魔道の剣  ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

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第7章 ダーゼン寺院

ナガス管長

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 リーカーとエミリーはダーゼン寺院の階段の前に立った。その階上に荘厳な門がそびえたち、その脇には門を警備する剣士が2人、悠然と立っていた。彼らはいかなるものもこの門の中に入れぬという気構えでじっとリーカーたちを睨みつけていた。

「ジェイ・リーカーと申す。ナガス管長にお目にかかりたい!」

 リーカーは大声を上げた。

「ここから去れ! 貴様のようなものが来るところではない!」

 警備の剣士も大声を出した。

「去るわけにいかぬ。もし御取次いただけぬのならこのまま通し通るのみ」
「ならば相手をしてやる!」

 2人の剣士は剣の柄に手をかけた。リーカーはエミリーを残してゆっくり階段を上っていった。その手も剣の柄にかかっていた。少しずつ間合いが狭まり、あと少しで両者が激突する・・・と思われた瞬間、ギイーと門が開いた。

「やめよ」

 その門からは年輩の僧が現れた。その顔には厳しい修行に耐えた深いしわが刻まれていた。

「はっ!」

 剣士たちは両脇に退いて片膝をついた。

「リーカーよ。久しぶりだな」

 その僧はリーカーに声をかけた。リーカーは片膝をつき頭を下げた。その僧こそナガス管長だった。リーカーは顔を上げて言った。

「ナガス管長。お久しゅうございます」
「うむ。お前の剣士修行以来か・・・。お前のことはいろいろ聞いておる。ゆくゆくはここに来ると思っておった」
「はい。お助けいただきたい儀があり・・・」
「わかっておる。階下にはエミリー様もおられるのだろう。一生にこの門をくぐるとよい」

 ナガス管長はそう言って中に入って行った。

 ◇◇◇◇

 マーカスとミラウスたちはリーカーを追っていた。行き先はダーゼン寺院、それははっきりしていた。

「ダーゼン寺院に潜り込もうと必ずリーカーを討ち果たします」

 トンダを討たれ、ミラウスの怒りは激しかった。だがダーゼン寺院は神聖な剣士の修行の場、誰とても簡単に入ることはできなかった。
 マークスはじっと口をつぐんでいた。彼はじっと何かを考えているようだった。その目には強い決意が現れてはいたが・・・

 ◇◇◇◇

 リーカーたちは寺院の堂に通された。

「さて、一体何があった?」

 目の前に座るナガス管長が尋ねた。

「私は妻殺しの疑いをかけられ魔騎士たちに追われております」

 リーカーはそう答えた。

「ふむ。やはりそうか」
「と言われますと?」
「王宮では女王様が病に臥せっておられる間、ワーロン将軍が勢力を伸ばしたと聞いている。魔騎士たちを手懐けて何かを企んでおる。しかしその背後にはもっと邪悪なものが潜んでいるに違いない」
「それでは我らだけでなく・・・」
「ああ、女王様の身も危なくなろう。このままではワーロンたちの思うがままだ」
「そんなことに・・・」
「しかしおぬしは追われる身で身動きがとれまい。ここにいるとよい。ここなら追っ手から逃れられよう」

 ナガス管長が言った。その言葉にリーカーは静かに頭を下げた。

 ◇◇◇◇

 マークスやミラウスたちがダーゼン寺院の階段下まで来た。すると門を固める剣士が立ちふさがった。

「これより先に入ることはならぬ。去れ!」

 剣士たちは大声を上げた。ミラウスは馬から降りると、

「ここから先には簡単には通してくれないようです。どういたします?」

 と一応、マークスに尋ねたが、その答えを待たずに門の方に向かった。ミラウスはその剣士たちを倒してでも中に押し入るつもりだった。

「待て!」

 マークスはミラウスを止めると、自分も馬を降りて剣士の方に向かった。

「私は前魔騎士隊隊長のマークス。ワーロン将軍の命でリーカーを探しに来た」
「止まれ!」

 剣士は剣の柄に手をかけた。

「私を止めることなどできぬ。門を開けよ!」

 マークスはなおも進み続けた。

「止まらぬと斬るぞ!」

 剣士は剣を抜こうとした。だがそれよりも早く、抜く手も見せずに剣を引き抜いたマークスは、2人の剣士を鋭い剣さばきで平打ちした。

「ううっ・・・」

 剣士は2人ともその場に倒れた。

「では通るぞ」

 マークスは剣をしまうと門に近づいた。すると門が開き、ナガス管長が現れた。

「マークス。ここを通ることはまかりならぬ」

 ナガス管長は厳かに言った。

「ではここに逃げたリーカーとエミリー様をお渡し願いたい」

 マークスはそう言った。

「それはならぬ。この寺院に助けを求めたものを放り出すわけにいかぬ」
「ではまかり通るのみ! ごめん!」

 マークスはさらに前に進もうとした。するとナガス管長の後ろから6人の剣士が出て来た。いずれもこの寺有数の使い手のようだった。

「ここは通さぬ」

 ナガス管長は重ねて言った。その言葉に合わせて6人の剣士がマークスを取り囲んで剣を抜いた。

「マークス様!」

 ミラウスが加勢に駆け付けようとしたが、

「来るな!」

 とマークスは言葉で制した。そして彼はじっとナガス管長を見た。

「では力ずくで・・・というわけですかな。ならばお相手仕る」

 マークスは剣の柄に手をかけた。 

 周囲に異様ならぬ殺気が漂い始めた。6人の剣士はじりじりと間合いを詰めるが、マークスの気迫に押されつつあった。それを打ち破ろうと一人の剣士が、

「ヤー!」
 と剣を振り下ろしてきた。マークスは素早く剣を抜くとその剣士の腹を平打ちした。それに続いて他の剣士もマークスに剣を向けてきた。マークスは剣を鋭く回してそれぞれの襲い掛かる剣をはね飛ばし、返す剣で剣士たちを平打ちしていった。それは一瞬のことだった。

 マークスの動きが止まるや否や、6人の剣士は気を失ってバタバタと倒れた。それを見てナガス管長は大きく息をついた。だがナガス管長はぐっとマークスを見て、

「このダーゼン寺院を汚そうとする者を、我らはその誇りをかけて阻止するだろう」

 と語気を強めて言った。マークスはこれ以上のことはできぬと悟ったのか、剣を収めた。そして門に向かって大声を上げた。

「聞こえているか! リーカー! このマークスはお前に決闘を申し込む。剣士と剣士としてだ! 聞こえているなら剣士として誇りを示せ!」
「どんなに挑発しても無駄だ。リーカーやエミリー様は我らが守る。ここから引かれよ!」

 ナガス管長はマークスを見据えてそう言った。
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