メカラス連邦諸国記

広之新

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第4章 幸せを呼ぶ福踊り ーシオリ国ー

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 シカキ道場の門弟たちが集まって道を歩いていた。最近、襲撃されることがあり、一人では歩かぬようにしていた。
「これなら奴らも襲ってこられまい。一人の時に多数で襲われてはどうにもならぬが、この人数がいれば安心だ。」ゴンザがそう言うと他の者もうなずいた。しかし、
「ザザッ!」と足音がして仮面をつけた剣士が大勢現れた。
「何者だ!我らをシカキ道場の者と知ってか!」ゴンザが叫んだ。
「フフッ。命までは取らぬ。だが痛い目に合ってもらうぞ。」襲撃者の一人が言った。それはタイグのようであった。
「何を!」ゴンザたちは剣を抜くと、襲撃者たちも剣を抜いてかかってきた。数は襲撃者の方が多かったが、ゴンザたちは奮戦して押し返した。
「苦労しているようだな。」そこに大柄な男が現れた。仮面をつけていたが、その男はバボスだった。
「どれ。儂が手を貸そう。」バボスは落ちていた木の棒を拾った。
「木の棒を・・・我らをなめるな!」ゴンザは剣でかかっていった。しかし一瞬で叩きのめされ、その場に倒れた。
「おのれ!」他の門弟もバボスに挑んでいったが、次々に打ちのめされその場に沈んだ。
「たわいもない者たちよ!命があっただけでも感謝せい!」そう言い捨ててバボスは木の棒を投げ捨てると他の襲撃者とともにそのまま去って行った。

「先生!」シカキ道場に痛みつけられたゴンザたちが戻ってきた。彼らは立つのもやっとの状態だった。
「どうしました?」そこに出て来たのはトーザの娘のサキだった。
「お嬢様。やられました。奴らです。ナーク道場の奴らに決まっています。」ゴンザが言った。
「なに!」そこにシェイクが出て来た。門弟たちが手ひどくやられたのを見て
「かくなる上は・・・」シェイクは覚悟を決めて剣を手に飛び出そうとしていた。
「待て!どこに行く!」トーザが出てきてシェイクに言った。
「先生、私はもう我慢がなりませぬ。行かせて下さい。」シェイクが言った。それに対してトーザは
「いかん。それこそ奴らの手に乗るようなもの。絶対行ってはいかん!」と強く止めた。
「しかし・・・」シェイクは言いかけたが、
「今は我慢だ。それよりけが人の手当てをするのだ。後のことは私が考える。」トーザはきっぱりと言った。その言葉にシェイクは唇をかんで、つかんだ剣をその場に置いた。

ジェン町の総督はロコスという男だった。彼はカイザ王からこの町の統治を任されていた。そのロコス総督の前にナーク道場のザイキとバボスがいた。ザイキは巧みにロコス総督に取り入っていた。
「総督様。いつもありがとうございます。おかげさまで我が道場は潤っております。」ザイキはそう言いながら金貨の小袋をそっと渡した。ロコス総督はそれを受け取ってすぐに懐にしまった。
「今日ここに来たのは何か目的があるのであろう。」ロコス総督が言った。
「さすがは総督様。御察しがよろしいようで・・・。実は今度の御前試合のことで。」ザイキは言った。
「御前試合か。カイザ王がお越しになる。粗相があってはならぬからな。」ロコス総督は言った。
「2年前はバボス殿にご助力いただき、勝つことができました。今度もそうあって欲しいと・・・」ザイキは意味ありげに言った。
「今度も勝てばいいではないか。」ロコス総督は言った。
「いえ、手は打ってあります。しかし私は心配性ですので念には念を入れておきませんと。」ザイキは言った。
「わかっておる。シカキ道場の対戦相手に試合前に薬の入った酒を飲ませればいいのだろう。」ロコス総督は言った。
「おっと大きな声で・・・これは内密にお願いします。それにもうひとつ。」ザイキは言った。
「今度は何じゃ?」ロコス総督は面倒くさそうに尋ねた。
「今度の試合にこちらが勝てば、王様に私を剣術指南役に推挙して頂けないでしょうか。そうすれば目障りなシカキ道場の取り潰しができますからな。」ザイキは言った
「わかった。それもしよう。それよりバボス。大丈夫なのだろうな?勝てるのだろうな?」ロコス総督が訊いた。
「無論です。奴らなど儂の敵ではない。ただザイキ殿が心配するからその手に乗っているだけだ!」バボスは自信満々に言った。
「まあ、これで総督様も私たちも万々歳というわけで・・・」ザイキがそう言うと、
「こいつめ!はっはっは。」と3人は大いに笑っていた。

