から攻め上がってくる混乱で誰も三郎のことを咎めない。このまま櫓に紛れて入り込み、隙を見て討ち取るだけだ・・・そう思っている時、思わぬ者を見てしまった。それは紅之介だった。月明かりにその姿がはっきり見えた。
「あ奴!」
このまま無視して櫓に向かえばよかったのかもしれない。しかし2度までも煮え湯を飲まされた敵を前にしてそれはできなかった。忍びとしてはあってはならないことだが、誇り高い三郎にはそれが我慢できなかったのだ。彼は進んでくる紅之介を待ち受けた。
紅之介と三郎はお互いに相手を認めた。月明かりの暗さでも相手の気配でそうわかるのだ。そしてここで雌雄を決せねばならないことを感じていた。2人はにらみ合ったまま刀の柄に手をかけ、少しずつ間合いを詰めていった。
この勝負、三郎に分があった。それは紅之介が深手を負ってまだ回復していないからである。それは紅之介にもわかっていた。だがここで逃げるわけにはいかなかった。ここを抜けて早く葵姫の元に急がねばならない・・・。
「行くぞ!」
三郎が刀を抜いて斬りかかってきた。それはいつもながらの鮮やかな太刀筋だった。紅之介も刀を抜いて三郎の刀を受けた。そこで三郎は気付いた。相手の紅之介はいつもほどの力はないと・・・。これなら儂の勝ちだと・・・。
三郎は緩む頬を引き締めながら、紅之介に打ちかかっていった。もはや倒すのは時間の問題だという風に。紅之介はなすすべなく少しずつ下がっていった。
紅之介も必死だった。傷ついた体ではどうしても剣が鈍る。刀先がどうしても力なく下を向いてしまうのだ。そのため打ち込む力が弱く、いつもの鋭さがない。それに早く葵姫の元に駆けつけたいという焦りも剣を狂わせる一因になっていた。
三郎は紅之介を追い詰めていた。少しずつでも三郎の刀は紅之介を傷つけていた。しかも激しく息を切らせた紅之介にもはや体力は残っていないように見えた。
(もう一息だ!)
三郎はさらに踏み込んでいった。そこに紅之介は腰を落として刀をぐっと引いた。それは奥義「紅光斬」の構えだった。後がない紅之介はこの一刀に掛けたのだ。
(その技は命とりだ! 今度こそ貴様の死だ!)
三郎は勝ちを確信した。前回はとんだ邪魔が入ったが、確実に技は破っていた。今度はきっと紅之介を斬れるはず・・・。三郎は紅之介に懐に飛び込んでいった。
「シュパッ!」
刀を抜く音が聞こえた。紅之介の刀が一瞬、きらめいて放たれたのだ。だが三郎はすでに上に飛んでいる。紅之介の剣はまたしても空を切るように思われた。そうなれば後は三郎の刀が上から紅之介を斬り裂くのみ・・・。
だが紅之介の刀は地を斬って上空に向けられた。それは上を飛ぶ三郎を空で斬った。
「ぐううう!」
三郎は悲鳴にも似た声を上げて地面に落下していった。紅之介が奥義「紅光斬」の刃の向きをとっさに水平から垂直に変えたのだ。いや傷のために刀先が下がり、偶然そうなったのかもしれない。ともかく三郎は体を縦に斬られていた。
すべての力を一瞬で放った紅之介は刀を下げ、力なく片膝をついた。相変わらず息は荒かった。倒れた三郎は流れ落ちる血に構わず、必死の執念で半身を起こして顔を上げた。その目は紅之介をとらえている。
「ふふふ。儂の負けだ。しかしこの状況ではお前たちに先はない。せいぜいあがいてみるのだな・・・」
それだけ言って三郎はガクッと顔を落とし、再び倒れ込んだ。その亡骸から血が流れてくる・・・。
「早く姫様の元に向かわねば・・・」
紅之介は刀で身を支えて何とか立ち上がった。敵はもう砦の奥まで攻め込んでいる。何とか押し返そうとしている味方の兵もいるが、あまりの惨状に逃げ出す兵も多い。ともかく味方と敵が入り乱れて混乱した状況が続いている。
「こんなところで愚図々々しておられぬ。行くぞ!」
紅之介は自らを奮い立たせ、息を大きく乱しながらも無我夢中で突き進んだ。
「姫様!姫様!」
紅之介は我知らず、叫んでいた。もう周りは敵だらけだった。向かって来る者、行く手を塞ぐ者、すべて右手の刀で斬り捨てていった。その鬼気迫る姿に敵の兵は恐れをなして道を開けていた。
「姫様!」
紅之介はすぐに櫓に向かった。傷の痛みなどもう感じられなかった。その頭の中は葵姫のことでいっぱいだった。右往左往する味方の兵たちをかき分けていくと、ようやく櫓に通じる場所に出た。ここを進めば葵姫のいる櫓に・・・。
だがその先にあの男が待ち構えていたのだ。それは武藤三郎だった。
