46 / 56
第4章 冬
第5話 紅之介はどこに?
しおりを挟む
二番門の辺りがようやく静かになったのは櫓からでもわかった。そこから見ると敵は後退し、門は閉じられている。戦いは終わったようだ。
(よかった・・・)
ようやく敵を追い払えたと葵姫は安堵した。だが心の奥では紅之介を心配していた。
そこに二番門に救援に行った侍大将から報告の者が来ていた。
「敵を追い払って二番門を閉じることができました。」
「それは上々。」
百雲斎をはじめその場にいる者たちは安堵して「ふうっ」と息を吐いて肩の力を抜いた。さらに報告は続いていた。
「今は救援した兵で二番門を固めております。二番門の守備隊はすべて討ち死にしましたので・・・」
それを聞いて葵姫は驚いて目を見開いた。
(えっ! では紅之介は!)
彼女は茫然として、その後の報告は全く耳に入らなかった。
(いや、紅之介が死ぬわけはない。ずっと私にそばにいると誓ったはずだ・・・)
だがそう思い込もうとしようとするほど、彼女の胸の中には悪い予感が広がっていった。心配のあまり、みるみる顔を青ざめていった。傍にいる百雲斎は、葵姫の顔色が悪くなったのを心配して声をかけた。
「いかがいたしました? 敵を押し返しましたぞ。しっかりなさいませ。」
「ああ、わかった。少し気分が悪くなった。後は任せる・・・」
葵姫は立ち上がった。もう居ても立っても居られない気持ちだった。
「では少しお休みに。」
百雲斎はそう言った。すると葵姫はふらふらと立ち上がった。だが階上の部屋に向かうのではなく、階段を下りてそのまま飛び出して行ってしまった。彼女は我知らず、紅之介を探しに行ったのだ。
百雲斎は葵姫が外に出て行くのに気が付いた。
「姫様! お待ちください。戦いは終わったばかりでまだ危のうござる。」
だが百雲斎の言葉も葵姫には届かなかった。葵姫はただ
(紅之介! 生きていてくれ!)
と祈るような気持で二番門まで走っていた。
やがて葵姫は二番門に着いた。そこは新たに二番門の警備についた兵たちが固めていた。血なまぐさいにおいが充満し、どす黒い血の色で染められていた。敵も味方も含めて多くの亡骸が転がっていた。
(紅之介はどこ?)
葵姫は亡骸の顔を一々見て回ったが、それらしい者はいなかった。葵姫は近くの兵に尋ねた。
「二番門の守備隊の者は? 紅之介、いや二神紅之介を知らぬか?」
紅之介はきっと生きている・・・葵姫はそう思い込もうとしていた。その兵は話しかけてきた相手が葵姫だとわかってあわてて跪いた。
「あっ。姫様。これは失礼しました。残念ながらすべて討ち死にしたようです。まだあちこちに亡骸が転がっておりますが、すでに片付けたものもあります。」
それを聞いて葵姫の目の前は真っ暗になった。
「姫様、どうされました?」
その兵は、茫然としている葵姫を心配して言った。
「いや、何でもない・・・」
葵姫は顔を伏せて、そのままふらふらと歩き始めた。その時、その兵は急に何かを思い出した。力なく歩く葵姫の背後から声をかけた。
「そう言えば・・・どこの者かわかりませぬが、一人だけ血の海に浮いていた者がいました。まだ息がありましたので、手当てして向こうの建物に寝かせているはずです。」
それは葵姫にはっきり聞こえた。葵姫は顔を上げた。
(紅之介に違いない!)
と急に目の前が開けた気がした。そしてすぐにその建物に小走りで向かった。
今回の砦攻めは失敗に終わった。しかも引き際を誤って多くの兵の損害を出してしまった。これ以上の不手際は許されぬし、早急に次の手を打つ必要があると兵助は考えていた。そのとき不意に人の気配を感じた。
「三郎か?」
「はっ。」
声がして三郎が姿を現した。兵助は眉をひそめて三郎を見た。
「そなたのせいで多くの兵を失った。どうしてくれよう。」
「ふふふ。我らはちゃんと門を開け申した。しくじったのは配下の兵であろう。しかもごり押しされたな。」
確かにその通りだった。兵助は痛いところを突かれて渋い顔をした。
「言い訳に来たのならもうよい。どこにでも行くがいい。」
「我らなしでこの砦をすんなり落とせますかな?」
「ではまた忍び込んで門を開けるのか? 今度は一番門か?」
「いや、その手はもう使えませぬ。敵の警戒は厳重になっておりましょう。だが門を開ける手はまだあり申す。」
三郎は意味ありげにニヤリを笑った。彼には何か妙案があるようだった。
「何か考えがあるのか?」
「もちろん。だからここに参った。」
「それは?」
兵助は身を乗り出していた。三郎はまたニヤリと笑った。
「敵の将を切り崩します。」
「ん? そのような者がいるのか? 儂が見たところ敵は一丸となっているようだが。」
「まあ、焦らずに仕掛けを御覧じろ。」
そう言ってまた三郎は姿を消した。後に残った兵助はため息をついた。
「当てにはできぬが・・・。だがこれがうまくいけば砦はもはや落ちたも同然。」
兵助は不気味に笑った。
(よかった・・・)
ようやく敵を追い払えたと葵姫は安堵した。だが心の奥では紅之介を心配していた。
そこに二番門に救援に行った侍大将から報告の者が来ていた。
「敵を追い払って二番門を閉じることができました。」
「それは上々。」
百雲斎をはじめその場にいる者たちは安堵して「ふうっ」と息を吐いて肩の力を抜いた。さらに報告は続いていた。
「今は救援した兵で二番門を固めております。二番門の守備隊はすべて討ち死にしましたので・・・」
それを聞いて葵姫は驚いて目を見開いた。
(えっ! では紅之介は!)