トーザは道場に座り、精神を統一していた。そしてすっと立ち上がり傍らの剣を取って道場を出ようとした。
「お待ちください。」そこにはシェイクが控えていた。
「私はナーク道場に行く。此度のことについてザイキ殿を問い詰めるつもりじゃ。」トーザが言った。
「ならば私もお連れください。」シェイクは言った。
「けんかをしに行くわけではない。話し合いに行くのだ。お前は待っていなさい。」トーザは言った。
「いえ、お供いたします。お断りになられても無理について参ります。」シェイクは言った。
「お前はこの道場を継がねばならぬ身。サキの婿として。もしものことがあったらサキが悲しもう。」トーザは言った。
「いえ、サキ殿は私に先生のことを頼まれたのです。しかし私自身がそう決めたのです。ぜひお連れください。」シェイクは真剣な顔で言った。
「仕方ない。ついてくるがよい。」トーザはそう言うと歩き始めた。
「はいっ!」シェイクは立ち上がってその後をついて行った。

「大変です!」ナーク道場に響き渡った。
「何じゃ?騒々しい。」ザイキが部屋の扉を開けた。
「や、奴らが来ました。シカキ道場のトーザとシェイクです。」門弟は慌てながら言った。
「何だと!」トーザは驚きの声を上げた。するともう近くまでトーザとシェイクが来ていた。周りをナーク道場の門弟が取り囲んでいたがそれを気にする様子もなく、まっすぐザイキの方に進んできていた。それはまるで道場に斬り込みに来たかのようであった。恐怖を感じつつもザイキは、
「い、一体、どうされたのかな・・・?」と何とか震えながら尋ねた。
「話があって来た。ご無礼を許されよ。」トーザは平然と言った。
「ともかくこちらへ。」ザイキは2人を道場に連れて行った。そして向かい合って座った。
「今日はどのような話で?」ザイキの震えは止まらなかった。
「そちらの道場の方が我らの門弟に狼藉を働いたと聞きましてな。」トーザは言った。口調は穏やかだが、その目はじっとザイキを見据えていた。
「いえ、そんなことは・・・」ザイキはあわてて首を横に振った。
「そうでしょうとも。あなたの道場の方がそんな振る舞いはされぬと思っておりました。」トーザはうなずきながら言った。その言葉にザイキは少しほっとしていた。
「だが、もしそんなことがあれば!」急にトーザの言葉は鋭くなり、剣を引き寄せさっと抜いてザイキに突き付けた。
「ヒーッ!」ザイキは思わず声を上げた。トーザはすぐに剣をしまって、
「これはご無礼をした。我らは帰ります。」トーザとシェイクは立ち上がりそのまま道場を出て行った。
「はあー。」トーザは腰が抜けてしまっていた。まだ先程の恐怖が抜けず、震えが止まらなかった。
「ふっふっふ。恐ろしい目に合われたようだな。」そこにバボスが顔を出した。
「いるなら出てきてください。儂は肝がつぶれてしまったぞ。」ザイキは言った。
「だらしがない。だが奴らは少々、厄介だ。ここは任せてもらおう。門弟を借りていくぞ。」バボスはそう言って出て行った。

「先生、お見事でした。ザイキは震えあがっていました。あれならこちらに手を出してきますまい。」シェイクは嬉しそうに言った。彼らはシカキ道場に帰る途中だった。辺りは日が暮れかけ、道に人通りはなかった。
「そうであったらいいが・・・」トーザは言った。彼は嫌な予感がしていた。
「ん・・・」トーザは近くから殺気を感じた。シェイクもその気配に足を止めて剣を握りしめた。
ふいにトーザの前に仮面をつけた大柄な男が現れた。その後ろにも仮面をつけた剣士たちが立っていた。シカキ道場の門弟たちを襲った者たちだった。その中には大柄なバボスもいた。
「何だ!貴様らか!我が道場の者を襲ったのは!」シェイクは剣を抜いた。
「2人ともここで死んでいただく!」仮面をつけたタイグがそう言うと、剣士たちは剣を抜いて斬りかかってきた。シェイクは剣で応戦した。その後ろでトーザも剣を抜き、向かってくる剣を防いでいた。これではらちが明かぬと見たタイグは
「やれっ!」と合図した。すると剣士たちは懐から玉を取り出し、シェイクとトーザに向けて投げつけた。それをシェイクは剣で受けたがその玉は破裂して粉が舞った。
「うっ!目つぶしか!」シェイクは目を押さえた。そこをバボスが右肩を斬りつけた。
「うわっ!」シェイクは右腕を切られ剣を落とした。
「止めだ!」バボスが剣を振り下ろしたところを、同じく目つぶしを食らったトーザがシェイクをかばうために立ちふさがった。
「ぐわっ!」トーザは袈裟斬りに深く斬られてその場に倒れた。
「先生!」シェイクは叫んだ。トーザはうつぶせに倒れたまま動かなくなっていた。
「次は貴様の番だ!」バボスが剣を振り上げた。その時、
「待て!」と赤い服を着た若い男が飛び込んできた。そしてバボスを突き飛ばした。
「貴様!何者だ!」タイグが叫んだ。
「俺はこんなことを見逃せねえのよ。」若い男は言った。
「構わぬ!こいつもやれ!」タイグが言うと、他の剣士がその男に斬りかかってきた。しかし男は身軽に剣をかわすと、殴ったり蹴ったりして剣士たちを叩きのめしていった。バボスも剣を振り回してきたが、その男にはかすりもせず、やはり数発殴られて後ろに下がった。
「退け!」タイグがそう言うと、剣士たちは一斉に引き上げていった。

