メカラス連邦諸国記

広之新

文字の大きさ
上 下
10 / 54
第3章 命を賭けた村の直訴 ーバイワン国ー

3-2

しおりを挟む
 村長が王城から帰ってきた。執行官に今の村の現状を訴えたが聞いてはもらえなかった。気落ちしていたが、それより村の者に何と説明しようかと道々考えていた。
「村長。お客さんが来ています。」村人が教えてくれた。すると門の前に一人の老人が立っていた。
「村長さんですかな。私が何かの役に立てるかと思いまして。」老人は笑顔で言った。村長が見るところ、その老人は身なりこそよくなかったが、何か神秘的な雰囲気を感じさせた。
「あなたはどなたですか?」村長は尋ねた。
「申し遅れました。儂は旅の方術師、ライリーと申します。」老人は答えた。
「方術師の方が何をしていただけるますのか?」村長は訊いてみた。もう藁にもすがりたい気持ちだった。
「ここに来る道すがら、作物の出来を見ました。そして川の水も確かめました。この2つのことは結び付いていると思います。儂の方術がお役に立てるかもしれません。」老人が言った。村長はそれを聞いて喜び、
「そうですか。それはそれは。まずは中に。」と言って老人を屋敷の中に招き入れた。

 老人は奥の部屋に案内された。村長は入ってきて辺りを見渡して扉を閉じた。
「方術師とお伺いいたしましたが、川の水を変えることはできるのですか?」村長は尋ねた。
「できますとも。だがその前に川の水について仔細を教えて下さらんか」老人は言った。
「わかりました。でもこのことはよそで口外しないでください。王城のお役人から思い罰を受けますから。実は先年、この川の上流の山で鉱物を採掘することになりました。しかしそれが始まった途端、川の水は濁り、流れは変わり、作物の実りは悪くなりました。それに年々土地がやせてきているようで今年の穀物の出来は最悪になってしまいました。」村長は言った。
「王城には訴えられたのですかな?」老人が言った。
「ええ、でもそれはジャカン大臣の指示で起こした事業であり、我らのような下々が口をはさむことではないと執行官からお叱りを受けました。それでもそのことを口にした者はいましたが、その者は捕らえられて牢屋に入れられ、挙句の果てにそこで死にました。」村長は無念そうに言った。
「なんということを・・・」老人はつぶやいた。
「山の方はどうにもなりません。それならば川の水を何とか元に戻す方法がないかとお願いする次第です。」村長は言った。
「わかりました。だがそれには川の様子、村の様子、山の様子を詳しく調べる必要があります。」老人は言った。
「それならジョン殿がお手伝いしてくださるかもしれません。周辺のことをいろいろと調べておられるのです。この村によく来られます。」村長は言った。
「ほう。そんな方がおられるのかな。」老人の目が光った。ジョンに興味を持ったようだった。
「今も村に来ているはずです。そのうちこの屋敷に来るでしょう。それまでここでお休みください。」村長は言った。

 ジャカン大臣は王城の見晴らしのいい場所に立っていた。そこでバンキ商会の会長と話していた。そこに執行官が現れた。
「どうじゃ?鉱物の方は?」ジャカン大臣が尋ねた。
「はっ。順調に採掘できております。計画通りでございます。」執行官が言った。
「それならバンキ商会に売ればばく大な儲けが出よう。」ジャカン大臣が言った。
「いつもありがとうございます。儲けの金塊は大臣様の倉に納めさせていただきます。」会長は笑顔で言った。
「そうか。ふふふ。」ジャカン大臣は笑っていた。
「時に村の者がまた参りました。献上の品を少なくしてくれとの願いの筋で。川の水がどうとか、今までの鉱物採掘が原因ではないかと申しておりました。」執行官が言った。
「捨てておけ。奴らなど牢屋に入れておけばおとなしくなる。献上の品は例年通りじゃ。いや、見せしめじゃ。多くせよと吹っかけてやれ!もしできねば全員、牢にぶち込むとな。」ジャカン大臣が言った。
「しかしあの山は王家の物で鉱物採掘は禁じられているはず。もし王様のお耳でも入ったら・・・」執行官は不安そうに言った。
「ふふふ。王様など何の力ももっておらぬ。今も謁見場で、儂の息のかかった者たちからいい話を聞いて喜んでいるはずじゃ。他の者は誰も通さないようにしているのでな。先代の王様がなくなり、あの稀代の方術師、ハークレイ法師が送り込んだ者らしいが、儂にとってはただのお飾りじゃ。若いだけのただの世間知らずだから、都合よく報告していれば操るのは容易い。もしいらぬことを言えばあの者も・・・いや、言い過ぎたか。とにかく心配せずともよい。」ジャカン大臣はきっぱりと言った。
「はっ。それでは仰せの通りに進めます。」執行官は言った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...