彼女は茫然として、その後の報告は全く耳に入らなかった。
(いや、紅之介が死ぬわけはない。ずっと私にそばにいると誓ったはずだ・・・)
だがそう思い込もうとしようとするほど、彼女の胸の中には悪い予感が広がっていった。心配のあまり、みるみる顔を青ざめていった。傍にいる百雲斎は、葵姫の顔色が悪くなったのを心配して声をかけた。
「いかがいたしました? 敵を押し返しましたぞ。しっかりなさいませ。」
「ああ、わかった。少し気分が悪くなった。後は任せる・・・」
葵姫は立ち上がった。もう居ても立っても居られない気持ちだった。
「では少しお休みに。」
百雲斎はそう言った。すると葵姫はふらふらと立ち上がった。だが階上の部屋に向かうのではなく、階段を下りてそのまま飛び出して行ってしまった。彼女は我知らず、紅之介を探しに行ったのだ。
百雲斎は葵姫が外に出て行くのに気が付いた。
「姫様! お待ちください。戦いは終わったばかりでまだ危のうござる。」
だが百雲斎の言葉も葵姫には届かなかった。葵姫はただ
(紅之介! 生きていてくれ!)
と祈るような気持で二番門まで走っていた。
やがて葵姫は二番門に着いた。そこは新たに二番門の警備についた兵たちが固めていた。血なまぐさいにおいが充満し、どす黒い血の色で染められていた。敵も味方も含めて多くの亡骸が転がっていた。
(紅之介はどこ?)
葵姫は亡骸の顔を一々見て回ったが、それらしい者はいなかった。葵姫は近くの兵に尋ねた。
「二番門の守備隊の者は? 紅之介、いや二神紅之介を知らぬか?」
紅之介はきっと生きている・・・葵姫はそう思い込もうとしていた。その兵は話しかけてきた相手が葵姫だとわかってあわてて跪いた。
「あっ。姫様。これは失礼しました。残念ながらすべて討ち死にしたようです。まだあちこちに亡骸が転がっておりますが、すでに片付けたものもあります。」
それを聞いて葵姫の目の前は真っ暗になった。
「姫様、どうされました?」
その兵は、茫然としている葵姫を心配して言った。
「いや、何でもない・・・」
葵姫は顔を伏せて、そのままふらふらと歩き始めた。その時、その兵は急に何かを思い出した。力なく歩く葵姫の背後から声をかけた。
「そう言えば・・・どこの者かわかりませぬが、一人だけ血の海に浮いていた者がいました。まだ息がありましたので、手当てして向こうの建物に寝かせているはずです。」
それは葵姫にはっきり聞こえた。葵姫は顔を上げた。
(紅之介に違いない!)
と急に目の前が開けた気がした。そしてすぐにその建物に小走りで向かった。
今回の砦攻めは失敗に終わった。しかも引き際を誤って多くの兵の損害を出してしまった。これ以上の不手際は許されぬし、早急に次の手を打つ必要があると兵助は考えていた。そのとき不意に人の気配を感じた。
「三郎か?」
「はっ。」
声がして三郎が姿を現した。兵助は眉をひそめて三郎を見た。
「そなたのせいで多くの兵を失った。どうしてくれよう。」
「ふふふ。我らはちゃんと門を開け申した。しくじったのは配下の兵であろう。しかもごり押しされたな。」
確かにその通りだった。兵助は痛いところを突かれて渋い顔をした。
「言い訳に来たのならもうよい。どこにでも行くがいい。」
「我らなしでこの砦をすんなり落とせますかな?」
「ではまた忍び込んで門を開けるのか? 今度は一番門か?」
「いや、その手はもう使えませぬ。敵の警戒は厳重になっておりましょう。だが門を開ける手はまだあり申す。」
三郎は意味ありげにニヤリを笑った。彼には何か妙案があるようだった。
「何か考えがあるのか?」
「もちろん。だからここに参った。」
「それは?」
兵助は身を乗り出していた。三郎はまたニヤリと笑った。
「敵の将を切り崩します。」
「ん? そのような者がいるのか? 儂が見たところ敵は一丸となっているようだが。」
「まあ、焦らずに仕掛けを御覧じろ。」
そう言ってまた三郎は姿を消した。後に残った兵助はため息をついた。
「当てにはできぬが・・・。だがこれがうまくいけば砦はもはや落ちたも同然。」
兵助は不気味に笑った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。
●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる