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疑念
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国際ホテルの特別警護チームの控室はどんよりした重い空気に包まれていた。SPと警官の数人が襲撃により負傷した。中にはかなりの重傷者もいたが、何とか一命はとりとめたようだった。
藤堂警部は唇をかんで苦々しい顔をしていた。国王が無事だったとはいえ、襲撃を事前に防げず、部下を負傷させてしまった責任を強く感じていた。それはSPたちもそれぞれが責任を感じていた。
そこに河津警視が現れた。一同が起立して敬礼した。河津警視も敬礼を返して、
「みんなご苦労だった。こういう結果になったとはいえ、我々は国王を守り抜いた。このことはアハバ国王にも評価していただいている。しかしすべての予定はキャンセルとなって国王は明日帰国することになった。襲撃者はすべて射殺されたが、まだ安心はできない。残ったメンバーで最後までしっかりと務めて欲しい。」と言った。
「すべて私の責任です。申し訳ありません。」藤堂警部が頭を下げた。
「いや、それは私の責任だ。君たちはよくやった。」
「ところで襲撃者の身元は分かりましたか?」藤堂警部が尋ねた。
「私のところに上がってきたのは、まだ何もない。だがベガメン人らしいという情報は入ってきている。今、確認中だ。」河津警視が言った。
「襲撃の後、現場近くで外国人風の男が向かいのビルにいたのを目撃しましたが、そんな男はいましたか?」後ろからいきなり信二が聞いた。
「そんな男がいたのか?」藤堂警部が言った。
「はい。すぐに姿を消しましたが、現場周囲を固めていましたので、そんな男が網に引っかかったかと思いまして。」信二は言った。
「いや、そんな男のことは聞いていない。刑事課に確認する。」河津警視が言った。
「もしその男が襲撃者の共犯者なら、また国王を襲う可能性がある。明日も細心の注意を払って警護するんだ。」藤堂警部がSPたちに言った。
一人だけになった部屋に戻って、信二はベッドに身を投げ出すように横になった。現場で見たあの外国人風の男は、昨夜ディーマと言い争っていた男に思えた。だが確かだということも言えなかった。ちらっとだけではっきり見たわけではないし、外国人だから顔が似ているように思えただけかもしれなかった。しかしディーマの不審な様子からして疑う余地はあるように思えた。
(もしかしてディーマが国王の襲撃に関係している?いや、そんなことはない。彼女も狙撃されたんだ。しかし・・・。こうなったら確かめるまでだ。)そう思いたつと信二はすぐに部屋を出た。そして彼は密かにディーマの部屋を見張った。
ホテルの待機部屋の藤堂警部の下には捜査状況が送られてきていた。襲撃してきた4人はやはりベガメン人であったが、テロリストではなかった。共通するのはベガメンの軍関係者というだけだった。確かに自由に外国に来ることができるのはベガメンでは外交官や軍関係者に限られる。それに武器の扱いにも慣れている。国王に対する国内の不満が高まったとしたら、個人の監視の厳しいベガメン国内よりも訪問先の日本の方が暗殺に向いている。
(狩枝が言っていたが、まだ仲間がいるのかもしれない。だとするとラストチャンスは明日だ。人数的には厳しいが今いるメンバーで警備を行うしかない。特にベガメン人に気をつけなければ。その中に国王の暗殺を企む者がきっといる。)藤堂警部は腕組みをして考え込んでいた。彼の前には空港までの経路、車列の構成、空港における人員の配置図が置かれていた。これは警備の関係者に極秘資料として配られていた。
信二がディーマの部屋を見張っていた。すると彼女が出て来た。顔を帽子とスカーフで隠し、周囲を見渡して誰もいないことを確認していた。そして足早に廊下を歩くとエレベーターを使わず、階段を使って下に降りて行った。
(怪しい・・・)信二はその後をつけて行った。するとしばらくして階段の踊り場で誰かと会っているようだった。信二は見つからないようにそっと下を覗いてみた。
(あの男だ。)それは外国人風の男だった。前に見たようにサングラスをしてウエーブのかかった黒い髪をしていた。
(やはり・・・。彼女は襲撃者の仲間なのか・・・)信二はそれを信じたくはなかったが、そう疑わざるを得ない状況だった。そして信二はあることを思い出した。その男はディーマとホテルのバーで飲んでいた時に近くに座っていた男だった。
(あの時からずっとディーマのそばにいたんだ。多分、国王の警備体制や行き先などの情報を引き出すために。)信二は耳をそばだてたが、2人の会話は日本語ではなかったため何を話しているか、わからなかった。ただ信二には2人が深刻なことを話しているように感じた。そして男はディーマに小型のアタッシュケースを渡した。ディーマはそれを受け取って男とハグして別れると、すぐに階段を上ってきた。
