メカラス連邦諸国記

広之新

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第7章 父は巡検剣士 ーガオヤ村ー

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 翌日、村に役人姿の年輩の男が現れた。その様な役人が来ることはこの村では滅多になかった。その役人はジャードの家を村人から教えられてやって来た。
「ここはジャード殿の家か?」役人が家の前にいたトータに尋ねた。
「はい。父に御用ですか?」トータが言った。
「それではあなたが御子息でしたか・・・それは、それは。」役人は急に愛想がよくなり、笑顔を見せた。そして丁寧な物腰で、
「ジャード殿にお会いしたいと思いまして。ザハラが来たとお伝え願えまいか。」と言った。トータは家に戻るとジャードの部屋に行った。
「父上。ザハラという方が見えております。」
部屋では老人が方術で治療を行っていた。ジャードは横になった身をすぐに起こし、
「ザハラ様が・・・。わかった。すぐに行く。」ジャードの顔は緊張に満ちていた。
「すまないが外してくれまいか。客人と大事な話があるので。」ジャードが老人に言うと、老人は何かを察して部屋から出て行った。

 ジャードは家から出て来た。その姿をみてザハラは笑顔を向けた。
「ザハラ様。お久しゅうございます。」ジャードが頭を下げた。
「おお。ジャードか。元気にしておったか。話があって来た。」ザハラがうなずきながら言った。
「では奥の部屋に。」とジャードが言うと、ザハラは中に入って行った。
「ザハラ様と大事な話がある。よいか。中に入って来るのでないぞ。」ジャードはトータに厳しい顔で言った。そして2人は締め切った奥の部屋で長い間、話し込んでいた。

「ではまた来る。よい返事を待っているぞ。」ザハラはそう言い残して帰っていった。それを見送るジャードの顔には苦悩の色が見えていた。トータはそんな父を見たのは初めてだった。
夜になってもジャードは部屋に閉じこもったままだった。食事をとろうともしなかった。あれからジャードは何も話そうとしなかった。ただ何かを考えているようだった。
ふいに部屋の戸が開き、ジャードが出て来た。心配するトータに、
「トータ。話がある。部屋に来なさい。」と静かに言った。

 締め切った部屋にジャードとトータは向かい合って座った。その部屋は言い知れぬ緊張感に満たされていた。しばらく沈黙があったのち、
「お前は剣士の修行をしてきたはず。何があっても心穏やかにする術を知っていよう。よいか。心して聞くのだ。」ジャードは静かに言った。
「はい、父上。」トータは何を聞いても受け止めようと心を張りつめていた。
「では言おう。お前は私の子供ではない。」ジャードはきっぱりと言った。トータはその言葉に衝撃を受けた。だが何とか心を静かに保とうとした。
「お前は先王ドーネ様のお子なのだ。」ジャードは続けていった。トータは信じたくなかった。自分の父は目の前にいる父以外いるはずがないと。しかし目の前にいる父の顔は真剣だった。
「父上。それは真でしょうか?」トータは尋ねた。
「ああ、本当だ。お前にもその訳を教えねばなるまい。」ジャードはそこまで言って息を吐いた。そして意を決して話し始めた。
「もう10年前のことだろうか、王様の後継問題で王家は分裂していた。ドーネ様の兄弟の間で争いが起こったのだ。そのような時、ドーネ様の新たな妃となっていたアリス様が身ごもられた。しかしこのままでは生まれたお子までその争いに巻き込まれると思ったドーネ様は、アリス様を私に託された。そこでお前は生まれたのだ。だが産後の肥立ちが悪く、アリス様はすぐに亡くなられ、そしてドーネ様も間もなく亡くなられたため、お前は私の子として育てることになったわけだ。だがお前も知っての通り、今の王様、ハイネ王はお子がおられない。そこでお前を養子にとのことでザハラ様が来られたのだ。」ジャードは話し終わると、じっとトータを見た。一方、トータは混乱していた。思いもよらなかった事実を聞かされてどうしたらいいかが分からなかった。
「お前も突然のことで困っていよう。だがこれは本当のことだ。お前は自分の運命を受け止めねばならぬ。」ジャードは真剣な顔で言った。
「父上は・・・父上はどう思われます?私がここを離れて王家に入った方がいいと思われますか?」トータは言った。トータは父が引き留めてくれるのではないかとかすかな希望を抱いていた。だが、
「お前は王家の血を引いている。ここにいるべきではない。」ジャードはきっぱりと言った。
「父上・・・」トータは悲しかった。その目には涙があふれてきた。だがジャードはトータから顔を背けて、
「3日後には、ザハラ様がお迎えに来られる。それまでに準備しておくのだ。よいな。」それは有無を言わせぬ物言いであった。
「・・・わかりました・・・。」トータは気を落として部屋から出て行った。部屋に残されたジャードは腕組みをしてじっと目をつぶっていた。

 次の日からジャードとトータの様子が少し変わっていた。2人とも何となくぎくしゃくしているようだった。老人はそれにすぐに気づいた。
(昨日、何かあったのか?昨日の客人が関係しているのだろうか?)そう思った老人は、
「何かあったのでございますか?お二人とも何か昨日と違うような・・・」と2人に訊いてみた。
「いや、何もない。何か変わったように見えますか?」ジャードは作り笑いをしながら答えた。
「何もありませんよ。では私は・・・」トータはその場から逃げるように出て行った。その様子を見て、
(この2人に何か大きなことが起こっておる!)老人は確信した。
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