三郎はあれからすぐに砦に潜入していた。西藤三太夫を寝返させることには成功したが、これだけでは功はうすい。多分、兵助が自分の手柄にしてしまうだろう。襲撃してきた地侍たちを倒しただけでは兵助に褒められるだけである。葵姫の襲撃を失敗して万代宗長から放擲された身には、大きな手柄を立てて宗長に認めてもらうしかなかった。
「葵姫の首を取って宗長様に献上する!」
そう思って敵に真っただ中にいるのだ。幸いにも一番門から攻め上がってくる混乱で誰も三郎のことを咎めない。このまま櫓に紛れて入り込み、隙を見て討ち取るだけだ・・・そう思っている時、思わぬ者を見てしまった。それは紅之介だった。月明かりにその姿がはっきり見えた。
「あ奴!」
このまま無視して櫓に向かえばよかったのかもしれない。しかし2度までも煮え湯を飲まされた敵を前にしてそれはできなかった。忍びとしてはあってはならないことだが、誇り高い三郎にはそれが我慢できなかったのだ。彼は進んでくる紅之介を待ち受けた。
紅之介と三郎はお互いに相手を認めた。月明かりの暗さでも相手の気配でそうわかるのだ。そしてここで雌雄を決せねばならないことを感じていた。2人はにらみ合ったまま刀の柄に手をかけ、少しずつ間合いを詰めていった。
この勝負、三郎に分があった。それは紅之介が深手を負ってまだ回復していないからである。それは紅之介にもわかっていた。だがここで逃げるわけにはいかなかった。ここを抜けて早く葵姫の元に急がねばならない・・・。
「行くぞ!」
三郎が刀を抜いて斬りかかってきた。それはいつもながらの鮮やかな太刀筋だった。紅之介も刀を抜いて三郎の刀を受けた。そこで三郎は気付いた。相手の紅之介はいつもほどの力はないと・・・。これなら儂の勝ちだと・・・。
三郎は緩む頬を引き締めながら、紅之介に打ちかかっていった。もはや倒すのは時間の問題だという風に。紅之介はなすすべなく少しずつ下がっていった。
紅之介も必死だった。傷ついた体ではどうしても剣が鈍る。刀先がどうしても力なく下を向いてしまうのだ。そのため打ち込む力が弱く、いつもの鋭さがない。それに早く葵姫の元に駆けつけたいという焦りも剣を狂わせる一因になっていた。
三郎は紅之介を追い詰めていた。少しずつでも三郎の刀は紅之介を傷つけていた。しかも激しく息を切らせた紅之介にもはや体力は残っていないように見えた。
(もう一息だ!)
三郎はさらに踏み込んでいった。そこに紅之介は腰を落として刀をぐっと引いた。それは奥義「紅光斬」の構えだった。後がない紅之介はこの一刀に掛けたのだ。
(その技は命とりだ! 今度こそ貴様の死だ!)
三郎は勝ちを確信した。前回はとんだ邪魔が入ったが、確実に技は破っていた。今度はきっと紅之介を斬れるはず・・・。三郎は紅之介に懐に飛び込んでいった。
「シュパッ!」
刀を抜く音が聞こえた。紅之介の刀が一瞬、きらめいて放たれたのだ。だが三郎はすでに上に飛んでいる。紅之介の剣はまたしても空を切るように思われた。そうなれば後は三郎の刀が上から紅之介を斬り裂くのみ・・・。
だが紅之介の刀は地を斬って上空に向けられた。それは上を飛ぶ三郎を空で斬った。
「ぐううう!」
三郎は悲鳴にも似た声を上げて地面に落下していった。紅之介が奥義「紅光斬」の刃の向きをとっさに水平から垂直に変えたのだ。いや傷のために刀先が下がり、偶然そうなったのかもしれない。ともかく三郎は体を縦に斬られていた。
すべての力を一瞬で放った紅之介は刀を下げ、力なく片膝をついた。相変わらず息は荒かった。倒れた三郎は流れ落ちる血に構わず、必死の執念で半身を起こして顔を上げた。その目は紅之介をとらえている。
「ふふふ。儂の負けだ。しかしこの状況ではお前たちに先はない。せいぜいあがいてみるのだな・・・」
それだけ言って三郎はガクッと顔を落とし、再び倒れ込んだ。その亡骸から血が流れてくる・・・。
「早く姫様の元に向かわねば・・・」
紅之介は刀で身を支えて何とか立ち上がった。敵はもう砦の奥まで攻め込んでいる。何とか押し返そうとしている味方の兵もいるが、あまりの惨状に逃げ出す兵も多い。ともかく味方と敵が入り乱れて混乱した状況が続いている。
「こんなところで愚図々々しておられぬ。行くぞ!」
紅之介は自らを奮い立たせ、息を大きく乱しながらも無我夢中で突き進んだ。
「姫様!姫様!」
紅之介は我知らず、叫んでいた。もう周りは敵だらけだった。向かって来る者、行く手を塞ぐ者、すべて右手の刀で斬り捨てていった。その鬼気迫る姿に敵の兵は恐れをなして道を開けていた。
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