信二は見つからないように階段を上っていって隠れた。ディーマはそのまま部屋に戻っていった。
(ディーマ。君は一体・・・)信二はディーマを直接、問い詰めたい気持ちが強くなっていた。
藤堂警部は唇をかんで苦々しい顔をしていた。国王が無事だったとはいえ、襲撃を事前に防げず、部下を負傷させてしまった責任を強く感じていた。それはSPたちもそれぞれが責任を感じていた。
そこに河津警視が現れた。一同が起立して敬礼した。河津警視も敬礼を返して、
「みんなご苦労だった。こういう結果になったとはいえ、我々は国王を守り抜いた。このことはアハバ国王にも評価していただいている。しかしすべての予定はキャンセルとなって国王は明日帰国することになった。襲撃者はすべて射殺されたが、まだ安心はできない。残ったメンバーで最後までしっかりと務めて欲しい。」と言った。
「すべて私の責任です。申し訳ありません。」藤堂警部が頭を下げた。
「いや、それは私の責任だ。君たちはよくやった。」
「ところで襲撃者の身元は分かりましたか?」藤堂警部が尋ねた。
「私のところに上がってきたのは、まだ何もない。だがベガメン人らしいという情報は入ってきている。今、確認中だ。」河津警視が言った。
「襲撃の後、現場近くで外国人風の男が向かいのビルにいたのを目撃しましたが、そんな男はいましたか?」後ろからいきなり信二が聞いた。
「そんな男がいたのか?」藤堂警部が言った。
「はい。すぐに姿を消しましたが、現場周囲を固めていましたので、そんな男が網に引っかかったかと思いまして。」信二は言った。
「いや、そんな男のことは聞いていない。刑事課に確認する。」河津警視が言った。
「もしその男が襲撃者の共犯者なら、また国王を襲う可能性がある。明日も細心の注意を払って警護するんだ。」藤堂警部がSPたちに言った。
一人だけになった部屋に戻って、信二はベッドに身を投げ出すように横になった。現場で見たあの外国人風の男は、昨夜ディーマと言い争っていた男に思えた。だが確かだということも言えなかった。ちらっとだけではっきり見たわけではないし、外国人だから顔が似ているように思えただけかもしれなかった。しかしディーマの不審な様子からして疑う余地はあるように思えた。
(もしかしてディーマが国王の襲撃に関係している?いや、そんなことはない。彼女も狙撃されたんだ。しかし・・・。こうなったら確かめるまでだ。)そう思いたつと信二はすぐに部屋を出た。そして彼は密かにディーマの部屋を見張った。
ホテルの待機部屋の藤堂警部の下には捜査状況が送られてきていた。襲撃してきた4人はやはりベガメン人であったが、テロリストではなかった。共通するのはベガメンの軍関係者というだけだった。確かに自由に外国に来ることができるのはベガメンでは外交官や軍関係者に限られる。それに武器の扱いにも慣れている。国王に対する国内の不満が高まったとしたら、個人の監視の厳しいベガメン国内よりも訪問先の日本の方が暗殺に向いている。
(狩枝が言っていたが、まだ仲間がいるのかもしれない。だとするとラストチャンスは明日だ。人数的には厳しいが今いるメンバーで警備を行うしかない。特にベガメン人に気をつけなければ。その中に国王の暗殺を企む者がきっといる。)藤堂警部は腕組みをして考え込んでいた。彼の前には空港までの経路、車列の構成、空港における人員の配置図が置かれていた。これは警備の関係者に極秘資料として配られていた。
信二がディーマの部屋を見張っていた。すると彼女が出て来た。顔を帽子とスカーフで隠し、周囲を見渡して誰もいないことを確認していた。そして足早に廊下を歩くとエレベーターを使わず、階段を使って下に降りて行った。
(怪しい・・・)信二はその後をつけて行った。するとしばらくして階段の踊り場で誰かと会っているようだった。信二は見つからないようにそっと下を覗いてみた。
(あの男だ。)それは外国人風の男だった。前に見たようにサングラスをしてウエーブのかかった黒い髪をしていた。
(やはり・・・。彼女は襲撃者の仲間なのか・・・)信二はそれを信じたくはなかったが、そう疑わざるを得ない状況だった。そして信二はあることを思い出した。その男はディーマとホテルのバーで飲んでいた時に近くに座っていた男だった。
(あの時からずっとディーマのそばにいたんだ。多分、国王の警備体制や行き先などの情報を引き出すために。)信二は耳をそばだてたが、2人の会話は日本語ではなかったため何を話しているか、わからなかった。ただ信二には2人が深刻なことを話しているように感じた。そして男はディーマに小型のアタッシュケースを渡した。ディーマはそれを受け取って男とハグして別れると、すぐに階段を上ってきた。
信二は見つからないように階段を上っていって隠れた。ディーマはそのまま部屋に戻っていった。
(ディーマ。君は一体・・・)信二はディーマを直接、問い詰めたい気持ちが強くなっていた。
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