魔道の剣  ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

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第10章 王宮の決戦

反逆ののろし

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 マデリーが魔法を使って王宮のワーロン将軍の執務室に姿を現した。ワーロン将軍はその前に片膝をついて出迎えた。

「どうなっておるのだ!」

 マデリーはいきなり問うた。彼女はかなりイライラしているようだった。

「はい、リーカーはザウスが葬ったようでございます。エミリーを見つけるのは時間の問題です」

 ワーロン将軍は答えた。

「だが、まだエリザリーは私に会おうとしないのか!」
「はい。女王様はまだ希望を持ておいでです。マデリー様に後を託そうとしないでしょう」
「何だと! それほどまでに私が憎いのか!」

 マデリーの怒鳴り声は外まで聞こえるほどだった。

「お静まり下さい。マデリー様、もうすぐです。女王様はもう先が短い」

 ワーロン将軍がなだめるように言った。

「もう待てぬ。ワーロン。アーリーもエミリーもいなくなったのなら、この国の次の女王は私しかおらぬ。構わぬ。すぐに始末をつけよ。今すぐにだ! よいか!」

 マデリーは厳しい顔でワーロンをにらんだ。ワーロンはしばらく考えた後、やっと返事をした。

「仕方がございません。女王様はあなた様を次の女王にしないでしょう。それなら同じこと。厄介なことになる前にお亡くなりいただきましょう」

 ワーロン将軍は椅子から立ち上がった。

 ◇◇◇

 ワーロン将軍は執務室を出た。彼はマデリーに命じられるままにエリザリー女王の殺害に向かっていた。この腰から帯びた剣で一突きに・・・あとはマデリー様を迎えて一気に王宮を乗っ取ろうと・・・。
 途中の広い廊下まで出た時、前にサース大臣が立ちはだかっていた。まるでここから先は通さぬというように睨んでいた。そしてその後ろは多数の衛兵で固めている。

(もう露見していたか・・・。だが儂を止められるかな)

 ワーロン将軍は鼻で笑いながら尋ねた。

「これはサース大臣。何事ですかな?」
「ワーロン将軍。そこで止まるように。聞きたいことがある」

 サース大臣の顔は険しくなっていた。

「ほう? 何ですかな?」
「将軍配下の魔騎士がリーカー宅を襲い、アーリー様を殺害した。そしてさらにリーカー殿に罪を擦り付け、魔騎士に指示してリーカー殿やエミリー様を亡き者にせんと企んだであろう」

 サース大臣は厳しい口調で問い詰めた。

「この私が? 知りませんなあ」

 ワーロン将軍はとぼけて見せた。しかし右手が剣を抜こうとしていた。邪魔するならこのサース大臣も斬ろうと・・・。

「とぼけるおつもりか? それならこの者が証言するぞ!」

 サース大臣がそう言うと、その背後から一人の男が姿を現した。それを見てワーロン将軍が驚いて声を上げた。

「お、お前は!」

 それはマークスだった。奴はリーカーにやられたはず・・・と思い込んでいた。マークスはワーロン将軍を指さした。

「ワーロン将軍! 王宮に潜り込んだミラウスがお前の陰謀のすべてを調べた。ミラウスはザウスにやられたが、その前に黒カラスで伝言を届けてきたのだ。さあ、もう言い逃れできんぞ!」

 さらにサース大臣が声を上げた。

「ワーロン将軍。剣を捨てろ! もうお前を包囲している! もう逃げられんぞ!」

 すると魔騎士と魔兵、そして衛兵が廊下に出てきた。サース大臣の命令で事前に配置しておいたのだ。彼らがワーロン将軍を完全に包囲した。だがワーロン将軍は慌てるそぶりも見せず、悠然と腕組みした。

「逃げる? はっはっはっは。この私が逃げるとお思いか? サース大臣、これで包囲していると言えるのでしょうかな? おい、お前たち!」

 ワーロン将軍が周囲に声をかけると、魔騎士と魔兵は包囲隊形を解いてワーロン将軍のそばに集まり、剣や槍をサース大臣たちに向けてきた。

「こ、これは・・・」

 サース大臣は驚いて言葉が出なかった。

「魔騎士と魔兵は儂がすべて掌握している。残念だったな」

 ワーロン将軍がニヤリと笑った。だが衛兵が動揺する中、マークスだけは平然として、じっとワーロン将軍を見据えたまま前に出た。

「貴様に用はない。さあ、そこをどけ! 邪魔しなければ命までは取らん」

 ワーロン将軍が怒鳴った。マークスは声を上げた。

「どこへ行くつもりだ!」
「エリザリー女王に今すぐ消えていただくのだ。マデリー様が待てぬというのでな」

 ワーロン将軍はニヤリと笑った。その言葉にサース大臣は腰を抜かさんばかりに驚いた。

「じょ、女王様を・・・。な、なんと大それたことを・・・」

 一方、マークスは息を整えてゆっくり剣を抜いた。

「この私がいる限り、お前の好きにはさせぬ!」
「貴様と衛兵だけでなにができる?」

 ワーロン将軍は鼻で笑った。

「やってみなければわからん!」

 マークスは剣を構えながら、傍らのサース大臣に密かに言った。

「ここは私が時間を稼ぎます。今のうちに女王様を安全なところに」

 その言葉にサース大臣はうなずくと後ずさりしてそのまま走って行った。

「あくまでも邪魔するか! ならば貴様から死ね!」

 ワーロン将軍が顎で合図すると、魔騎士や魔兵がマークスや衛兵に襲い掛かってきた。廊下を固めていた衛兵たちは逃げ惑ったが、マークスはその場にとどまり、敵の剣を受け止めてはね返した。彼は魔騎士と魔兵に違和感を覚えていた。

(この者たち、何かおかしい・・・。目に邪悪な光がある。操られているのか?)

 マークスはそう思いつつも、魔法の剣を振るって魔騎士や魔兵を次々に平打ちで叩きのめした。彼らは気を失い、床に倒れて動かなくなった。

「相変わらず見事な腕だ。しかしお前が私に勝てるかな?」

 ワーロン将軍は余裕のある言い方をした。

「これでも魔騎士隊々長を務めた者だ。貴様には負けぬ!」

 マークスは剣をワーロン将軍に突き付けた。

「ならば儂の剣を受けよ!」

 ワーロン将軍は腕組みを解き、素早く剣を抜いた。マークスはさっと身を引いて構えた。
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