魔道の剣  ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

文字の大きさ
上 下
18 / 41
第5章 ニールの港

ハイスという男

しおりを挟む
 ニールの港は活気に満ちてにぎわっていた。ここはビンデリア唯一の海への玄関だった。他国からの船が並び、様々な珍しい物品が運ばれてきていた。高い建物がそびえたつ街中には市場が立ち並び、多くの人々が行き来していた。

 リーカーとエミリーはようやくニールの港に到着した。ここはリーカーの古くからの知り合いの男がいるはずだった。彼を探すために情報が集まりやすい酒場に入った。そこは荒くれ者の船乗りや怪しげな連中がたむろしており、この場に似つかわしくない親子を不審な目で見ていた。リーカーはその視線にかまわず、奥に入って行きカウンターで尋ねた。

「ハイスはいるか?」

 するとバーテンは黙ったまま顔を奥のテーブルに向けた。
「ありがとう」

 リーカーはその奥のテーブルに向かった。そこには大柄な男が一人で飲んでいた。

「ハイス、私だ」

 リーカーが声をかけた。するとハイスは顔を上げた。そしてリーカーを認めるといきなり立ち上がって

「この野郎!」

 と殴り掛かってきた。

「おっと!」

 リーカーはその拳を避けた。それでもハイスは次々に拳を繰り出してきた。リーカーはそれを手で何とか受け止めていた。

 ◇◇◇◇

 白フクロウが王宮のサランサの元に戻ってきた。

「リーカーもエミリーも大丈夫だ」

 サランサの腕に止まった白フクロウはそう伝えた。

「そう。それはよかった。でもリーカー様たちは今度はどこに行かれたのでしょう・・・」

 彼女はリーカーを追うマークスの存在が気がかりだった。

「リーカー様、ご無事をお祈りいたします」サランサは空に向かってそう呟いていた。

 ◇◇◇◇
 
 酒場で、リーカーとハイスが拳を構えてにらみ合っていた。さっきからお互いに拳を叩きあっていたが勝負はつかなかった。

「パパ・・・」

 エミリーが心配して声をかけた。するとハイスの腕は止まった。

「おっと。お嬢ちゃん。怖がらせてごめんよ。これが俺流のあいさつなんだ!」

 ハイスは拳を下ろして笑顔になった。

「お前っていうやつは相変わらずだな」

 リーカーがあきれたように言った。

「ははは。驚かしてやろうと思ってな・・・」

 ハイスはソファにどっかりと腰を下ろした。

「ハイス、頼みがあってここに来た。それは・・・」

 リーカーが言いかけるとハイスは右手を挙げて制した。

「わかっている。隠れるところを探しているんだろう。俺に任せろ」

 ハイスは胸を叩いた。

「こんなことを頼むからには訳を言わねばならないが・・・」
「いや、すべてわかっている。巷じゃ、お前が妻を殺して娘を連れて逃げていると言っているが、俺はだまされねえ。お前がそんなことをするわけがない。さっき拳をかわしてそれを確信した。誰かの罠にはまっているんだな」

 ハイスの言葉にリーカーは深くうなずいた。

「ああ、そうだ。エミリーが狙われている。私はこの子を守り通さねばならない。殺された妻のためにも」
「ここへ来るんじゃないかと用意はしていた。隠れ家に案内しよう。ついてきてくれ。」

 ハイスには何もかも分かっていた。彼は危険を承知でリーカーたちをかくまおうというのだ。

 ◇◇◇◇

 マークスの隊はニールの港に到着した。街では多くの人々で混雑して、まともに歩けないほどだった。ミラウスはため息をついて言った。

「こう人が多いと探しようがないですね」
「うむ。そうだな。しかし必ず奴はこの港のどこかに隠れている」

 マークスは確信していた。必ずリーカーがいると。彼は辺りを見渡した。商人、船乗り、剣士、女子供・・・・様々な人でごった返している。姿をくらませるのには好都合だ。

「この港の役人の手を借りよう。徹底的に捜索して探し出すしかない」

 マークスはミラウスにそう言った。

 ◇◇◇◇

 リーカーとエミリーは酒の貯蔵庫に案内された。そこは港から少し離れた場所にあった。周囲を森に囲まれ静かなところだった。もちろん人は誰もいなかった。

「ここなら滅多に人が来ない。でももし誰か来ても地下室があるからそこに隠れたらいい。いざとなったらその地下室から外に抜けられる抜け道もある。俺だけが知っている秘密だがな。まあ、夜は冷えるが昼間は日も当たるから温かい。だが少々、かび臭いがな」
「すまぬ」