「けがはどうじゃ?」そこにあの方術師の老人が近寄ってきた。
「私は腕を斬られていますが大丈夫です。それより先生を。先生は深く斬られています。」シェイクは斬られた右腕を押さえて言った。トーザの体からは大量の血が流れ落ちていた。
「これはいかん!」老人はなにやら呪文を唱えてトーザの体に当てた。すると出血は止まった。
「とにかく家に運びましょう。キリン!」老人が言うと先程の若い男がそばに来た。その男は老人の供の者のようだった。キリンはトーザの体を抱えると傷を負ったシェイクとともにシカキ道場の方に向かった。後に残った老人は懐の水晶玉を出して見つめた。
「ふむ。こんなことに・・・」

「先生!」「父上!」深手を負ったトーザとシェイクが道場に戻ってきて大騒ぎになった。
「一体どうしたのです?」サキが訊いた。
「不覚です。私をかばって先生は・・・」シェイクは唇をかんだ。
「それよりこの方を。」老人は言った。
「ええ、奥にお願いします。」サキはトーザを抱えたキリンと老人を奥の部屋に案内した。

深手を負ったトーザは老人の方術により何とか命はとりとめた。だが死んでいるかのように深く眠り続けていた。
「2,3日すれば目が覚めるはずじゃ。もう大丈夫じゃ。」老人は言った。
「父と師範のシェイク様をお助けいただきまして、ありがとうございます。なんとお礼を申したらいいか・・・私はこの道場主トーザの娘でサキと申します。」サキは頭を下げた。
「なんの。通りかかっただけで、お礼には及びませぬ。私は旅の方術師のライリーと申します。こっちは供のキリンです。それより一体、どうしてこんな目に?」老人は言った。
「それは・・・」サキは話しにくいようだった。
「もしかしたら儂たちがお役に立てるかもしれません。よかったら話して下さらんか?」
「お話ししてはいかがですか。この方たちは信用できます。」右腕に包帯を巻かれたシェイクは言った。
「わかりました。お話ししましょう。この町に2年に1回、王様がいらして御前試合を行う習わしになっております。2年前は我が道場の者は負けました。今年こそはと思った矢先でした。相手のナーク道場からは嫌がらせや門弟たちを襲ってけがを負わせるようになりました。多分、御前試合に勝利して、王家の剣術指南役の座を狙っているのかもしれません。それで父と師範のシェイク様がナーク道場に乗り込んでいったのですが・・・」サキは言った。
「そうですか。しかしこれでは御前試合は?」老人が言った。
「今年は出場できません。父はあのような状態ですし、シェイク様や他の門弟もけがを負ってまともに戦える者はおりませぬ。」サキは悔しそうに言った。
「いえ、出ます。右手が駄目でも左手で剣が持てます。」シェイクは言った。
「しかしそれで勝てますかな?相手の道場には相当な腕の者がいるようですが。」老人は言った。
「それは・・・」シェイクは顔を伏せた。その時、サキの頭にある考えがひらめいた。
「兄上に、兄上に頼みましょう!」サキは言った。
「えっ!マーク様に?」シェイクは驚いて顔を上げた。
「そうです。もう兄上しかいません。兄上なら御前試合に出ることが、いえ、勝てるかもしれませぬ。私が頼んでみます。」サキが立ち上がった。
「しかしマーク様はあのようになられて・・・」シェイクは言った。
「いいえ。私が事情を話せば必ず立ち上がってくださるはずです。今すぐ一人で行ってきます。」サキは言った。
「いや、サキ殿だけでは夜道が危険です。私も行きます。」シェイクも立ち上がろうとした。
「いや、けが人はそのままで。それなら我々がお供してお守りします。」老人とキリンが立ち上がった。
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