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第10章 王様に似た男 ーアール国ー
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その頃、ヤコブの家に馬に乗った男が訪れていた。その男は覆面をして顔を隠し、誰にも見られぬように気を配っていた。
「開けてください。私です。」男が家の外から声を潜ませて言うと、ヤコブが静かにドアを開けた。
「急に申し訳ありません。今日は大事な話があって来ました。」その男は言った。
「とにかく中へ。誰かに見られたら大変です。」ヤコブはその男を家の中に入れて、誰にも見られてはいないのを確認してからドアを閉めた。そしてその男を暖炉の前に通した。妻のライラには、
「大事な話がある。ここは外してくれ。」と言って席を外させた。2人だけになってそこで初めて男は覆面を取った。それはヤコブとそっくりな顔をしていた。
「王様。今日はなぜここに?」ヤコブは尋ねた。
「ここではトーネルと呼んでください。兄上。」その男は言った。彼はトーネル王その人だった。
「ではトーネル。話とはなんでしょう?」
「私は常に心苦しい思いをしてきました。双子とはいえ、兄上を差し置いて王となったことに。それにこの村に王家の血を引く兄上をそのままにしておくのは・・・。」トーネル王の表情は暗かった。
「それは仕方がないことです。この国では双子は忌み嫌われる。だから占いであなたが王家に残ることになり、私はこの村に預けられた。だが人には分がある。あなたはこの国の王として立派にやってこれた。これは私には真似できないこと。それでよかったのです。私はこの村で妻子とともに幸せに暮らしております。それだけでいいのです。」ヤコブが言った。
「兄上はいつもそうおっしゃられるが、それでは人の世の摂理に反するというもの。それは正せねばならないと考えております。」トーネル王は言った。
「というと?」
「私には子がありませぬ。これから先も妃を娶るつもりもございませぬ。そこで兄上のお子をいただきたいのです。ジャストを次の王として。兄上のお子なら立派な王となれるはずです。」トーネル王は言った。
「それでは御家来衆に不満が残りましょう。いきなりこの子が次の王といっても認めない者もおりましょう。」ヤコブが言った。
「いえ、この事情を話して納得させます。兄上のお子なら誰も反対する者はおりませぬ。諸国の王の任命に大きな力を持つハークレイ法師様にも認めていただけるはずです。」トーネル王は、かつて自分が王になる時に後押しをしてくれたハークレイ法師の名を出してそう言った。
「それほどまでとは・・・。わかりました。その件は承知しましょう。それより次の妃は娶らないのですか?王宮にあなた一人では心細い時もありましょう。」ヤコブは尋ねた。
「いえ、私には兄上がこの国にいますし、兄上のお子が来てくれたら家族となり、寂しさはなくなりましょう。」
「それならいいのですが・・・・。まさか、あの件を今でも・・・」ヤコブは気になっていたことを言った。
「ええ、全くないと言ったら嘘になります。私は王を継ぐために恋仲だったメレダと別れた。いやメレダの方から去って行った。侍女という身分違いで私と結婚することもできず、私の邪魔になると思って・・・。そして後にあれから1年して死んだことを風のうわさで知りました。また嫁いできた妃は、私がメレダのことをずっと忘れられないのを感じていました。私は彼女を心底から愛してやることはできず、彼女もそのまま寂しげな顔をして病気で死んでしまった。私は2人の女性を不幸にしてしまった。もう妃を娶ろうと思いません。もういいのです。」トーネル王は悲しげに言った。ヤコブはその様子にかける言葉を失っていた。
そのヤコブの家の外にひそかに何者かが近づいて、中の様子をうかがっていた。それは王宮からトーネル王の後を密かにつけてきた男だった。その男は窓越しに2人の会話をすべて聞いてしまった。
「これはえらいことを聞いてしまった。早速、大臣に報告しなければ・・・。」その男は気づかれないようにその場を離れると、すぐに王宮に帰っていった。
「開けてください。私です。」男が家の外から声を潜ませて言うと、ヤコブが静かにドアを開けた。
「急に申し訳ありません。今日は大事な話があって来ました。」その男は言った。
「とにかく中へ。誰かに見られたら大変です。」ヤコブはその男を家の中に入れて、誰にも見られてはいないのを確認してからドアを閉めた。そしてその男を暖炉の前に通した。妻のライラには、
「大事な話がある。ここは外してくれ。」と言って席を外させた。2人だけになってそこで初めて男は覆面を取った。それはヤコブとそっくりな顔をしていた。
「王様。今日はなぜここに?」ヤコブは尋ねた。
「ここではトーネルと呼んでください。兄上。」その男は言った。彼はトーネル王その人だった。
「ではトーネル。話とはなんでしょう?」
「私は常に心苦しい思いをしてきました。双子とはいえ、兄上を差し置いて王となったことに。それにこの村に王家の血を引く兄上をそのままにしておくのは・・・。」トーネル王の表情は暗かった。
「それは仕方がないことです。この国では双子は忌み嫌われる。だから占いであなたが王家に残ることになり、私はこの村に預けられた。だが人には分がある。あなたはこの国の王として立派にやってこれた。これは私には真似できないこと。それでよかったのです。私はこの村で妻子とともに幸せに暮らしております。それだけでいいのです。」ヤコブが言った。
「兄上はいつもそうおっしゃられるが、それでは人の世の摂理に反するというもの。それは正せねばならないと考えております。」トーネル王は言った。
「というと?」
「私には子がありませぬ。これから先も妃を娶るつもりもございませぬ。そこで兄上のお子をいただきたいのです。ジャストを次の王として。兄上のお子なら立派な王となれるはずです。」トーネル王は言った。
「それでは御家来衆に不満が残りましょう。いきなりこの子が次の王といっても認めない者もおりましょう。」ヤコブが言った。
「いえ、この事情を話して納得させます。兄上のお子なら誰も反対する者はおりませぬ。諸国の王の任命に大きな力を持つハークレイ法師様にも認めていただけるはずです。」トーネル王は、かつて自分が王になる時に後押しをしてくれたハークレイ法師の名を出してそう言った。
「それほどまでとは・・・。わかりました。その件は承知しましょう。それより次の妃は娶らないのですか?王宮にあなた一人では心細い時もありましょう。」ヤコブは尋ねた。
「いえ、私には兄上がこの国にいますし、兄上のお子が来てくれたら家族となり、寂しさはなくなりましょう。」
「それならいいのですが・・・・。まさか、あの件を今でも・・・」ヤコブは気になっていたことを言った。
「ええ、全くないと言ったら嘘になります。私は王を継ぐために恋仲だったメレダと別れた。いやメレダの方から去って行った。侍女という身分違いで私と結婚することもできず、私の邪魔になると思って・・・。そして後にあれから1年して死んだことを風のうわさで知りました。また嫁いできた妃は、私がメレダのことをずっと忘れられないのを感じていました。私は彼女を心底から愛してやることはできず、彼女もそのまま寂しげな顔をして病気で死んでしまった。私は2人の女性を不幸にしてしまった。もう妃を娶ろうと思いません。もういいのです。」トーネル王は悲しげに言った。ヤコブはその様子にかける言葉を失っていた。
そのヤコブの家の外にひそかに何者かが近づいて、中の様子をうかがっていた。それは王宮からトーネル王の後を密かにつけてきた男だった。その男は窓越しに2人の会話をすべて聞いてしまった。
「これはえらいことを聞いてしまった。早速、大臣に報告しなければ・・・。」その男は気づかれないようにその場を離れると、すぐに王宮に帰っていった。
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