 リーカーは頭を下げた。

「いいってことよ。俺とお前の仲じゃないか。思い出すぜ。お前さんがこの港に来た頃を・・・」

 ハイスは昔を懐かしむように言った。

 リーカーは若い頃、この港を訪れたことがあった。その時、彼は武者修行の旅をしていたのだ。各地の剣術道場や腕の立つ剣士に試合を申し込み、剣の腕を磨いていた。ハイスはまだ駆け出しのチンピラだった。けんかに明け暮れ、人々から厄介者扱いを受けていた。

 その2人が偶然、出会った。剣士の一団に絡まれて困っていた市場の者を助けるため、ハイスは首を突っ込んだ。だがかえって剣士たちの反感を買って、ボコボコに殴られ袋叩きに合っていた。しかしそこにリーカーが通りかかった。リーカーは剣士たちのあまりに卑怯な振る舞いに怒り、一瞬のうちに剣たちを叩きのめしてハイスたちを救った。それ以来、ともに行動することが多かった。性格も生まれも違う2人であったが馬があったということだろうか、数か月の滞在で兄弟同様の仲になった。

「じゃあ、俺は行くよ。何かうまいものでも調達してくる。お嬢ちゃんも楽しみにしてくれよ」

 ハイスはエミリーに笑いかけてそう言うと貯蔵庫を出て行った。

 ◇◇◇◇

 ハイスが外に出てしばらく歩くと目の前に男が立っていた。黒マントにトンガリ帽で怪しげな雰囲気を醸し出しており、この辺りで見た顔ではなかった。ハイスを見て不気味に笑っている。

「なんだ? おまえは」

 ハイスが胡散臭そうにその男を見た。

「ここにリーカーがいるな?」

 その男はウイッテだった。

「なに! おまえ! リーカーたちに手を出したら俺が承知しねえぞ!」

 ハイスは身構えた。

「ふふん。そうか。ではお前にやってもらおうか」

 ウイッテは右手を出してハイスに魔法をかけた。ハイスはなぜか身動きできず、体が揺れていくのを感じた。

「そうだ。お前は儂のしもべになるのだ」

 ウイッテの言葉がハイスの頭に刻まれていった。ハイスは何とか抵抗しようと頭を振ったり体を動かしたりした。だが次第に意識が薄れていくのを感じた。

(このままでは奴の操り人形になってしまう・・・)

 ハイスはそう感じた。それで何とか力を振り絞って、

「この野郎!」

 とウイッテに拳を突き出そうとした。だがそれが届く前に彼はその場に倒れた。

「いいぞ。さあ、起きろ、儂のしもべよ」

 ウイッテがそっと声をかけた。するとハイスが立ち上がった。その目からは生気は失われていた。

「さあ、リーカーを殺せ! リーカーを殺すのだ!」

 ウイッテがハイスの耳元でつぶやいた。

「はい。ご主人様」

 ハイスはうつろな目でそう答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

空の話をしよう

源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」  そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。    人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。  生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。  

1000本の薔薇と闇の薬屋

八木愛里
児童書・童話
アルファポリス第1回きずな児童書大賞奨励賞を受賞しました! イーリスは父親の寿命が約一週間と言われ、運命を変えるべく、ちまたで噂の「なんでも願いをかなえる薬」が置いてある薬屋に行くことを決意する。 その薬屋には、意地悪な店長と優しい少年がいた。 父親の薬をもらおうとしたイーリスだったが、「なんでも願いをかなえる薬」を使うと、使った本人、つまりイーリスが死んでしまうという訳ありな薬だった。 訳ありな薬しか並んでいない薬屋、通称「闇の薬屋」。 薬の瓶を割ってしまったことで、少年スレーの秘密を知り、イーリスは店番を手伝うことになってしまう。 児童文学風ダークファンタジー 5万文字程度の中編 【登場人物の紹介】 ・イーリス……13才。ドジでいつも行動が裏目に出る。可憐に見えるが心は強い。B型。 ・シヴァン……16才。通称「闇の薬屋」の店長。手段を選ばず強引なところがある。A型。 ・スレー……見た目は12才くらい。薬屋のお手伝いの少年。柔らかい雰囲気で、どこか大人びている。O型。 ・ロマニオ……17才。甘いマスクでマダムに人気。AB型。 ・フクロウのクーちゃん……無表情が普通の看板マスコット。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

【完結】だるま村へ

長透汐生
児童書・童話
月の光に命を与えられた小さなだるま。 目覚めたのは、町外れのゴミ袋の中だった。 だるまの村が西にあるらしいと知って、だるまは犬のマルタと一緒に村探しの旅に出る。旅が進むにつれ、だるま村の秘密が明らかになっていくが……。

処理中です...